遠征訓練 〜No1〜
今日から遠征訓練が行われる。
私はアルとユリシアが一緒にいたのを目撃したあの日から、アルとは会っていない。
アルも今回の遠征訓練準備で忙しかったようで、私を呼び出す事はなかった。
それが幸か不幸かアルと会う機会を妨げていた。
列を作り、森の中を歩いて行く。
今回の遠征訓練は森で行われる為、馬では無く徒歩で行っている。
倒した魔物を持ち帰る為の荷馬車が一台同行しているが、馬では森の中で魔物に会った時に戦い辛い為徒歩での移動となった。
今回は一番隊から私を含めて5名、二番隊と三番隊から各5名、一番隊隊長のセオンと三番隊隊長、騎士団長のアルの総勢18名で遠征訓練を行う。
騎士団長であるアルの留守は副団長と二番隊隊長に任せたらしい。
小規模での遠征訓練は騎士の全滅を避ける為だ。
最悪、今回の遠征訓練に行った者が全滅しても王都には騎士が残る。
隊長2人と騎士団長が同行するのは少しでも生存率を上げる為だと聞いた。
ここまで何匹か魔物に遭遇したが、怪我人もなく進めている。
魔物を前にすると思わず魔法を使いたくなるが、その衝動を必死に抑え剣を振るった。
私はこれまでの鍛錬のお陰で、イメージと重ねなくとも剣で戦えるようになった。
身体強化は必須だが、他の騎士達と同じ位は戦える。
一度イメージと重ねた状態で手合わせしたセオンは、そんな私をどう思っているかわからないが何も言われないのでこちらからも何も言わずにいた。
森の中の少しだけひらけた場所が本日の野営地だ。
ここまでずっと歩きっぱなしの上に、魔物との戦いも挟んだ。
何も言わずに歩き続けた騎士達だったが、疲労は隠せない。
野営地が決まると、荷物を降ろし各々休憩を取り始めた。
私は近くにあった川で顔を洗った。
ひんやりと冷たい水が、火照った顔に気持ちがいい。
こうして森に来るとアミーや小百合の事を思い出す。
私は王都に来てから、あの小屋へは一度も行っていない。
単純に小屋へ行く時間が作れなかった。
馬を使えば一日の距離でも、歩いて行くと一日では帰って来れない。
アミーに乗せてもらうのが当然だったあの時は気付かなかったが、王都とあの小屋は微妙な距離だった。
アミーは元気だろうか。
懐かしさに思いを馳せていると足音が聞こえた。
「あっ、あの。」
背後から声を掛けられ振り返る。
そこには見覚えがある人物が居た。
「あの、前に街でユリシア様を助けてくれた人ですよね?」
そう言った男は確かにユリシアと一緒にいた護衛だった。
考えて見れば第一王女であるユリシアの護衛が、騎士である事に不思議はなかった。
あの時お忍びで街に出ていたユリシアに、護衛として付いて行ったのがこの騎士だったのだろう。
今まで顔を合わせる機会が無かったのは隊が違ったからだと思う。
なぜ第一王女がお忍びで街にいたのかが気になるが、今は相手の質問に答えるのが先だ。
「ええ。
貴方はあの時の護衛の方ですね。」
私の言葉に騎士は顔をパッと綻ばせた。
「良かった、やっと見つかった!
あの時は本当にありがとうございました、あの後ユリシア様に...」
「おい。」
騎士の言葉を遮るように呼ばれる。
騎士と2人で声の主へ目を向けると、そこには不機嫌そうに木にもたれ掛かるアルの姿があった。
「集合だ、早く集まれ。」
いつもより低い声でそう言われ、やはり機嫌が悪いのだと悟る。
「すみません、すぐに行きます。」
私はそう言うとアルの横を通り過ぎ、騎士達の集まる場所へ向かった。
すぐに来ると思っていた護衛だった騎士とアルが間を置いてやって来た事に違和感はあったが、気にしないでおく。
一騎士である自分が騎士団長の行動に何か言うことなどない。
だが護衛だった騎士の顔色が先程よりも悪く見えるのは、気のせいだろうか?
全員が集まったのを確認すると、アルは口を開いた。
「これより魔物狩りを始める。
各々辺りを散策し、魔物を狩るように。
それと夕食は現地調達となる、合わせて食材の確保もするように。」
アルの言葉に騎士の1人が手を挙げる。
「何だ?」
「今回は褒美無しですか?
前は1番多く狩った者に褒美が出たと思うのですが。」
その騎士の言葉に、他の騎士達が同意する。
確かに褒美があると騎士達のモチベーションも変わるだろう。
「そうだな。
褒美があると無理をする奴が出てくるんで、今回は考えて無かったが。」
アルの言葉に目に見えて騎士達が落ち込む。
それを見てアルは苦笑した。
「仕方ない、士気が落ちるのでは本末転倒だな。
1番多く、魔物を狩った者には褒美を出そう。
ただし無理はするな。」
褒美が出ると決まると騎士達はおぉ!と声を上げた。
先程よりもギラギラした目に、騎士達のやる気を感じる。
アルはその様子に呆れながらも満足そうだった。
「狩りは今から3時間だ。
数だけではなく、魔物のランクも加味してその上で1番の者に褒美を出す。」
アルが話している間も騎士達はソワソワしている、早く狩りに行きたいのだろう。
アルもそれがわかっているので、ここで長々と話す事に意味はなかった。
「でははじめ!」
アルがそう言うと、騎士達が嬉々として狩りに出る。
私もそれに混じる様に狩へ出た。




