デルヘンの聖女救出作戦 〜後編〜
朝になり、朝食を食べるとすぐに出発する。
宿の女将がお昼にとパンや果物を持たせてくれたのがありがたい。
今日も一日、馬に揺られる事になる。
馬に跨る皆の表情が引き締まった。
その後2日間は近くの村や町に泊まり過ごした。
王都から離れると自国の王子でも顔はあまり知られていない様で、アルが王子と気付かれる事もなかった。
ベーマール王国では順調な旅だったが、今目の前には国境の検問所が待ち構えている。
王子である事を隠しつつここを通るのは難しそうだ。
「身分を偽ってこちらからデルヘンへ入る事は出来ますが、帰りを考えると難しいですね。」
セオンの言葉にアルも頷く。
帰りにはサクも連れて来る事になる。
行く時に身分を偽り通ると帰る頃のは不審な者が通ったと、ここの警備が固くなってしまう。
それは避けたかった。
「周り道をしましょう。」
私はそう言って、アミーと渡った川へ向かった。
「ここを越えるのは無理だろ。」
流れの早い川に先輩騎士が呟く。
先日降った雨のせいで、水嵩は増していた。
馬ではアミーの様に飛び越える事も難しい。
私は馬から降りると両手を地面に付き、土魔法を放った。
私の手元から徐々に伸びる土の床は僅かなアーチを作り、反対岸に繋がる。
簡単な作りだが、橋としては十分な役割を果たすだろう。
「これで通れますね。」
そう言って振り向いた私に、アル達は微妙な視線を向けた。
「...こんな事が出来る奴が居るなら、ここの警備も強化しないとだな。」
「いや、こんな規格外の事をして国境を越えるのはコウ位だと思いますので大丈夫ですよ。」
アルの言葉にセオンが続く。
せっかく通れる様にしたのに国境警備を心配されるとは思っていなかった。
「...渡らないんですか?」
「いや...行こう。」
無理矢理納得した様なアルが馬を進ませる。
それにセオンと先輩騎士達が続き、最後に私が渡る。
渡り終えると私は再び馬から降りて、両手を地面に付いた。
魔力を抜き取る様にすると、先程まであった橋がボロボロと崩れ去り川に流されていく。
証拠の隠滅は完璧だ。
「抜かりないね。」
セオンは呆れた様にそう言った。
とは言え無事に国境は越えた。
後はデルヘンの王都を目指すだけだ。
私達は馬を走らせると先を急いだ。
日が暮れると森に入り野営地を探した。
私以外のメンバーがテントを張っているうちに夕食を用意する。
アイテムボックスから野菜やベーコンなどを取り出しスープにする。
あとはパンを用意して簡単な夕食にした。
夕食を前にしたアル達は何か言いた気だったが、結局何も言わなかった。
制限時間のある今回の旅では、夕食にあまり時間をかけずに済ませる。
移動と休憩だけにほぼ時間を費やす為、魔物に会わない様に魔物除けの結界を常に張って移動している。
その事はアルにも伝えている為、今日からの野営は見張りを立てずに全員で休む事にした。
夕食が終わる頃にはすっかり辺りも暗くなった。
夕食に使った焚き火だけが辺りを照らしている。
遠くでは魔物の声が聞こえるが、近付いて来る事もない。
「便利だな、魔物除け。
でも本当に大丈夫なのか?」
先輩騎士がそう言って辺りを見渡した。
「大丈夫だと思いますよ。
この前の遠征訓練の時も、夜に魔物は出ませんでしたよね?」
私の言葉に先輩騎士達が顔を顰めた。
「この前も使ってたのか?
なら教えてくれたら、あの時も見張らずに済んだのに。」
「あの時は魔法を隠してましたので。
それに、見張り込みでの遠征訓練ですよね。」
私がそういうとアルがフッと笑った。
「お前らよりもコウの方が、騎士らしいんじゃないか?」
アルに言われて先輩騎士達は罰が悪そうな顔をした。
騎士団長のアルに言われてしまうと、何も言う事が出来ない。
セオンはそんな私達のやりとりに苦笑を浮かべた。
「まあ今回は見張らずに済むんだから良かったじゃん。」
「確かにそうっすね。
ずっと移動ばかりだったんで、夜の見張りがないのは助かります。」
セオンの言葉に先輩騎士が続く。
確かに移動続きの上に夜も寝ずの番では体力も持たなかった。
「とりあえず今日は休もう。
明日も沢山移動しないとだからね。」
「そうだな。」
セオンに同意すると、アルは立ち上がりテントへ入った。
今回はテントが3つ用意されている。
一つがアルとセオン、もう一つが先輩騎士達。
私には一つテントが割り当てられた。
男の格好のままだが流石に女だと分かった為、テントを別けてくれた。
アルにお礼を言うと、また眠れないのは困るからなと言われた。
遠征訓練の時に睡眠妨害した事を言ってるらしい。
そんな訳で私は1人テントに入って行く。
毛布を被り横になる。
デルヘンの王都まではもう少しだ。
それから2度の野宿を越えて、今はデルヘンの王都の前に居る。
今日が聖女処刑の日だ。
王都内がなんだか騒がしい。
「不味いな、もう処刑されたか?」
アルの言葉にぞわりと背筋が冷やされる。
間に合わなかったのかと嫌な汗が流れた。
「確かめるしかない。
このまま馬で突っ切るぞ。」
そのまま馬を早め、王都の中を駆け抜ける。
騒がしい割に街の中に人は少ない。
ただひたすらに馬を走らせると、城の前に人集りが見えた。
それに向かって馬を走らせると人混みが割れる。
その先には丸太に両腕を後ろ手に縛りつけられたサクの姿があった。




