同じ女子高生
「まさかコウが聖女だったなんてね。」
そう言ったサクは呆れた様に笑った。
私は今、サクの部屋に居る。
サクの処遇が決まったと聞き、私はサクに会いに来た。
今はまだ、城の客室に居るが、明日には別の場所に移るらしい。
「私自身、今でも信じられないよ。」
私がそう言うとサクは少し驚いた様に目を丸めた。
「なんかサクが敬語じゃないの新鮮。」
ふふっと笑ったサクは、今はもうこの世界に来た時の様なメイクはしていない。
サクの荷物はデルヘンに置いたままになってしまった。
その為、サクはほぼ素顔に近い位のメイクしかしていなかった。
そのサクが笑うと少し幼く見え、私も釣られたように笑顔になった。
「同じ女子高生だしね、もう聖女と騎士じゃないから。」
「えっ!?コウって女子高生なの!?」
笑っていたか思えばまた驚きの表情をする。
サクの表情はコロコロと変わって面白かったが、ここまで驚かれるとは思っていなかった。
「そうだけど。」
サクが私を観察するように、上から下まで何度も視線を送る。
まぁ、出会った時が男装でしかも騎士だったのだ、信じられないとは思う。
「ダメだ、どうしても王子にしか見えない。」
サクのその反応に声を出して笑ってしまった。
だがサクは本気だったのだろう、小さく何よと言うと不満げな視線を送ってきた。
「いや日本にいた時、学校で王子って呼ばれていたから。
やっぱり王子なのかと思うとなんかおかしくて。」
「つまり私は普通の感覚の持ち主だったって事でしょ?
やっぱりコウは王子なんじゃん。」
サクの言葉に苦笑する。
サクはそのまま言葉を続けた。
「ってか、コウが聖女だったんなら最初に言ってくれたら良かったのに。」
「あの時はまさか自分が聖女だとは思わなかったしね。
それにサクが、わたしが聖女です!って言うからそうなのかと思ってた。」
不貞腐れた様な顔で言われたが、私の返答に今度は焦り顔になる。
サクは本当に表情豊かだ、見ていて飽きない。
「だって、あれはその...。
あの場に女は私1人だったし、そう思うじゃん?」
「それにあの場で私が聖女だって言っても誰も信じなかったと思うよ。」
「確かに。」
そこまでハッキリと納得されてしまうと、なんだか物悲しい。
サクはうんうん頷くと、私を見た。
「そういえば私、このお城で働く事になったんだ。」
サクの言葉に私も真面目な顔になる。
「聞いた、侍女としてここで働くって。」
サクに下された処遇は侍女として、この城で働くという事だった。
監視の意味も込めて、城に置くことになったらしい。
「うん、正直助かったなって思ってる。
やっぱりこの世界で生活するなら、住むところも働くところも必要だし。」
確かにそうだ。
突然この世界に連れて来られた私達にとって、住む場所はとても重要だった。
侍女なら、寮もあるから住む場所には困らない。
仕事も決まっていればこの世界で生活が出来る。
アルの悪いようにはしないという言葉は実行されたようだ。
「明日には侍女寮に移るから、この客室とも今日でお別れ。」
サクはそう言って部屋の中を見渡す。
この部屋にいた時間は短い。
デルヘンから脱出してから今日までの数日だ。
しかしサクには思い入れがあったようで、部屋の中を見渡す目は優しい。
「実は侍女の中に、もう仲良くなった子がいるんだ。
ここに来てからお世話してくれてた子なんだけど、気が合って仲良くなったの。」
そう話すサクは嬉しそうだ。
この国の人々は、デルヘンの人達に比べて優しい人が多いと思う。
私もこの国の人達には優しくされた記憶しかない。
サクがその侍女と仲良くなった事に安心する。
サクもデルヘンでは辛い思いをしただろう。
それがこの国で癒されればと思ってしまう。
「そっか、仲が良い子がいるなら安心した。
慣れない仕事で大変だと思うけど、頑張って。」
そう言って私がサクに笑いかけると、サクは頬を赤らめた。
サクのこの表情は久し振りに見た。
「...やっぱりコウは王子様だ。」
そう言ったサクの声は小さい。
サクはフイと顔を背けると、黙ってしまった。
サクのその行動にまた笑いそうになるが、我慢する。
ここで笑ってしまったら、サクは本当に機嫌を損ねてしまいそうだ。
「コウ...」
また小声で名前を呼ばれる。
私がサクの顔を見ると、サクと目が合った。
「あの時...助けてくれてありがとう。」
サクの表情は真剣だった。
死んでもいいと言ってしまった事を気にしていたのだろう。
ありがとうと言って貰えた事で、サクを助けに行けてよかったと思える。
私はまた微笑み、サクの頭をポンポンと軽く叩く。
サクの頬は再び朱に染まったが、サクは目を逸らさなかった。
「コウは今度、勇者の聖剣を一緒に取りに行くんでしょ?
気を付けてね。」
そう言ったサクに頷いて返事をした。
サクがギュッと抱きついて来て驚いたが、私はそのままにさせていた。
私はこれから、勇者と共に旅に出る事になる。
サクとは今度、いつ会えるかわからない。
サクは私から離れると、笑顔でいってらっしゃいと言った。




