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英雄の剣

聖女降臨式の翌日、私はアルと待ち合わせをしていた。

過去の聖女の事を知りたいと言った私に、歴史館を案内してくれるという。

待ち合わせ場所に先に着いた私は、人の流れをぼんやりと眺めていた。


行き交う人々は様々だ。

当たり前の事だが色んな人がいる。

こうして街中では平和に過ごしている人達が沢山いるのに、外に出れば魔物が彷徨き命を落とす者もいるのだ。

まだ魔王は復活していない。

しかし徐々に増えている魔物は魔王の復活が近い事を知らせていた。

前は騎士として戦おうと思っていた。

でも今は聖女として戦わなくてはいけない。

私の聖女としての知識はごく僅かだ。

正直何が足りないのかさえわからない。


「どうした?ぼんやりとして。」


いつに間にか隣にいたアルに声を掛けられる。

ハッとしてアルを見ると、アルは不満げにこちらを見ていた。


「昨日の今日でその服か。」


私は今日、騎士の格好をしている。

まさか昨日の聖女の格好で出歩く訳にもいかないし、それ以外に女性物の服などあまり持っていない。

その結果、いつも着慣れている騎士の服に落ち着いた。


「ダメでしたか?」


「...別に構わないが。」


アルが私の服装を気にするとは思わなかった。

だがこれまでも騎士の服で不都合はなかったし、今後も騎士の服の活躍の場は多いと思われる。


「まぁいい、行くぞ。」


そう言って歩き出すアルの後に続いた。



英雄・聖女歴史館と書かれた建物に着いた。

建物全体がグレーに統一されていて、辺りの景色と馴染んでいる。

歴史館の中に入る人は少ないようで、私とアル以外は人がまばらだった。


この歴史館にはベーマール王国に留まった聖女や、この国出身の英雄の所持品などが展示してあったり、召喚された聖女の事が書かれた書籍があるらしい。

英雄とは魔王の封印に多大な活躍をした者を言うようだ。

大抵は勇者が英雄になる事が殆どだったが、勇者が見つからなかった時でも英雄は存在する。

勇者ではない英雄は聖剣を使えない為、その者の剣が残されていたりするらしい。


聖女の事が書かれた書籍を読んでみた。

歴代の聖女の事を文章で知る。

どうやら私は29番目の聖女になるようだ。

魔王の復活と聖女召喚の関連が知られていなかった時代は、聖女を絶やさぬように聖女が亡くなると次の聖女を召喚していたらしい。

聖女の召喚は必ず成功するものではなかったので、召喚に成功するまで何年も掛かる事もあり、およそ70年〜100年に一度聖女が召喚されていた。

それが魔王復活のタイミングに合わせた召喚となっていたようだが、実際はその召喚が原因で魔王が復活していたという事になる。

ここ800年は魔王の復活と聖女召喚の関連が判明した為、定期的な召喚は行われていない。

私の前に召喚された聖女が発見されなかったが、魔王は復活したので聖女召喚が明らかになった。

力試しにベーマール王国で召喚されたという聖女は恐らく小百合の事だろう。


「あの、アル様。

 この発見されなかった聖女って...」


「前にコウが言っていた、小屋で眠る聖女の事だろうな。

 この聖女が召喚されたのは、今から200年前の話だ。

 魔王の復活と聖女召喚の関連がわかってからは、協定国同士で聖女召喚禁止した。

 だが己の力を示す為に召喚する輩は居てな。

 我が国でも力試しに聖女を召喚した奴がいた、それが発見されなかった聖女だ。

 召喚を行った者は処刑された。

 同じ事を行う奴が現れないよう、必要なことだったんだろう。

 それ以来、我が国では聖女召喚を行う奴は出ていない。」


アルの言葉にやはりと納得する。

発見されなかったということは、小百合の事は探したのだろう。

だが人避けの結界のおかげで発見出来なかった。

それが小百合を孤独にさせたのは、なんとも皮肉な事だ。


展示品を見ながら奥へ進んで行く。

そこで私は一番奥に展示された剣に目が留まった。

所有者の名前にドキンと心臓が鳴った。

そこにはノーラニットの名前があった。


「アル様、これは...」


ノーラの名前が良くあるものなのか分からない。

もしかしたら別人かもという思いと、ノーラであって欲しいという思いが両方湧き上がる。


「これは発見されなかった聖女の時代の物だ。

 勇者ではなかった数少ない英雄だったノーラニットは、勇者さながらの活躍をしたと言われている。

 魔王封印の折に亡くなってしまったが、同行した者がこの剣を持ち帰ったんだ。」


展示されている剣を良く見る。

剣の柄の部分にはお守りが縫い付けられていた。

日本語で御守と書かれたそれは、小百合が渡した物だと想像がつく。


「アル様...このノーラニット様は、小屋に眠る聖女の想い人です。

 ノーラニット様は昔の聖女を救い、一緒に小屋で過ごしていた方なんです。」


私は小百合が書いた日記の事をアルに話した。

小百合とノーラが思い合っていた事、小百合がノーラの帰りを待ち続けていた事。

アルは何も言わずに私の話を聞いてくれた。


「この剣を昔の聖女に返してあげる事は出来ませんか?」


ノーラの代わりにこの剣を、小百合の元へ持って行ってあげたい。

もう亡くなっている2人だが、せめて小百合にノーラの遺品を渡してあげたかった。


「しかし、な。」


アルも困った様子だが、私もお世話になった小百合に何かしてあげたかった。


「私がこの剣のレプリカを作ります。

 展示品をそのレプリカにして、これを昔の聖女に渡してあげたいんです。」


「レプリカ?そんな物が可能なのか?」


私はうな頷くと、剣に手を翳した。

要領は『増殖』と一緒だ、出来る自信はある。

白い光が剣を包み、今度はその光が私の手に移動する。

私の手には、展示品と同じ剣が握られていた。

アルはそれに驚いたようだったがすぐに、歴史館の館長を連れて来た。


「この剣をレプリカと交換してくれ。」


私から受け取った剣をアルは館長へ渡す。

館長はしかし...と困った様子だったが、王族であるアルには何も言えなかった。


「大丈夫だ、俺が責任を持つ。」


アルにそう言われると館長は渋々、剣を交換した。

その剣を受け取ると私は、ギュッと胸に抱き締めた。


「アル様、ありがとうございます。」


無茶を言ったのはわかっている。

アルがその無茶を聞いてくれたのが嬉しかった。

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