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休日の過ごし方 〜前編〜

鍛錬が休みの日、私は自主トレが終わると街に出ている。

王都での生活にも慣れ始め、街へ遊びに行く余裕が出て来た。

この世界に来て、街で遊んだことは今まで無かった。

デルヘンでは聖女の付き添いで数回、街へ行っただけだし自由は無かった。

その後は森に引き篭もっていたので、街へ行く機会が無い。


だが今は自由がある。

他の騎士達も休みの時は街をブラブラしてたりするらしいので、私もそれに倣った。


最近ではお気に入りの店もできた。

カフェのような雰囲気のある紅茶屋だ。

ここで紅茶を飲んだり、ケーキを買って帰るのがお気に入りである。

本当は店の中で紅茶と共にケーキを味わいたいのだが、騎士の格好をした私が1人でケーキと紅茶を嗜んでいる姿は注目を浴びてしまった。

女性の多い店なので仕方がない事だと思うが、自分も女なのにとも思ってしまう。

注目を浴びるのも嫌だが、ケーキは食べたかったので買って帰る事に落ち着いた。


今日はこの後に行きたい所もあるので、ケーキは諦め紅茶だけを頼む。

フルーツの入った紅茶を頼むと席で待った。

時間を潰す為に持参した本を開く。

しおり代わりに挟んでいたメモ用紙を取り、続きを読み始める。

私はこの世界へ来て、様々な知識を本から得た。

今は、この国の歴史の本を読んでいる。

小屋で読んだ本だけでは知識に偏りがあったので、この国の事をもっと知るべく選んだ結果だった。

だが、余り欲しい情報は書かれていないようだ。

確かに歴史については書かれていたが、それが聖女絡みとなると極端に情報が少ない。

小百合の事など書かれていないか期待したが、まったくなかった。


「お待たせ致しました。

 フルーツティーでございます。」


店員の声に本から顔を上げる。

ガラスのポットに入った紅茶の中へはフルーツが浮かんでおり、見た目も綺麗だった。

目の前でポットからカップへと注がれた紅茶は、とてもいい香りがした。


「どうも。」


紅茶を入れてくれた店員に礼を言うと、店員は顔を赤らめキョロキョロと辺りを見渡すと無言まま頭を下げて行ってしまった。

男慣れしていないのだろうか?

まぁ自分は女なのだが、男に見える自分への対応に困っていたように見える。

お店に来るのは女性が多いので、男性と接する機会が少なかったのかも知れない。


私は既に見えなくなってしまった店員から紅茶へと視線を戻した。

本を閉じるとカップを持ち上げる。

湯気の上がるカップへ口を付けると、一口飲んだ。

口の中にふわりと紅茶と共にフルーツの香りが広がる。

好きな香りに口元を綻ばせると、辺りが色めきだった気がした。

不思議に思い、辺りに視線を向ける。

店内にいた女性達は何故か顔を赤らめ俯いたり、扇子で口元を隠したりしている。

何かあったのかと周囲に気を配るが特に変わった様子はない。

気配を探ってみるも怪しい者は見つからなかったので、再び紅茶へ口を付ける。

本を開き、文字を目で追いながら少しずつ紅茶を飲んでいく。

ゆっくりと流れる時間を楽しみながら、読書にふけった。



ゆったりとした時間が心地良くて随分と長居してしまったらしい。

店が満席になっていた事に気付くと慌てて紅茶を飲み干し店を出た。

この紅茶屋は来た時はいつも空席が目立つのに、帰る頃には満席になっている。

時間帯によるものなのかも知れない。

今度から時間をずらす事も検討した方がいいだろう。




午前中をのんびりと紅茶屋で過ごし、そろそろお昼の時間だ。

店に入って食べてもいいが、天気も良いので何か買って外で食べようと思った。

ちょうどお昼時なのもあって、パン屋の前でサンドイッチが売られている。

私はそれと果実水を買うと、広場のベンチに腰を降ろした。

中央に噴水のある広場は、街の住民達の憩いの場になっている。

今日は天気がいい事もあって、私以外にも外で食べている人がチラホラと見えた。

噴水の水は日の光を浴びてキラキラ反射する。

私は先程買った包みを開くとサンドイッチを頬張った。

口の中に卵の優しい味が広がり、とても美味しい。

もう一つのサンドイッチにはハムとチーズ、野菜が挟んであるようなのでそちらも楽しみだ。


噴水の周りを走り回る子供達の姿を見ていると心が癒される。

平和な王都の景色は見ていて安心する。

王都が平和なのもアル達の頑張りによるものだろう。

そう考えると、なんだか嬉しかった。

食事が終わり、子供達を目で追っていると目の前をひらりと白い物が横切った。

何だろうと視線で追うと、どうやらハンカチらしい。

近くを通った令嬢が落としたものらしく、それを拾うと声を掛けた。


「失礼、こちらを落としましたよ。」


ハンカチについた汚れを払ってから、令嬢に差し出す。

令嬢は勢いよく振り返ると、満面の笑みを浮かべた。


「あら、ありがとうございます。

 拾ってくれたお礼に、お茶でもいかがかしら?」


向けれた熱い視線にゾッとする。

これは自分を好いている目だ。

この世界に来てから、聖女以外からそんな視線を向けられていなくて忘れていた。


「いえ、これから行くところがありますので失礼します。」


面倒な事になる前にそそくさと逃げる。

後ろからはせめてお名前を!など聞こえて来たが、振り返らなかった。

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