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聖剣の声(アルフォエル視点)

聖剣を握ると、ゾワゾワと何かが入り込んでくるのを感じた。

聖剣と言われているのに、体に感じるものに仄暗さを感じる。


『新しい勇者か。』


頭の中に突然声が響く。

周りにいるコウ達を見てみるが、特に変わった様子はない。

この声が聞こえているのは俺だけのようだ。


『試練を受けるか。

 ではお主の魂の強さを試させてもらおう。』


そう言われると体から何かを引き摺り出されるような感覚があった。

聖剣を抜くとそれに反するように、自身の体から何かが吸い出される。

魂の強さを試すと言った通り、それはまるで聖剣に魂を吸われているようだった。

息が上がる、苦しい。

抜けてしまいそうになる力を込め直し、腕だけではなく全身に力が入る。


「おおおおぉぉぉ!」


そう叫びながら全力を込めると、聖剣は抜けた。


『見事だ、お主を勇者と認めよう。』


強い光を放つ聖剣を掲げる。

と、身体中の力が抜けた。


「アル!」


コウの声で呼ばれた名前を最後に、意識を手放す。

強い光の後に俺が見たものは、闇だった。





『おい。』


誰かに呼ばれ目を開ける。

おかしい、目を開けている筈なのに真っ暗だ。


『おい、聞こえているのか。』


暗闇の中に響く声。

その声に何故か聞き覚えがある気がする。

どこか落ち着くその声に、返事をするのも忘れぼんやりとしていた。


『...いい加減にしろ、聞こえているんだろ。』


「ああ。」


声の主が苛立ち始めたのを感じる、面倒くさいながら返事をする。


「お前は誰だ?」


『我は聖剣だ。

 元は一番最初の勇者だがな。』


「一番最初の勇者?

 俺に一体何の用だ。」


正直、聖剣が一番最初の勇者である事に驚きはある。

しかしコウが色々やらかしたお陰で、驚く事に多少は免疫が出来てしまっていた。


『勇者のお主に話して置きたくてな。

 勇者とは...呪いだ。』


「....どういう事だ?」


穏やかではない言葉に聞き返す。


『我の時代に誕生した魔王と我は幾度となく相対してきた。

 だがいつも倒す事は出来ず、封印するに留まっている。

 ...魔王は勇者と聖女を憎んでいる。

 それ故、何度も現れるのだ。』


「聖女召喚が魔王復活の原因だろう?

 つまりは聖女召喚が行われなければ、魔王は復活しない。

 違うか?」


『聖女召喚は魔王の導き。

 魔王が復活する為の布石。』


いまいち要領を得ない会話に、理解出来ずにいた。


「つまりどういう事だ?」


『魔王はこの世界で復活する為に、聖女をこの世界へ送り込むのだ。

 この世界で勇者になり得る者が存在する限り、魔王はそれを繰り返す。』


「勇者になり得る者...俺の事か?」


『勇者の証となる我も然り。

 我のせいで、魔王は誕生した。』


一番最初の勇者のせいで魔王が誕生した。

どういうことだ、一番最初の勇者は魔王を封印した最初の人物ではないのか。

今知らされている事と、歴史としての知識が一致しない。

この聖剣は本当に一番最初の勇者なのだろうか。


『我がお主と話せるのは今回限りだ。

 目を覚ませば、今の記憶も消える。』


「記憶が消える?じゃあ何故、こんな事を俺に話すんだ?」


『我の自己満足に過ぎぬだろうな。

 我の犯した罪の犠牲者に、せめてもの謝罪といったところだ。』


「いや、待て。

 謝罪にしたって一方的過ぎるし、それに...」


俺と聖剣との会話に割って入るように、暖かいものを感じた。

暗闇の中にキラキラと輝く光の滴。

...これはきっと、コウの魔力だ。

なんとなくそう直感した。


『これは...!?

 なるほど、もしかしたら今回こそ魔王を倒せるやも知れぬな。』


コウの魔力に聖剣が驚いた声を上げる。


『新しい勇者よ、聖女と共に魔王を倒してくれ。

 魔王を...解放してやってくれて...頼むぞ...』


「おっおい、解放って...」


聖剣の声が小さくなっていく。

暗闇だった視界が、徐々に明るくなってきた。

それと同時に、意識が薄れていく。


聖剣...一番最初の勇者...魔王...。






目覚めたのは教会都市で俺に与えた部屋のベッドの上だった。

何だか不思議な夢を見ていた気がするが、思い出せない。

ベッド近くに、コウの姿を見つける。


「コウ?」


俺の声に驚いたように肩を揺らすと、コウは俺の方に向き直った。

その顔は酷く青ざめて見える。


「コウ、どうした?

 顔色が悪いぞ。」


ベッドから起き上がり、コウの顔を覗き込む。


「なっ何でもない、大丈夫。」


コウはそう言って、笑みを浮かべて見せた。

無理に笑っているのはわかるが、コウがそれを悟られないようにしているのがわかると追及は出来なかった。


「そうだ聖剣...聖剣はどうなった?」


意識を失った直前の記憶が曖昧だ。

無事抜いたような気もするが、はっきりと覚えていない。


「聖剣ならアルが無事に抜いたよ。

 今はまだ、中庭に置いたままになっているから落ち着いたら取りに行かないと。」


そう言ったコウの表情はぎこちなかったが、無事に聖剣を抜けたと聞いて安心する。

何だか疲れた。

今まで寝ていた筈なのに、疲れが全然取れていない。


俺はコウにもう少し眠ると伝えると、再びベッドに横になった。






これは余談だが目を覚まし聖剣を拾い上げた俺を、エマも総大司教様も何故か暖かい目で見てきた。

それに気を失った俺がベッドで目覚めた事も、皆が話題を避けていた。

...コウだ、きっとコウがまた、何かをやらかしたのだろう。

そうは思うが、俺は問い質す事をしない。

気を失った俺をコウが抱えて運んだなんて聞いたら、居た堪れない。

世の中には触れない方がいい事もある。

俺の面子の為にも、これに関しては聞かない事にした。

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