王都に来ました
「あの、アルフォエル様にお会いしたいのですが。」
門番の兵士に声を掛ける。
兵士はアルフォエルの名に少し驚いたような表情をしたが、きちんと私の方に向き直ってくれた。
「貴方は?」
低いが人の良さを感じられる声でそう言われる。
怖い人ではなかったようで安心した。
「私はコウと言います。
あの...これを、アルフォエル様から頂いた手紙です。」
私はそう言ってアルの手紙を兵士に渡した。
「読んでも?」
兵士の問いに頷いて返事をする。
手紙を広げた兵士が、嬉しそうに笑った。
「貴方があのコウ殿ですね。
アルフォエル様から話は伺っています。」
兵士のその言葉に安堵した。
「騎士の方の元へ案内します、付いて来て下さい。」
兵士の男は、もう一人の門番の兵士に声を掛けると持ち場を離れた。
門の中へと進む兵士の後ろを付いて歩く。
ずいぶん厚みのある塀だと思っていたが、どうやら中に部屋があるらしい。
扉を開くと、中へ案内された。
「あの、ここは?」
「門番が休憩や事務仕事の時に使っている部屋です。
今は騎士の待機所になっていますが。」
兵士はそう言って苦笑した。
「セオン様、お待ちの方が来ましたよ。」
兵士は椅子に腰掛けて暇そうにしている騎士へ声を掛ける。
振り返ったその顔には見覚えがあった。
「セオン様。」
アルを捜索に来ていた騎士だ。
セオンもこちらを覚えていたのだろう。
顔を上げると、勢いよく立ち上がった。
「コウ殿、お待ちしておりました!
いや、コウ殿が来てくれて助かりましたよ。」
「?」
セオンの言葉に疑問符しか浮かばない。
まだ何もしていないのに助かったとはどういう事か。
顔に出てしまっていたのだろう。
セオンは苦笑を浮かべると言葉を続けた。
「アル様に言われて毎日ここへ、コウ殿が来たか確認に来ていたんです。
騎士が門へ毎日来ることなんて無いじゃないですか。
門番の兵士もここへ来る騎士も気まずかったんですよね...。」
なるほどと思った、確かに城を守る騎士が毎日来るのでは緊張しっぱなしだろう。
だが門番の兵士達や毎日ここへ来させられていた騎士達には悪いが、毎日アルが私が来ていないか確認してくれていたのが嬉しかった。
案内してくれた兵士にお礼を言うと、今度はセオンへ付いて歩く。
会うのは2度目だが、知った顔に少し緊張は和らいだ。
「あの時は失礼しました。」
セオンは2人きりになるやいなや、そう言った。
あの時?
セオンに謝られるような事をされた記憶がなく、返事をしそびれてしまった。
「初めてお会いした時、貴方に剣を向けてしまった。」
セオンに言われて思い出す。
そういえば一番初めに会った時に剣を向けられたと。
「いえ、騎士として当然の対応だったと思います。」
確かに剣を向けられていい気はしなかった。
だが、相手の事情も理解していたつもりだった。
その為、別に気にする必要は無いと思っていた。
「そう言って頂けると助かります。」
セオンは眉をハの字に下げそう言った。
もしかしたら、帰って来たアルに何か言われたのかも知れない。
「コウ殿は馬に乗れますか。」
歩きながら話していると馬小屋に着いていた。
どうやら今から、馬に乗って移動するらしい。
「いえ、乗った事がないもので。」
正直にそう答えると、セオンはでは私の馬で行きましょうと言った。
馬に跨ると、私に手を差し出してくれる。
その手を取りあぶみに足を掛けると、強い力で引っ張られた。
なんとか馬に跨り、セオンの後ろに乗せてもらう。
セオンのしっかり掴まってて下さいね、という声に従い腰に手を回した。
馬が動き出す。
アミーに乗せて貰っていたおかげか意外と抵抗は無かった。
だが、アルと二人でアミーに乗った時もそうだが、男の人がこんなに側にいる事に慣れない。
セオンは私を男だと思っているので何も思わないかも知れないが、私は違う。
ドキドキ速まってしまう鼓動に気付かれないか不安だった。
街中を早いスピードで走る訳もなく、人が走るより早い位の速度で馬は進んで行く。
早まる鼓動を落ち着かせる為に、辺りの景色に目を向ける事にした。
デルヘンの城下町と同じ位人が多い。
人数は同じ位だと言うのに、賑やかに感じる。
なんというか活気があった。
人々の笑顔が多い。
同じ城下町でも国柄は出るようだ。
デルヘンのような、暗いギスギスした雰囲気はなかった。
「着きましたよ。」
セオンの言葉で目的地へ到着したことを知る。
「...ここですか?」
目の前には城が広がっていた。
「あれ?ご存知なかったのですか?
アル様は騎士団長です。
ですので今は、城の中にある執務室にいます。」
存じなかったです。
さらりと言われた事実に思わずそう返事をしそうになった。
私が狼狽しているのはセオンにも伝わっているだろう。
だがセオンは、それを気にせず馬から降りると私に手を差し出した。
手を取り、馬から降りるとキョロキョロと辺りを見渡す。
まさか王都へ来てすぐに城へ入る事になると思っていなかった私は、ビクビクと怯えながら案内されるまま城の中へと入った。




