女子会
「コウ、こちらです。」
ユリシアの声に従って向かった先で、見た光景に目を疑った。
何だ?この組み合わせは。
「コウ、待ってたよ。」
ユリシアの隣で紅茶を飲んでいたのはサクだった。
この2人の接点を思い浮かべようとするが難しい。
何故、第一王女であるユリシアの隣で侍女のサクが紅茶を飲んでいるのか理解が出来なかった。
ユリシアにお茶に誘われたのが昨日の事だ。
サロンでお茶会をしたいと誘われた。
お茶会など初めてだったがせっかく誘われたのだ、了承し訪れた結果がこのメンバーである。
私とユリシアとサクという異色のメンバーに、戸惑いを隠せなかった。
「サクには、今は私の侍女をしてもらっていますの。
デルヘンの聖女って聞いてたからどんな子かと思ってましたが、案外気の良い子で仲良くなりまして。
今日は友人としてお茶会に来て貰いましたわ。」
戸惑いが顔に現れてしまっていたようだ。
ユリシアは私に説明すると、ニッコリと笑った。
「デルヘンでの私は捨てたので。」
ユリシアに続きサクも笑顔でそう言った。
サクとユリシアが仲良くなったようで良かった。
サクがこの世界に馴染めるのは、私にとっても嬉しい。
私が空いている席に着くと、サクが紅茶を入れてくれた。
友人として参加と言っても、サクはきちんと立場を弁えていた。
和やかな空気のままお茶会の時間を過ごしていく。
久々ののんびりとした空気に、心が休まる。
話題はあそこのケーキ屋さんが美味しいとか、先日かわいらしいブローチを見つけたなど女子会らしい内容だった。
「そういえばユリシア様の婚約者ってどんな方なんですか?」
サクのこの一言で話題は恋話へと変わっていく。
「眼鏡の似合う、とても知的な方ですわ。」
そう言ったユリシアがはにかんだように笑う。
どうやらユリシアと婚約者は仲がいいようだ。
「いいなぁ、ユリシア様。
私にも王子様が現れないかなぁ。」
サクの言葉に少し驚いた。
サクが王子様に憧れるメルヘンな考えの持ち主だとは知らなかった。
「サクは...王子との結婚を望んでますの?」
ユリシアは躊躇を控えめに見せた。
恐らく本当の王子様だと勘違いしているのだろう。
侍女のサクでは王子との結婚が難しいと心配しているようだ。
「いや、例えというか...王子様っぽい人と恋をしたいっていうか。」
サクがユリシアに笑いながら説明をする。
ユリシアはそれに不思議そうな顔をしつつも安心したようだった。
「う〜ん...何て言ったらわかりやすいのかな。
そうだ!コウみたいな男の人と恋がしたいってカンジ!」
「なるほど!それならわかりますわ!」
突然、自分の名前が出されてギョッとする。
そしてパァっと顔を輝かせ納得したユリシアに、何とも言い難い気持ちになった。
「私、コウには城下町で助けて貰いましたの。
馬車に轢かれそうになった私を引き寄せて抱きしめてくれて...」
「キャーー!本当に王子様!
私はデルヘンで処刑されそうな所を助けてもらってね。
縛られた私の縄を切って、抱きとめると横抱きのまま馬に乗せて走り去ったの!」
「素敵ですわ!」
私の武勇伝で盛り上がる2人に、当の本人である私が取り残される。
しかしこうして他人から聞くと、自分の行いに女らしさがない事に引いてしまった。
「それなのに...」
サクは言葉を区切り私を見つめる。
「「コウが男だったらなぁ。」」
サクとユリシアの声が綺麗に重なるとそんな事を言われた。
2人とも心底残念そうな顔をしている。
そんな事を私に言われてもと思い、私は苦笑するしか無かった。
「巷で噂の夜色の騎士様が女性と知ったら、皆驚くでしょうね。」
「確かに...夜色の騎士様ねえ。」
「そういえば、何で私が夜色の騎士なんでしょうか?」
前からその通り名を疑問に思っていた。
丁度いい機会だから、ユリシアに聞いてみる。
「髪色と目の色ですわ。この世界ではどちらも黒色は珍しいですし。」
へぇと納得するとユリシアが言葉を続けた。
「因みに夜色の騎士様の前は、麗しの騎士様が話題でしたわ。
騎士団にいるセオンの事ですのよ。」
確かに顔の綺麗なセオンが噂になるのは理解できた。
「それから最近ではヴェルアリーグ教団のエマ様が、硝子の魔道士様って呼ばれていますわ。」
次々と出てくる通り名に感心してしまう。
見た目が儚げなエマにピッタリな通り名だと思った。
よくここまで通り名が思いつくものだ。
「そういえば、アルの通り名ってあるんですか?」
ここまで身の回りの人物に通り名がついているのだ。
王子で騎士団長のアルにも通り名はついていそうな気がする。
「アルお兄様ですか?そういえば聞いたことがないですね...」
「私、知ってる!薔薇の王子様でしょ?」
サクが言った薔薇の王子様という言葉に私とユリシアが顔を見合わせた。
「アルに薔薇の要素ってあります?」
「まったく思いつきませんが。」
私とユリシアが戸惑っていると、サクが得意気に笑った。
「薔薇が似合いそうだから、薔薇の王子様だって。」
確かに金髪碧眼のアルには薔薇が似合うかも知れない、見た目的には。
中身を知っている私とユリシアには、アルが薔薇を差し出す事などイメージさえ出来なかった。
「そうですわ、アルお兄様といえばコウ、その後はどうなってるんですの?」
「え?何々?
コウとアル様ってそういう関係?」
急に私に向けられた質問に焦ってしまう。
「えっと...私とアルはそんなんじゃ...」
他人の恋愛話だと楽しいと思って聞けるのに、それが自分のものとなると恥ずかしくなってしまう。
この世界ではずっと男だと思われていたし、日本でも似たようなものだ。
恋愛経験が皆無な私は、この手の話もほとんど経験がなかった。
自分とアルが恋愛関係になるなど考えただけで頬が熱くなる。
「なんか...可愛い。」
「ですわね。」
悶々と1人で考えては恥じる私に、サクとユリシアは温かい視線を送るのだった。




