デルヘンの聖女処刑の日(サク視点) 〜中編〜
今日も聖女修行が行われる。
相変わらず何も出来ないし、何の進展もない。
こんな修行に意味があるのかな?
言われても分からない事をやれって言う方が無理だと思わない?
私に魔法を教えているローブの男が若干苛立っているのがわかるけど、こっちだってイライラする。
勝手に呼んだのはそっちでしょ?
そもそもやれるのが当たり前って考えがおかしいんだよ。
でっぷり国王とモヤシ王子は毎日のように私のご機嫌取りに来る。
そうでしょ?聖女である私が必要なんでしょう?
だったらあのローブの男を何とかして?
アイツの教え方が悪いんだよ。
そう言ってやった翌日にはローブの男が変わった。
服装は同じだけど別な人になった。
新しいローブの男は何かに怯えたようにオドオド喋る。
もしかして前のローブの男に何かあったの?まぁ知らないけどね。
アンタも私の機嫌を損ねると、即交換だから。
コウがこの国の騎士に勝負を挑まれたって聞いた。
勝負を挑んだのは元々、私に付く予定だった騎士のようだ。
新しいローブの男は、結構口が軽いので色々教えてくれる。
私のコウになにしてくれちゃった訳?って思ったけど、コウが打ち負かしたって聞いて胸が熱くなった。
何、何!?
コウったら私の為に戦ってくれちゃったの!?
返り討ちにしちゃうなんて格好良すぎる!
しかもそれを自分から話さないのがまた格好いい。
ひっそりと私を守ってくれる、そんなコウが堪らなく格好良かった。
コウともっと仲良くなりたい。
コウを私だけのものにしたい。
コウの全てが欲しい。
そう思っていた私は手に入れてしまった。
媚薬を。
お香になっているそれは、焚くと男の人に効く匂いがするらしい。
自室でお香を焚き、そこにコウを案内する。
コウを部屋に残してお風呂に入った。
今頃コウは、お香が効いてくるはず。
コウと一つになれる。
ドキドキと高鳴る胸を抑えるように、平静を装った。
「コウ...なんかカンジない?」
紅茶を飲みながら、探りを入れる。
コウに変わった様子は見られないけど、媚薬ってこんなもんなの?
初めて使うから分からない。
「何か、とは?」
コウに真っ直ぐ見つめられて顔に熱が集まってしまった。
何?コウってば私に何を言わせるつもりなの??
「身体が...熱かったりとか。」
ドキドキし過ぎて自分でも声が上ずっているのがわかる。
「聖女様、お疲れなのではないですか?
私は部屋に戻りますので、ゆっくりお休み下さい。」
様子のおかしい私を気遣っての事だろうか?
それともお香が効いてきてヤバいから部屋に戻ろうとしているのだろうか?
もし後者なのだとしたら、コウを帰す訳にはいかない。
「コウ...」
私を気遣う様子でベッドへ運んでくれたコウの名前を呼ぶ。
自分でもコウを見つめる視線に熱が籠ってしまうのがわかった。
自らの服のボタンに手を掛け、ゆっくりと外していく。
その私の行動に驚いたように、コウは目を見開きそして逸らした。
コウの頬が朱に染まっている。
私はコウの手を引くと、コウを抱き寄せた。
「コウ...あなたが好き。
聞いたわ。私の騎士でいる為に戦ってくれた事。」
私の腕の中にあったコウの体に力が籠り、硬くなったのを感じる。
緊張しているんだろうか。
と、その直後コウは慌てたように私から身を剥がした。
「せっ、聖女様、おやめください!」
慌てたようにそう言ったコウの顔は赤い。
「何故?コウ。あなたも私を好きなんでしょう?
お香も効いて来るはず。我慢しなくていいんだよ?」
私はそう言って、もう一度コウを抱き寄せようとした。
「聖女様...私は、私は女です。」
コウの言葉に目が点になる。
思考が追いつかない。
何を言われているのかわからなかった。
「お..んな?」
コウに言われた事を反復する様に口にする。
「聖女様、申し訳ありません。騙すつもりは無かったのです。
ですが結果として騙す事になってしまいました。」
コウは私へ謝罪を口にした。
申し訳なさそうにしたコウの顔が目の前に映る。
コウが...女。
頭でそう理解した途端、血が昇るのを感じた。
カッと昇った血が怒りに変わる。
「私を騙していたのね!この裏切り者!
男だと思って...顔がいいから助けてやったのに!」
大声が出た。
悔しい、悔しい、悔しい!
今までコウは私を騙していたんだ。
私がコウに必死にアプローチしていたのに、その相手が女だった事に恥ずかしさと苛立ちの感情がぐちゃぐちゃになる。
「聖女様!如何された!」
私の声に駆けつけた兵士の声が聞こえた。
いつの間にか部屋の扉は開け放たれていた。
室内に入って来た兵士の男の顔が、お香に匂いに歪んだがそんな事は構ってられない。
「コイツが...コイツが私を襲って来た!
今すぐ殺して!」
思わずコウを指差してそう言った。
私の言葉に、集まった者達が怒りを露わにする。
私の部屋から逃げ出すコウを、私はずっと睨みつけていた。
「聖女様、お可哀想に。」
私の世話係の侍女が乱れた服を隠すように肩からシーツをかけてくれる。
その間も私の怒りは収まらずに、気の荒い猫のようにフーフーと息をした。
その後、侍女からお茶をもらいなんとか落ち着いてきた私の所へ兵士が戻って来る。
そこでコウを取り逃したと聞いた。
さっきまでここにいた奴も捕まえられないなんてなんて無能な奴らなんだ。
再び私の怒りが再発する。
何奴も此奴も私の思い通りに動かない。
私は聖女なのに、なんでこんなに苛立つ事ばかりなんだ。
そうだ、またあのでっぷり国王とモヤシ王子に言いつければいいんだ。
私の思い通りに動かない奴らなんか、私の前から消えちゃえ。




