デルヘンの聖女処刑の日(サク視点) 〜前編〜
何故こんな事になった?
私は聖女としてこの世界に来たんじゃなかったの?
今のこの状況が理解出来ない。
私が何をしたの?
普通の女子高生だった私は気が付いたらこの世界にいた。
友達とカラオケに行って帰りの電車に乗った所まで覚えている。
いや、確かその後最寄り駅で降りた。
薄暗い住宅街を自分の家に向かって歩いていたら足元が光出したんだ。
その後気付いたら...この世界にいた。
魔法陣の上で気を失っていた私は大いに混乱した。
目覚めたら知らない場所に居たのだ、混乱するなと言う方が無理な話だ。
「何?!ここ!」
思った事をそのまま口に出す。
誘拐にしたっておかしい。
こんな場所、現実世界では見た事もなかった。
「...何故2人いる?」
魔法陣の外側にいた男の声が聞こえた。
2人?何の事?
そう思い辺りを見渡すと、私の隣にいた人物に目を奪われた。
格好いい、ものすごく格好いい。
サラサラとした黒髪が憂いを帯びた目にかかっている。
それさえも格好いい。
私にはよくわからないが、騎士の様な格好と言えばいいのかな?
凛々しい姿から覗く、心配そうに揺れる瞳から目が離せなかった。
「キリュウ サクか?」
知らない男に名前を呼ばれてぞわりと背筋が冷たくなる。
「なんで私の名前を知ってるの?」
私の名前を呼んだ男の満足そうな顔に、顔が引きつった。
「ココはどこなの!?なんで私の名前を知ってるのよ!」
私の問いには答えようとしない男に苛立つ。
こんな状況になったのは絶対にここに居る奴等のせいだ。
怖いとも思うがそれがさらに私の行動を加速させる。
威嚇する様に叫んだ私の言葉に、ようやく男が答えた。
ここがデルヘンという場所で、聖女召喚を行なっていたと言う。
「そなたがキリュウ サクと言うことは、そなたが聖女なのだな?」
聖女という言葉に反応する。
聖女であれば、この状況から助かると言う事だろうか。
「私...私が聖女です!」
正直、聖女が何だかもよく分からない。
今流行りの異世界とかにそんなのが出てきた気がした。
私の言葉に男がニヤリと笑った様に見えた。
「やはり女性の方が聖女か。
なら男の方に用はない。
殺せ。」
殺せと言う男の言葉に思考が停止した。
殺せ?それって人の命が奪われるって事?
何でそんな事になったの?
停止した思考のまま見ていると、剣を持った男達が私の隣に居た騎士に剣を向けた。
「まって!その人を殺さないで!」
思わずといった感じで声が出た。
私が止めた事で、訝しげな視線が私に集まる。
「何故その者を庇うのだ。」
何故?そんなことは決まっている。
格好いいこの人を殺して欲しくない。
それに目の前で人が殺されるなどゴメンだ。
「私が聖女として必要ならその人を殺さないでよ。
その人、私に頂戴。
あなた騎士?なんでしょ?私の側で私を守ってよ。」
「そんな得体の知れない者を側に置くか。
護衛ならこちらで用意する。
その者は必要ないだろ。」
「得体の知れないのは全員よ。
私の知ってる人なんか誰もいないし。
だったら私はこの人がいい。」
男は私に何とか騎士を諦めさせようとしてるけど、私は譲る気はない。
側にいるならイケメンがいい。
小さい頃に憧れていた王子様が今、目の前にいるのだ。
王子様なんかいないと諦める事を覚えてしまった私には最後のチャンスかも知れない。
こんなイケメン王子とお近付きになれるのは。
男を無理矢理納得させると、騎士は私の騎士になった。
これが私とコウの出会い。
聖女になった私には誰も彼もが優しくしてくれた。
コウも側に居てくれる。
私にとってここはとても居心地のいい場所になっていた。
不満があるとすれば、面倒な聖女修行。
後はでっぷりとしたお腹を揺らしながらやって来る国王と、ヒョロヒョロとしたモヤシみたいな王子の話相手をしなくちゃいけない事位だ。
正直あんなネズミ顔のモヤシを王子なんて認めてたくない。
私の中での王子はコウだけだった。
聖女修行と言われてローブの男が色々言って来るけど、何を言われているのかさっぱりだった。
魔法核って言われても全然わかんない。
魔力を込めるってどうしたらいいんだろ?
こんな意味のない修行にもコウは付いて来てくれる。
コウが居てくれるから、聖女修行をやろうって思えた。
城下町に行きたいって言ったら、渋々オッケーを貰った。
普段、聖女修行を頑張っているんだからこの位、許してくれてもいいと思う。
コウも誘って城下町に行く事になった。
こうやってコウと出掛けるとデートみたい。
護衛とか言ってローブの男や他の騎士が付いて来てるけど、気にしないでデートを楽しむ事にした。
服屋に入ってこの世界の服を見る。
「ねえ、コウ。
この服を買おうよ。」
私が選んだのはごく普通の平民服だった。
コウには男物、私には女物をそれぞれ選んだ。
「今度この服を来て、お忍びでデートしようよ。」
私がそう言うと、コウは困った様に笑った。
そのはにかんだ様な表情にキュンとする。
普段はあんなに格好いいのに、こんな可愛い顔もするなんて反則だ。
私は赤くなったしまった顔を隠すようにコウの腕に抱きつき、へへと幸せそうに笑った。




