騎士試験
この世界で騎士と兵士は区別化されている。
街中の揉め事を仲裁したり、防犯を務めているのが兵士らしい。
門番も兵士の仕事だ。
だが、兵士は街の外での仕事はほぼ無い。
一方騎士は、城の警備や魔物の討伐、悪人の捕縛が仕事となる。
兵士も悪人を捕らえる事は出来るが、それを牢に入れる事ができるのは騎士だけだ。
少し違うかも知れないが警察と警備会社の違いのような物だと思う。
戦が起きれば騎士も兵士も関係なく隊を組むらしいが、今のところその予定はないようだ。
それと大きく違う点は兵士は平民でもなれる。
やる気があれば兵士になることは可能だ。
兵士として続けて行けるか行けないかは本人次第だが、兵士になるのは比較的簡単なようだ。
しかし騎士はある程度の家柄が必要らしい。
爵位がどうとか詳しくは聞いてもわからなかったが、とりあえず実力があっていい家の出の者がなれるというのは理解した。
だがもちろん例外はある。
平民でも、貴族といわれるいい家からの推薦があれば試験を受けられる。
そして実力が認められて、試験に合格すれば騎士になれるのだ。
あくまでも例外なので、その数は少ない。
しかも貴族の出での実力者も少ないらしく、騎士の人数は多くない。
城の警備は騎士の仕事だが、信頼のおける兵士も警備に当たっているようだ。
アルの話を聞いてなんとなく理解した。
どうやら私が騎士になるのは難しいらしい。
目に見えて落ち込んでしまった私に、アルが気遣うように声を掛ける。
「そんなに騎士になりたかったのか?」
「...アル様と一緒に戦えると思ったので...。」
私が王都へ来たのはアルが理由であることが大きい。
ここに来るまで知らなかったことだが、騎士団長であるアルと気軽に会えるとは思えない。
それはつまり、一緒に居たいと思っていた友人と一緒に居られないと言うことだ。
森に...小屋に帰ろうかな。
まだ来たばかりの今なら、なんのしがらみも無くそれが可能だ。
私がそんな事を考えているのがわかったのかも知れない。
アルは息を吐くと乱暴に後頭部を掻いた。
「...わかった、俺が推薦してやる。」
アルの言葉にパッと顔を上げる。
「そんなに俺と一緒に居たいなら、俺が推薦してやるよ。」
意地の悪い顔で笑うとアルはそう言った。
顔に熱が集まるのを感じると、私は思わず下を向く。
だがアルがそう言ってくれた事で、私には希望の道が開けた。
「...お願いします。」
恥ずかしさから顔を上げられないが、そう小さく呟く。
その様子をアルが、さらに意地悪そうな視線で見ている事へは気付かなかった。
城の敷地内にある、騎士の鍛錬場にセオンと木刀を構えて向かいあっている。
その二人にアルは交互に視線を送る。
推薦するからには実力を知りたいとアルに言われ、この状況になった。
騎士試験ではない、ただの力試しだ。
向かいあったセオンから、圧を感じる。
殺気とは違う圧に、これが騎士の圧かと身が震えた。
一度目を閉ざしゆっくり呼吸する。
目を開くと集中し、セオンを見つめた。
「はじめ!」
アルの声にセオンは動いた。
上段から振り下ろされた木刀を、手元に近い部分で受ける。
私は頭の中で、騎士の戦いをイメージした。
久々に感じる、イメージと体の重なり。
私が少しだけ木刀の先の力を緩めると、セオンの木刀は私の木刀をなぞるように滑った。
力の込められたままだったセオンの木刀は、私の木刀の先まで滑ると力のやり場を失いそのまま地面に叩きつけられる。
その瞬間私は木刀を構え直し、下を向いたままのセオンの上から木刀を首に当てた。
「そこまで!」
まさかセオンが負けるとは思っていなかったのだろう。
セオンもアルも驚いた表情のままだった。
「コウ...お前は今まで、何処で何をしていたんだ?」
アルが訝しげな視線を送ってくる。
「えっと...小屋でイメージトレーニング?」
それ以外答えようがない私の答えにアルはため息を吐いた。
「その実力なら騎士試験も合格するだろう。」
溜息混じりにそう言われる。
アルがセオンの肩を慰めるようにポンと叩いたが、セオンは何も言わなかった。
その後アルからもらった推薦状を持って、セオンに付き添って貰いながら騎士試験を受けた。
セオンもショックは残っていたようだが、これまでと変わらない対応をしてくれる。
対戦相手の木刀を弾き飛ばして終わった試験に周りは呆然としたが、セオンだけは当然だろうといった視線を向けた。
試験はもちろん合格だった。
そして試験後にわかった事実だが、セオンは一番隊隊長らしい。
...セオンとの力試しは負けておいた方がよかったかも知れない。
騎士になる為に必死だったが、目立ってしまっては元も子もない。
これからは実力を隠し、大人しくしようと思ったが既に遅かったようだ。
私の騎士試験の様子は尾びれをつけて騎士の間で拡がった。
相手が泣きながら許しを乞うのを叩きのめした。
とそこまで酷くなってしまった噂をなんとか消してくれたのは、セオンとアルと対戦相手だった。
そんな噂は対戦相手にとって不名誉な事だったようで、噂の打ち消しに一番尽力を尽くしてくれた。
もう、必要以上に目立たないようにしよう、そう心に強く思った。




