私が聖女?
デルヘンの聖女が処刑される。
その知らせは余りにも突然だった。
前にデルヘンの聖女偽物説を話していた先輩騎士の話に耳を疑った。
詳しく聞こうにも、先輩騎士は噂以上の情報はないらしい。
私は鍛錬を途中で切り上げると、アルの元へと急いだ。
執務室の扉をノックすると、いつもより荒々しく扉を開く。
その様子にアルは驚いたようだが、慌てた私を見て素直に部屋の中へと招き入れてくれた。
「鍛錬中じゃなかったのか?」
アルの視線は上官のそれだった。
だが、今はそれを気にしていられない。
「アル様、デルヘンの聖女が処刑されると聞きましたが本当ですか?」
アルの言葉を無視した事に若干の不快感を示したが、アルは私との会話を続けた。
「ああ、本当だ。
2週間後と連絡を受けて、1週間が経つ。
つまり処刑は1週間後だ。」
嘘であって欲しいと思った情報が肯定されてしまった。
私は自身の考えをまとめるように、頭を抱えた。
「アル様、ダメです。
ダメなんです。
デルヘンの聖女は恐らく本物です。
処刑なんてあってはならないんです。」
とてもまとめる事が出来なかった言葉をそのまま口にした。
アルの眉間は、訝し気に皺を寄せた。
「どう言う事だ?
コウ、お前は聖女について何か知っているのか?」
アルの言葉に私は言葉を詰まらせた。
この事態をなんとかするにはアルの協力が必須だ。
だが今まで自分が隠してきた事を、隠したまま説明なんか出来ない。
私は覚悟を決めるとアルを見据えた。
アルに隠し事は出来ない。
私はこれまでの事を、順を追ってアルに話した。
自分が聖女と共にこの世界に召喚された事。
聖女に命を救われ、聖女付きの騎士をしていた事。
聖女の命令で殺されそうになった事。
馬車で盗賊に襲われそれをアミーに助けられた事。
アミーと共に国境を越えてあの小屋に辿り着いた事。
あの小屋が昔の聖女が暮らしていた小屋である事。
そして、自分が女である事。
一度に得た沢山の情報にアルは戸惑っていた。
「コウが異世界人?そして女?」
信じられないという目で私を見つめる。
突然、こんな事を言われても信じられないだろう。
だが、信じてもらうしかない。
そうじゃないと、デルヘンの聖女は処刑されてしまう。
アルは黙ったままだった。
何かを考えているようだ。
信じてくれたのかわからない。
でも私は言える事は全て言った。
後はアルの判断を待つしかない。
「もしかして、コウは治癒魔法を使えるのか?」
どれ位の時間、アルは黙っていただろう。
突然放たれたアルの質問に、私は頷いた。
「使えます。
ただ、昔の聖女が残した本に人前では使わないように書いてあった為、隠していました。」
するとアルは盛大なため息を吐いた。
私はその意味がわからず困惑してしまう。
「コウ、聖女はお前だ。」
アルに言われた事が理解出来ずに首を傾げてしまう。
するとアルは、もう一度盛大なため息を吐いた。
「聖魔法は聖女にしか使えないんだ。
つまり、治癒魔法を使えるコウが聖女で、デルヘンの聖女は偽物だ。」
アルの言葉に驚きを隠せない。
自分が聖女だなんて考えた事も無かった。
「そもそも何で自分が聖女だと思わなかったんだ?
召喚されたのは一緒だったんだろ?
ならどちらの可能性もあったじゃないか。」
アルに言われて確かにと思ってしまった。
あの場にいた誰もが私を男と疑わず、女であるサクが聖女だと決めつけていた。
「それにデルヘンの聖女には殺されかけたんだろ?
今更助ける必要があるのか?」
確かにサクには殺されかけた。
でもその前に命を救われているのも事実だ、それがどんな理由だろうと。
それに同じ日本から来たサクに、死んで欲しくないのだ。
殺されてしまうのがわかっているなら助けたい、見殺しになど出来ない。
「でも、一度は私の命を救ってくれたんです。
私は彼女を助けたい。」
私の言葉にアルはイラついたように頭を掻いた。
鋭い視線を向けられるが、臆することは出来ない。
ここで引き下がる訳には行かなかった。
「...わかった。
だが、コウが聖女ならこちらも準備をしなくてならない。
今から勇者探しとか遅すぎるだろ...」
後半のブツブツと囁いた言葉を思わず耳が拾ってしまう。
「え?勇者ってアル様ですよね?
何で探すんですか?」
「は?」
お互いの頭に疑問符を浮かべていると、アルの頭上に光の輪が現れた。
その輪はアルの頭上で徐々に中心に集まり最終的には滴型へと変わる。
その滴がポタリとアルへ落ちると、アルの体から強い光が放たれた。
「え?え?」
訳がわからず疑問を口にする事しか出来ない。
アルはと言うと、呆然とその場に立ち尽くしていた。
「あの...アル様、大丈夫ですか?」
光が落ち着いたアルは今までと変わりない様に見えた。
だがあれだけ強い光を放ったのだ。
異変はあってもおかしくはない。
「...何なんだよ、お前は。」
アルはドカリと椅子に座ると、天を仰ぐように上を見た。
額に手を当てた様は、呆れているように見える。
「お前、俺が勇者だっていつから知ってた?」
アルの言葉の意味がわからない。
アルは初めて会った時から勇者だった。
書いてあったのだ、アルの頭上にずっと。
アルの頭上にはずっと勇者の文字が浮かんでいた。
それを気に留める者が居なかった為、私もあえて口には出さなかっただけだ。
「えっと...初めて会った時から勇者でしたよね?
それを探すってどう言う意味ですか?」
アルは頭を抱えるとそのまま両手でガシガシと頭を掻く。
そんな乱暴にしたら頭皮が痛むのではないかと心配になった。
「あのな。」
そう言ってアルは聖女と勇者の話を私に聞かせた。
ようやくタイトル回収です




