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勇者と聖剣

総大司教様に続いて行くと、中庭に案内された。

朝の光が差し込み、草木がキラキラして見える。

聖剣はその中庭の中央に眠っていた。

思い描いていた聖剣よりもスラリと細い聖剣は、不思議な空気を纏っている。

中庭に雨晒しであったはずなのに、聖剣は美しい姿を保っていた。


「雨や風に影響される事のないこの姿は、神の御力によるものなんじゃ。」


何故こんな中庭に雨晒しなのかと思ったが、神の加護がある為なんの問題もないらしい。

そう言われると、朝日を浴びた聖剣はなんだか神々しく見えた。


「勇者殿、この聖剣は勇者にしか抜けぬ。

 勇者以外には1ミリも動かす事は出来ないのじゃ。

 それはつまり、少しでも動いたら勇者だと言う事。

 最初の試練と言われるだけあって、聖剣を抜くのは至難の業じゃ。

 諦めずに頑張りなされ。」


総大司教様の言葉に頷き、アルは聖剣の柄を握った。

その手が少し震えているように見える。

私はドキドキと早まる鼓動を手で押さえ、アルを見つめた。


聖剣を握るアルの手が筋張り、力を込めたのが分かる。

すると聖剣が僅かに上へずり上がった。


動いた!


声には出さなかったが、その場に居た皆がそう思った。

アルと聖剣を食い入る様に見つめる。

ゆっくりと少しずつ抜けていく聖剣に、アルが勇者であると証明される。

だが試練はここからだ。

グッと力を込めたアルの額に大粒の汗が浮かぶ。

力を入れ続けている為、腕は震え息は切れ始めた。


その様子を見ているこちらも思わず力が入ってしまう。

爪は掌に食い込み、奥歯をギリリと噛み締めてしまっていた。


アルも少しでも力を抜くと、すぐに戻ってしまいそうな聖剣を必死に握り締める。

頬を伝った汗がポタポタと足元に水玉模様を作った。

肩が上下し、呼吸が荒くなっているのが分かる。


「おおおおぉぉぉ!」


アルが声を上げて、全力を注ぎ込むと遂に聖剣はぬらりと抜けた。

それと同時に聖剣から青白い光が放たれる。

アルが掲げた聖剣はより一層強い光を放った。

その光の中、グラリとアルの体が傾くのが見える。


「アル!」


光が収まると聖剣はカランと音を立てて転がり、アルはそのすぐそばに倒れ込んだ。

倒れたアルに駆け寄り、その体を抱き抱える。

まだ呼吸は荒いまま、気を失ったアルの頬に手を添えた。


「力を使い切ったのじゃ。

 大丈夫、心配しなくても時期に目を覚ましますわい。」


総大司教様の言葉に安心する。

エマもオロオロと心配した様子だったが、その言葉に安堵の息を吐いた。


「では部屋に運んで寝せないと。」


私がそう言うと、エマが誰か人を呼びに行こうとする。

それを制すると私は、アルの体を風魔法で浮かせた。


「ちょ、ちょっとコウ!

 何やって...」


その様子にエマは驚きの声を上げ、総大司教様は絶句している。


「さすがにお姫様抱っこじゃ、アルのプライドに傷をつけるから風魔法でこのまま運ぶよ。」


エマも総大司教様ももはや何も言わない。

2人の視線が私の隣にフワフワと浮かぶ、アルに向けられるがそれに哀れみが篭っているのは気のせいだろうか。

私はフワフワとアルを隣に浮かせたまま、アルの部屋に行くと静かにベッドに横たえた。

すっかり冷たくなってしまった、アルの額に浮かぶ汗が目に入り洗浄魔法をかける。

落ち着いたアルの様子を確認すると、私はアルの部屋を出て中庭へ戻った。




「ちゃんと寝かせて来ましたよ。」


中庭に立ち尽くしたままのエマと総大司教様に声を掛ける。

エマは引きつった笑みを浮かべながら、そうとだけ言った。

ふと先程アルが引き抜いた聖剣に目を向けると、それが鞘に収まっている事に気付く。

不思議に思ってエマに聞くと、光が聖剣に吸収される様に収まると鞘が現れたと言っていた。

アルにばかり気を取られていた私は、それに気付かなかったようだ。


「聖剣、アルの部屋に持って行った方がいいかな?」


私は転がったままの聖剣を拾い上げる為に屈む。


「待つのじゃ、それは...!」


総大司教様が何か言おうとするが、私はその前に聖剣を拾い上げてしまった。

聖剣を片手にえ?と振り向く私に総大司教様があんぐりと口を開ける。

それに戸惑い、エマを見るがエマは額に手を当て首を振った。


「せっ、聖女様!

 何故そなたが聖剣を手にできるのじゃ!?」


言われた意味がわからず、助けを求める様にエマを見るとエマはやれやれといった感じで話す。


「聖剣は勇者じゃないと1ミリも動かせないって、さっき総大司教様が言ったじゃん。」


「それって抜く時の話でしょ?

 持つ位誰にでも...。」


「出来ぬ。

 聖剣は勇者以外は持ち上げる事も出来ぬ。」


強い口調で総大司教様に言われると、なにやらまずい事をしたように思える。

私は持ち上げた聖剣をそっと元の場所に戻した。


「エマ、今回の聖女様はどうもおかしい。

 お前がしっかりと付いて見ておくのじゃ。」


「はい、コウが規格外なのはここ数日の旅で十分わかっています。

 僕も聖女様が何か起こさぬように見張るつもりです。」


...そういう会話は、本人がいないところでやって欲しい。

深く頷き合う2人を目の前に、そう思ってしまった。

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