遠征訓練 〜No2〜
森の中でウロウロするフリをして、騎士達と距離を取った。
試してみたい事があった為、騎士達の目に触れたく無かったからだ。
気配を探り、魔物を見つける。
私は迷う事なく魔物へと向かった。
グオぉぉぉぉとこちらを威嚇しながら目の前に立っているのは、以前アルに怪我を負わせた熊の魔物だった。
あの時の個体より一回り小さいが、やはり熊の魔物は大きい。
今にも襲いかかりそうな魔物を見上げた。
もし、試した事が上手く行かなければ魔法で倒さなくてはならない。
その為、他の騎士達に見られる訳にはいかなかった。
魔物が大きく右手を振り上げる。
私はその魔物に対して鈍化の魔法を放った。
自分の体の異変に違和感を覚えたのだろう、魔物は上げた手を振り下ろす事なく戸惑っている。
魔物との距離を開け、様子を見る。
自分の体が思い通りに動かない不快感から暴れ出したが、その動きは先程よりも鈍かった。
成功だ。
騎士として生きて行くならあからさまな魔法で戦う訳には行かない。
だが、魔法なしで戦うには限界がある。
だから私はあまり気付かれないだろう、鈍化の魔法と合わせて戦う事を思いついた。
鈍化の魔法で動きを鈍らせた魔物を剣で倒す。
これが上手く出来るか、今回は試したかった。
右往左往する魔物の首を刎ねる。
ゴトリと落ちた首とそのまま動かなくなった体を見下ろした。
「おいおい...これを1人で殺ったのか?」
突然聞こえた声に驚き、声の主を確かめた。
そこには青い顔をしたセオンがいた。
「セオン様、何故ここに...」
「いや、お前が1人だったから様子を見に来たんだよ。
他の奴らはちゃんとチームを組んでるのに、お前は誰とも組まなかったから心配だったんだ。」
皆が1番を目指していたので、チームを組んでいるなんて思わなかった。
だが、確かに魔物狩りを1人で行うなど自殺行為に等しい。
それをちゃんと理解していた他の騎士達はチームを組んでいた。
私が騎士達を避けるように1人で動き出した為、他の騎士達も声を掛けられなかったのだろう。
それを見ていたセオンが心配して、私を追って来たのだった。
「あの...セオン様、これは、その...」
セオンに見つからなければ、魔物はそのまま解体して証拠隠滅を謀るつもりだった。
しかし見つかってしまった今となっては、それも難しい。
魔物や動物の気配を探るのは得意だが、どうやら人間は苦手らしい。
セオンの気配に気付かなかった事が悔やまれる。
「はぁ、まあ今更だけどね。
コウが並み外れているのは。
これ一頭で1番になるんじゃない?
問題はどうやって持って行くかだけど。」
セオンはそう言って倒れている魔物を眺める。
一刀両断にされた首を見ると、すごいなぁと呟いた。
「セオン様、あの...これを無かった事にして欲しいのですが...」
私の言葉にセオンが目を見張る。
「え?何で?
せっかく倒したのに勿体なくない?」
「いえ、あの...私、褒美は求めて無いんです。
ただ、あまり目立ちたく無いというか...」
「でも、流石にこれを隠すのは難しいと思うよ。」
セオンの正論に肩を落とした。
確かにこの大きさの魔物を隠すのは無理だろう。
最初は解体して残りを燃やしてしまおうと思っていたが、セオンに見つかってしまいそれも出来ない。
となると正直に倒した事を報告するしかなかった。
「ですよね。」
目に見えてガッカリしている私を見て、セオンが思案する。
セオンははぁとため息を吐くと口を開いた。
「じゃあ俺とチームを組んで倒した事にしよう。
目立つ事に変わりは無いけど、1人で倒したって言うよりずっといいでしょ?」
思ってもいなかった提案に私は目を瞬かせた。
セオンの提案は、今出来る最大の隠蔽だった。
「ありがとうございます!セオン様!」
本気で喜ぶ私にセオンは苦笑する。
「手柄を横取りされたとは思わないの?」
セオンの言葉に私は首を振った。
「セオン様が私を助ける為に言ってくれてるのは分かってますので。
...で、これはどうしたらいいですか?」
私は足下に転がる魔物に目を向ける。
セオンも魔物に目を向けるとああ、と呟いた。
「うーんー...とりあえず、全部持って行くのは無理だし首だけ持って行こうか。
戻ってからアル様に相談しよう。」
「わかりました。」
私は頷くと魔物の首を収納袋に入れる。
収納袋は、狩った魔物を入れる為に騎士達に渡されていた物だ。
首を入れた事によって大半の面積を占めてしまった袋を見て、セオンは苦笑した。
「一旦戻ろうか。
拠点から少し離れてしまったし、戻るのにも時間がかかるだろう。」
セオンが拠点への道を歩き始めると私も後に続いた。
サンタの袋のように背負っているその中に、魔物の首が入っているのかと思うと何だか不気味だった。
だが、上官のセオンに持たせる訳にも行かず意識を逸らして運ぶ。
拠点までの道のりでも複数魔物に遭遇した。
五羽まとまって現れたウサギの魔物に鈍化の魔法をかけて、セオンと共に倒す。
素早いウサギの魔物には鈍化が効果的だった。
「何かしたか?」
ウサギの魔物と戦った事にあるセオンは、余りの手応えの無さに私に振り向きそう言った。
それに対して私は曖昧な笑みを浮かべ、視線を逸らした。
そんな行動は肯定と取られても仕方が無い。
だが自分の口からはっきりと肯定する事も、嘘をつく事も躊躇われた。
セオンは問い質す事もせず、ウサギの魔物を収納袋に入れる。
私にとってセオンの行動は有り難かった。
鹿の魔物にあった時も鈍化の魔法をかけたが、セオンは何も言わなかった。
セオンはある程度アルから聞いているかも知れない。
倒した鹿の魔物を収納袋に入れると、足が飛び出してしまったが何とか収まった。
だいぶ重くなってしまい、身体強化だけでは厳しくなった為風魔法で袋を浮かせる事にする。
「その体でよく持てるな。」
側から見れば軽々と袋を持っているように見える私にセオンが言う。
「コツがあるんですよ。」
私は袋を背負ったままそう言うと、拠点を目指して歩いた。




