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騎士としての生活

無事に騎士になる事が出来た私は今、騎士寮で生活している。

騎士は無料で入れる騎士寮は、私にとってとてもありがたいものだった。


劣化版ビジネスホテルと言えばわかりやすいかも知れない。

一人部屋の各部屋に風呂とトイレも付いているので、ここでも女であると気付かれる事は無かった。

家具はベッドとタンス以外は小さいテーブルと椅子があるだけだ。

一人になる時間を過ごすのには十分だった。


食事は寮に食堂もあるし、街に出れば食堂もたくさんある。

自室で魔法を駆使して料理を試みているが、まだ練習中だ。

ちゃんと出来る様になったらアルへお弁当でも差し入れようと思っているが、それはまだ先になりそうだった。


騎士の仕事も順調だと思う。

まだ入ったばかりの私は、ほぼ毎日鍛錬ばかりだがそれが逆に有り難かった。

試合や実践だと今はまだ、イメージに重ねないと力不足だろう。

それを行うとどうしても実力以上の物が発揮され、悪目立ちをしてしまう。

それだったらきちんと鍛錬を重ね、イメージに重ねなくても戦えるようになりたかった。


「コウ、この後は走り込みだ。

 鍛錬場を20周するぞ。」


「わかりました。」


最初は尾びれの付いた噂を信じた他の騎士達は怯えていたが、今は誤解も解けてこうして普通に話してくれる。

鍛錬も楽では無いが、ついていけなくは無い。

身体強化魔法を使っているおかげだろう。

他の騎士やセオンが気付いているかは不明だが、それに対して何か言われる事はなかった。


走り込みが終わると全員が息を上げ、汗を流している。

足を投げ出し、地面に座っている者もいた。

私は額の汗を手の甲で拭うと、水飲み場へ行った。

既に何人かの騎士がガブガブ水を飲んでいる。

私も水を両手で掬うとゴクゴクと飲み干した。

ひんやりした水が、乾いた喉を潤すと共に体の温度を下げていく。

ふぅ、と息を整えるとこちらに歩いてくるセオンの姿が見えた。


「コウ、アル様が呼んでるぞ。」


セオンは自分の部下になった私に敬語を使うのをやめた。

他の騎士達が怯えていた理由の一つに、このアルからの呼び出しとセオンの敬語があったからだ。

団長であるアルにはしょっちゅう呼び出され、上官のセオンからは敬語を使われる人物など自分でも恐ろしい。

だからセオンは敬語を辞めて、森でアルを助けたのが私だと話した。

それで納得した騎士達の誤解は解け、今は私を新人騎士として扱い世話を焼いてくれる。


「わかりました、すぐ伺います。」


私はセオンの後に続いて、執務室へ向かった。

途中自分に洗浄魔法をかける。

汗で汚れた体がスッキリした。

アルも私が鍛錬後なのを知っているので、汚れた私が来ても特に文句は言わないだろう。

だが、私が嫌だった。

こういう時、洗浄魔法が便利だと思う。


セオンが執務室の扉をノックし、アルからの返事を待って扉を開ける。


「失礼します。」


部屋に入ると椅子を促されたが、セオンがお茶を用意しようとしているのが目に入り代わりに行く。

流石に自分の上官にお茶を用意させる訳にはいかない。

自分が代わる旨をセオンに伝えると、セオンは大人しく席へ着く。

今日はセオンも同席するらしい。


3人分のお茶を用意するとテーブルへ並べた。

そして自分の席に着くと、アルは待っていたように口を開く。


「最近はどうだ?」


騎士としての生活も2週間が経とうとしている。

アルはその様子を探る為に今日は呼んだようだ。


「比較的順調だと思います。 

 新人騎士として先輩方から指導して頂いていますので、余り目立つ事もないと思います。」


セオンの顔を見ると何か言いたそうだったが、何も言わなかった。

私とセオンの様子を眺めていたアルは、何かを納得したように頷く。

...なんだか腑に落ちない感は否めないが、何か言われた訳でもないので押し黙っておく。


「コウ、実は一月後に遠征訓練を兼ねた魔物狩りに行く事が決まっている。

 本来は新人騎士は対象となっていないのだが、コウには参加して欲しいと思っている。

 どうだろうか。」


「わかりました、参加させて頂きます。」


騎士団長直々のお願いなど断る訳にはいかない。

私が望み通りの返事をすると、アルは微笑んだ。


「セオン、今回は一番隊から三番隊の中でメンバーを選出する。

 各隊から5名ずつ選ぶように、各隊長に指示をしてくれ。

 一番隊からはコウを除き、他4名の選出を頼む。」


「かしこまりました。」


アルの指示にセオンが答える。

真面目に仕事をしている二人はカッコよく見えた。

そして騎士なんだなと改めて思った。


「今度の遠征訓練は、魔王封印部隊を想定した訓練になる。

 デルヘンが聖女をどう動かすかわからないからな。

 恐らく今回は、各国から部隊を集めての魔王封印となるだろう。

 その為の訓練だ。」


アルが遠征訓練を理解していないだろう私に、付け加えるように説明する。

普段は魔物も少ないので、魔物狩りも余り必要なかったらしい。

だが、魔王の影響で増えた魔物を野放しにする訳にはいかず、定期的に魔物狩りが必要となった。

魔王封印で遠征する際も、魔物との戦いは避けられない。

その為の訓練のようだ。


後、一か月で遠征訓練だ。

私はその間に少しでも剣での戦いをモノにしようと意気込んだ。

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