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遠征訓練 〜No4〜

夕食はアルを含めた騎士達皆に好評だった。

皆の喜ぶ顔を見ながら、私もスープを飲む。

じっくり煮込んだので、トロリとしたスープが美味しい。

軽く炙ったバゲットを浸すと、硬めのバケットはスープをよく吸い味が染みて美味しかった。


「やはりコウを調理係にして正解だったな。」


アルはスープを食べながらそう言った。


どうやら私は調理係として今回、遠征訓練に参加させられたらしい。

確かにいつ魔物が現れるかわからない遠征訓練に、調理係として騎士以外を連れて来るのは難しい。

だが騎士達の中に調理が得意な者は少なかった。

これまでの遠征訓練ではただ焼いただけの肉や、持参したパンと干し肉だけの食事だったりしたらしい。

それを考えると、今回の食事が好評なのも頷ける。


「コウがこんなに料理が得意なのは知らなかったな。」


セオンそう言いながら私の料理を美味しそうに食べてくれる。


「森での生活が長かったので。」


セオンは私が森の小屋で生活していたのを知っている。

ああ、そうかと納得するとセオンは再びスープを口に運んだ。


「そういえば。」


思い出したように呟いたアルに視線が集まる。

自身に集まった視線を受け、アルは言葉を続けた。


「狩りの1番を決めてなかったな。」


そんな事もあったなと思ってしまった。

騎士達も私達が持ち帰った魔物の首に衝撃を受け、すっかり抜け落ちていたらしい。

そういえばといった空気の後、今度は私に視線が集まる。


「セオンとコウのチームが1番だ。

 異論はないだろう。」


騎士達が頷いているのをみると、異論はないらしい。

あの熊の魔物の首を見た後では、何か言う者は居なかった。


「褒美は何がいいか2人で相談する様に。」


アルはセオンと私を見てそう言った。

セオンのわかりましたと言う言葉に続いて私もはいと返事をする。

その後は取り留めのない話をしながら、食事を終えた。






「コウ、俺達のテントにしろよ。」


「いや、コウが寝るのは俺達のテントだ。」


夕食が終わり、テント決めを行なっていた筈が何故が揉め事に巻き込まれている。

ことの発端は一人の騎士が私を同じテントに誘った事だ。


「遠征訓練はどうもむさ苦しくなるからな。

 男臭くないコウが一緒の方が、テントも我慢できる。」


どう言う理屈かはわからないが、その騎士の言葉に他の騎士達も確かにと同意する。

そこから今まで、謎の争奪戦が続いていた。


どうしたものかとセオンに視線を送ったが、セオンにも困り顔を返されてしまった。

セオンも騎士の中ではキレイな顔をしている。

男らしくはないが、本当にキレイという言葉が似合う顔立ちだ。

しかしセオンは隊長である。

隊長に声を掛ける様な身の程知らずは居なかった。

それに、隊長達2人は同じテントに決まっていたらしい。

騎士団長のアルはテントを1人で使い、その他の騎士達は3人組でそれぞれ5つのテントを使う事になっていた。

つまり私がその5つのどこで寝るかを、私の意思とは別に決めようとしていた。


「何の騒ぎだ、騒々しい。」


先にテントに入っていたアルが、騒ぎを聞きつけテントから出てくる。

すると今までの騒ぎが嘘のように静かになった。


「あの...コウが誰と一緒のテント寝るかを、奪い合っていた様です。」


セオンの説明にアルの眉間に皺が寄る。

騎士達は気まずそうに視線を彷徨わせた。


「コウ、お前は俺のテントに来い。」


アルの言葉に私だけではなく、ここに居る全員が驚いた。


「よろしいんですか?」


団長が誰かとテントを一緒に使う事など、これまで無かった。

せっかく広く使えるテントをわざわざ狭くしてしまう行為である。

それもありアルは今まで、自分のテントに誰かを招く事などなかった。


「かまわない。」


「いや、ちょっと待って下さいよ。」


アルが本気だとわかると、それを阻止しようと騎士が止めに入った。

流石に自分達の揉め事のせいで、役職もない騎士を団長のテントに送り込むのは躊躇われたらしい。


「これは決定事項だ。

 コウは俺のテントに来い、命令だ。

 後は...夜の見張りの時間を決めるか。」


アルが譲る気がないとわかり、騎士達はそれに従った。

私も命令となれば、もやは言う事はない。

わかりましたと伝えると、私は騎士達の輪の中へと入った。


夜間の見張りは団長以外の騎士達で行われる。

私は朝食の準備もあるので、朝方近くの1番最後の時間帯が担当となった。

1番最初が隊長2人で、その後は1時間交代でテント毎に当番が回ってくる。

1番最後の時間の担当が2人なので、私はそれに混じる事になる。

順番が決まると、隊長達以外はテントへ入って行った。


私もアルのテントへと入る。


「失礼します。」


アルは既にテントの中で寛いでいた。

私はブーツを脱ぐと、足を緩めた。

ずっとブーツを履いたままだったので、だいぶ足が疲れている。

体も汗と土で汚れている。

私は体の不快感拭う為、洗浄魔法をかけた。

と、アルがこちらを見ているのに気付く。


「あの...アル様にも洗浄魔法、かけますか?」


「頼む。」


アルの短い返事に私は頷くと、アルに洗浄魔法をかけた。


「やはり便利だな。」


綺麗になった体に満足したアルは、笑顔でそう言った。

アルとこうしていると、小屋で一緒に過ごした日が思い出される。

アルも同じ事を思っていたらしく、なんだか懐かしいなと呟いた。


「それにしても、コウがここまで規格外だとはあの時思わなかったな。」


アルは少しからかうようにそう言うと、口元でニヤリと弧を描いた。


「...ご迷惑をおかけします。」


思い当たる事があり過ぎて、それしか言えなかった。

アルもそれ以上深くは話さない。

薄いテントの壁では声が外へ筒抜けになってしまう。

何が事情がある事を察しているアルは、私自身の事を深く聞いてくる事はなかった。

それが私にはとても心地の良い距離だった。


「さてと、明日の朝一が当番だろ?

 それならもう寝た方がいい。」


アルはそう言って、自身に毛布を掛けて横になる。

私もアルの言葉に従い、毛布を掛けて横になった。

テントの外は静かで焚き火の音以外はフクロウの鳴き声しか聞こえない。


「アル様、おやすみなさい。」


私はそう言うと目を閉じた。

先程まで気を張っていたが、目を閉じた瞬間に気が緩み一気に睡魔が襲う。

アルのおやすみの声が耳に届くが、もう目を開けられなかった。

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