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第一王女は夜色の騎士に会いたい

アルは先程私がアルに話した内容をそのまま国王陛下へ話した。

そして自分が聖女から勇者選定を受けた事も。


「えっ?その者が女?」


信じられないといった視線を向けられる。

アルの時と同じ反応だ。

親子だとこんな所まで似るのかと、変に感心してしまったがここまで男だと疑われないと悲しくなる。

アルも当然の疑問ですとばかりに頷いていたのが、更に悲しい。


「とにかくコウがデルヘンで召喚された聖女で、俺が勇者選定を受けたと言う事です。」


「まぁ...勇者が早めに見つかったのは結果的に良かったのではないか。

 お前は元々、聖女に同行する者として鍛えられたのだ、適任だったではないか。」


国王陛下が人知れず勇者選定を終えてしまったアルに、気遣うように声を掛ける。

何だか非常に申し訳ない。


聖女に同行する者とは、協定国でそれぞれ選ばれた者らしい。

聖女召喚は禁止されているが万が一、今回の様に聖女が召喚された場合に備えて各国では常に1人、聖女に同行する者を選んでいる。

勇者が見つかった場合はその者達が勇者と共に、聖女に同行し魔王封印に向かう。

勇者が見つからなかった場合はその者達を中心に隊が組まれ、聖女に同行し魔王封印へ向かうという事だ。

つまりアルは勇者に選ばれても選ばれなくても、聖女に同行する事は決まっていた事になる。


「勇者選定は済んでしまいましたが、聖剣を手にすれば勇者である事を疑われる事は無いでしょう。

 他国を訪れる前に、聖剣を授かりに行きます。」


勇者しか手にする事が出来ない、聖剣が存在するらしい。

何だかますます異世界感が増して来た。


アルと国王陛下は今後の話を進めて行く。

聖女が見つかった事により、何やら忙しそうだ。

当の本人である私は完全に置いてけぼりを食らっている。

まだまだ知らない事が多い私には、話に入って行く事が出来なかった。


「では2週間後に聖女降臨式という事で。」


話は終わったらしい。

アルが席を立つのに続いて私も立ち上がった。


「聖女様、この世界をお救い下さい。」


最後に私に掛けられた国王陛下ほ言葉に、私は戸惑ってしまった。

この世界を救うなど、私には荷が重過ぎる。

返答に困っている私の肩をアルがポンと叩いた。


「大丈夫だ、俺もいる。」


アルから向けられた力強い眼差しに頷くと、私はわかりましたと答えた。

その返事に国王陛下は安心したような笑みを浮かべる。

私とアルはその笑みを背に、国王陛下の部屋から出た。





国王陛下の部屋から執務室へ戻る途中、ユリシアとばったり会った。

私達の姿を見ると、ユリシアの瞳が輝きだす。


「夜色の騎士様!」


私の元に勢い良く真っ直ぐ歩いて来るユリシアに若干の恐怖を感じて後ずさってしまう。

ユリシアは私の目の前でピタリと止まると、両手を祈るように組み、私を見上げた。


「私、もう一度貴方様に会いたくて...ずっと...ずっと...」


紅潮した頬はほんのりピンク色に染められている。

うわずった声で最初は勢い良く話していたかと思うと、後半は尻窄めで小声になっていった。

うるうるとした瞳に見上げられ、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。

そんな私とユリシアの間に入る様に、アルが割り込んで来た。


「ユリシア、止めろ。

 コウが困っているだろ。」


「コウ様っておっしゃるのね!」


ユリシアが右にズレるとアルも同じ方に動く。

左に行けばアルも動く。

そんな事を何度もしていると、ユリシアがアルをキッと睨みつけた。


「邪魔しないでくださる?」


「お前がコウの前から居なくなったら退けてやる。

 ユリシア、お前婚約者に知られるぞ。」


「え?」


ユリシアとアルの会話を黙って聞いていたが、思わず疑問の声が漏れてしまった。

その声に振り向いたアルに何だ?といった視線を送られた。


「えっと...ユリシア様の婚約者ってアル様じゃないんですか?」


「「は?」」


ユリシアとアルの声が綺麗に重なる。

何を言ってるんだと2人の視線が向けられる。


「俺とユリシアは兄妹だ。」


そういえばそうだ。

なんだか色々話したせいで頭から抜けていたが、アルはさっき国王陛下を父上と呼んでいた。

国王陛下と親子という事は、アルは王子という事になる。

第一王女のユリシアとは兄妹なのだ。

アルが...王子?


「アル様って王子殿下だったんですか!?」


「おい、今更何を言ってるんだ。

 さっきは驚かなかったから知っているものだと思っていたが。」


「えっ?知りませんよ、だって誰も教えてくれなかったじゃないですか。」


「王都では誰でも知っているからな。

 あえて言う奴はいなかったんだろ。」


突然、私とアルのやりとりを見ていたユリシアが笑い出した。


「コウ様って、思っていたよりも可愛い方だったんですね。」


クスクスと笑いながらユリシアに言われて、顔が熱くなる。

可愛いを絵に描いたようなユリシアにそんな事を言われるとは思ってもみなかった。


「ユリシア、コウは聖女だぞ。」


クスクスとした笑いがピタリと止む。

え?と言った口のまま表情を固めてしまった。

ユリシアのその様子にアルは満足そうに笑うと、本日二度目の説明をし始めた。




「まさか夜色の騎士様が女性とは思いませんでしたわ。」


ユリシアの視線が信じられないと言っている。

この反応はアルと国王陛下と同じ反応だ、やはり親や兄妹とは似るらしい。


「ではコウ様はアルお兄様とご婚約されるんですか?」


突然の降って湧いた話に何を言われたのかわからなかった。

婚約?何処からそんな話になったんだ?


「あら、ご存知ないのですか?

 聖女様は同行された方の中から、生涯を共にする方を選ぶ事が多いのですよ?

 アルお兄様が勇者なんでしたら、その可能性があるのかと思ったのですが。」


ユリシアの言葉に顔に熱が集まって来る。

アルと婚約なんて...。

私のその様子にユリシアはあらあらと頬を赤らめる。


「コウには話していない。

 それにそれはコウが決める事だ。

 他国の同行者にもまだ会っていないのに、決められないだろう。」


アルが冷静にそう言ったのに対し、ユリシアは冷たい視線を送った。

そして私の隣にやって来ると、コソっと応援しますわね、と囁いた。

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