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私だけの魔法

「エマ、お前あんまりふざけた事するなよ。」


「アルは状況が分かってたんだから、教えてくれれば良かったじゃん。」


アルとエマはお互いに軽口を叩きながら、馬車に荷物をつんでいく。

幼馴染みと言っていた仲の良い2人の関係が羨ましい。


エマは先程まで被っていたローブのフードを取り、ローブの前も開けている。

ローブは首元を紐で結んでいるだけなので、エマの体格も見てとれた。

女の子にしては短い髪も、薄い体もエマの少年らしさが強調されている。

やはり先程アルが言ったように、エマは女の子の振りをしていたようだ。


「コウ、お前の荷物が少ないようだがそれだけか?」


私の片手に収まる荷物に、アルは困惑しながらそう言った。

私の荷物のほとんどは、アイテムボックスに収納されている。

だから手に持っている荷物は少ない。

私がそれをアルに伝えようとするが、エマの声に遮られる。


「あのさ、アルは何で聖女様にそんな口の利き方な訳?

 聖女様は神の代弁者だよ?

 例え王族だとしても、そんな言葉遣いじゃダメじゃない?」


「いや...会った時からずっとこうだったからな。

 今更直せないというか...」


アルは私に探る様な視線を送る。

その様子に私は慌てた。


「辞めて下さい、今のままで大丈夫です。

 エマ様もどうか私の事はコウとお呼び下さい。

 敬語も不要ですので。」


私の言葉にアルは安心し、エマは目を丸くした。


「何か...コウって変わってるね。

 聖女様ってもっと高飛車なイメージだった。

 コウ、僕の事はエマって呼んで。

 僕に対しても敬語は要らないから。」


そう言って笑顔を向けるエマに、嬉しくなる。

神の代弁者などと言われて、エマから距離を取られては寂しいと思っていたからだ。


「わかった、エマ。」


私がエマに笑いかけると、アルが不服そうな顔をする。


「何故エマは呼び捨てで、俺には様を付けるんだ。

 俺もアルと呼べと言ったのに。」


「アルは態度が偉そうだからだよ。

 僕みたいに、友好的だと警戒心を抱かれないんだ。」


アルの言葉にエマは勝ち誇った様に胸を反らした。

アルは府に落ちないと言った表情をしている。

確かにアルには小屋にいた時に、アルと呼べと言われた。

だがその時も様を付けて呼んでしまい、それをアルから咎められる事はなかった。

だからそのまま様付けだし、敬語を使っている。

それを実はアルが気にしていたのかと思うと、何だか面白かった。


「コウ、これからは俺にも敬語は禁止だ。

 様も付けるな。」


「ほら偉そうじゃん。」


アルとエマのやり取りに、思わず笑いが漏れてしまう。

本当に仲がいいなぁ、と思いつつ私はアルを見た。


「わかった、慣れるまで時間が掛かるかも知れないけど。

 アル、よろしくね。」


私がそう言うとアルは少し驚いた表情を見せた後、顔を逸らしてしまった。

ああ、と言ったアルの声が小さい。

もしかしたら照れているのかも知れないと思うと、何だかアルとの距離が縮んだ気がした。





「教会都市まで馬車で行くの?馬の方が早くない?」


荷物を積み込み、しっかりと準備された馬車を前にアルとエマに聞いてみた。

アルもエマも、この荷物を見て何を言ってるんだという視線を送ってくる。


「確かに馬の方が早いけど、この荷物じゃ...ねえ。」


エマが苦笑を浮かべる。

確かに言いたい事はわかる。

馬だけではこの荷物を運べないと言いたいのだ。


「アイテムボックスに入れれば、馬車は必要ないんじゃない?」


アルとエマの頭の上に疑問符が見える。

アルは魔法が得意ではない様なので理解しないのはわかるが、魔道士であるエマには通じると思っていた。

私は馬を荷台から外すと、アイテムボックスを開いた。

それに荷台を収納すると、2人の目が点になる。


「え?は?はぁ?

 荷台が消えたんだけど、どういう事?」


必死に疑問を口にするエマに対して、アルは何も言葉を発しず固まっている。

その2人の反応に、私はまたやらかした感を感じて荷台を元に戻した。

再び目の前に現れた荷台に、2人が絶句する。


「コウ...少し話そうか。」


そう言って向けられたエマの笑顔は、少し青ざめていた。





「いや、そんな魔法聞いた事ないから。」


私が長々とアイテムボックスの説明をすると、エマはそう言い放った。

私が魔法と認識して使う前から使えたし、日本で見ていたラノベなんかで使われる事が多かった為この世界でも知識として位は理解されていると思っていた。

もしかしたら使える人は少ないかも知れないが、知られている魔法だろうと。

しかしそれがエマによって否定されてしまう。


「じゃ、じゃあ、聖女が使える魔法とか。」


「...僕、教団で聖女の知識は沢山得たけど、そんな魔法が使えたなんて聞いた事ないよ。」


聖女なら使える説もエマは否定する。

チラリとアルを見ると、お前はまた...と言いたげな顔をしていた。

この世界の魔法はイメージだ。

私のラノベで培った知識が、アイテムボックスの魔法を可能にしたのかも知れない。

だとすればアイテムボックスを使用できるのは聖女に限らない。

イメージさえ出来れば、魔力の多いものには使える様になるのかも知れない。


「イメージで使用可能な魔法なら、エマにも使えるって事だよね?

 じゃあ想像してみてよ、こう...四次元にアイテムを出し入れするのを。」


「何それ、四次元って何?

 そもそもそれがわからないんだから、イメージのしようがないでしょ?」


片手を腰に当てて、エマは軽くため息を吐いた。

青色のロボットのポケットが四次元に繋がっているアニメを知らないこの世界の人には、そのイメージすら湧かないようだ。

きっと私が必死で説明したところで理解して貰えないだろう。

残念だが、アイテムボックスは私しか使う事が出来ないらしい。


「...とにかく、荷台ごと収納すれば馬で行けるんでしょ?

 もう、それでいいんじゃない?」


実際、先程やってみせたのだ。

それは現実として受け止めてもらう他ない。

アルもエマも呆れた様子だったが、納得はしたようだ。

私は2人の了解を得ると、荷台をアイテムボックスに収納した。

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