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遠征訓練(アルフォエル視点) 〜前編〜

俺ーーアルフォエル=バティックーーは今、騎士団長として遠征訓練に同行している。

魔王封印部隊を想定しての魔物討伐も兼ねた今回の遠征訓練に、俺は最近入隊したコウを連れて来た。

本来は新人騎士は遠征訓練のメンバーに選ばれる事はない。

しかしコウは実力が備わっている事もあり、今回は連れて来た。

訳ありだと思うコウは秘密が多い。

魔法が得意なはずなのに騎士になったり、不思議な食事を作ったり。

それにずっと森で1人で暮らしていた事もあり、常識にも疎い。

俺が勧めて王都へ来てもらったのに、そんなコウを1人で王都に残して行くのが不安だった。

事情をある程度知っている俺が側にいた方がいい。

今回、コウを遠征訓練に参加させた理由はそれだった。


遠征訓練に向かう列の中で、コウの姿を見つける。

騎士にしては小さい体で、しっかりとついて来る。

あの体のどこにそんな体力があるのか不思議だが、コウは日頃の鍛錬でも根を上げた事は無かった。

実力があっても体力が無いと務まらないのが騎士だ。

最初はコウの体力が心配で、騎士になる事を懸念していたがその心配は不要な物となった。

最近では他の騎士達に弟のように可愛がられているらしい。

俺の目も届きやすいので、コウが騎士になったのは正解だったのかも知れない。


野営地に着いて、僅かばかりの休憩を取る騎士達の中にコウの姿を探す。

見つからないと思ったら、少し離れた川にその姿を見つけた。

だが1人では無い。

コウの近くにいた人物の姿に、俺は眉をひそめた。


以前、城でユリシアに捕まった。

何でも夜色の騎士を探しているのだと言う。

最初は誰の事を言っているのかわからなかったが、話を聞く内にそれがコウの事だと分かった。

以前、街で助けて貰ったお礼をしたいと話すユリシアの目的がそれだけではない事は予想が付く。

俺はユリシアにコウの事を話すのは危険だと判断し、ユリシアの話を適当に終わらせた。

それでもユリシアは諦めなかった。

俺以外からも情報を探っていたらしく、それが街に行った時に護衛に付いていた騎士だった。

そもそもお忍びで街に行った理由も巷で話題になっている、夜色の騎士を探す為だったと聞いた時には流石に呆れてものも言えなかった。


そのユリシアに護衛でついた男が今、コウの近くに居る。

近づくとユリシアの名前が聞こえた為、余計な事を言う前に止めに入る事にした。


「おい。」


俺の声に2人がこちらを見る。


「集合だ、早くに集まれ。」


「すみません、すぐに行きます。」


俺言葉に、横を通り過ぎるコウを見送る。

その後に続こうとした護衛だった騎士を俺は呼び止めた。


「待て、お前に言っておく事がある。」


呼び止められると思って居なかった騎士は驚いた顔をした。


「お前、ユリシアに言われて夜色の騎士を探しているな?」


「はい、ユリシア様はずっと夜色の騎士を探されていましたので。」


俺の質問に素直に頷いた騎士は、俺の質問の意味がわからなかったようだ。

そもそもそれがわかる奴なら、コウを探したりしないだろう。


「ユリシアに婚約者が居る事も、ユリシアが夜色の騎士に抱いて居る想いも知って探しているんだな?

 それが互いにとって、どんな事になるかもわかって探しているんだな?」


俺は威圧的にそう言い放った。

騎士もようやく理解したようで、顔を青くした。

第一王女であるユリシアが婚約者ではなく他の男に気があるなんて噂が広がったら、コウとユリシアどちらの評価も下がるだろう。

それに噂には尾ひれが付く。

何にせよ、ユリシアとコウは会わないほうがいいのだ。


「私は、そんなつもりでは...」


「そんなつもりじゃなかったで済まない事もある。

 ユリシアの望みを叶える事が、必ずしもユリシアの為になるとは限らない。」


騎士はもう、何も言えなかった。

自分がしようとした事の重大さに気付いたのだろう。


「もう、夜色の騎士には近づくな。」


騎士の肩に手を置きそう言うと、騎士は小さな声ではいとだけ言った。

これでコイツからユリシアに情報がいく事はない。

俺は自身の中の不安が一つ減った事に満足しながら、集合場所へと向かった。



この後、騎士達は魔物狩りに行く事になる。

本当は俺も狩りに出るつもりだったのだが、セオンに激しく止められた。

前回の狩りで俺が怪我を負った事を引きずっているのだろう。

大丈夫だと言ったが、セオンの信用を得る事は出来なかった。

今回は大人しく荷物番をするしか無いようだ。


騎士達がそれぞれチームを作りながら森へ入って行く。

今回は褒美も出るので、あまり大きなチームを作る奴らは居ない。

人数が多くなればそれだけ一人当たりの褒美も減ってしまう、本来なら皆単独で動きたい所だろうがそれが自殺行為に等しいと分かっているからチームを作る。

大体2〜3人位のチームを作った奴らが多かった。

そんな中、コウは1人フラフラと森に入って行く。


「セオン、コウは誰かとチームを作ったか?」


「いえ、1人に見えましたが。」


俺の隣に居たセオンもコウの行動に驚いたようだった。


「俺がついて行きます。」


俺の意図を理解したセオンはすぐにコウ後を追う。

俺はそのセオンの背中を見送ると、大きなため息を吐いた。

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