騎士を迎えに来た騎士
「いいですか、ちゃんと大人しくしてて下さいね。」
傷が痛むから動けないと思うが、念を押しておく。
小さい子供のようにそう言われたアルフォエルは、わかったと返事をした。
アルフォエルの無事を知らせるために、私は小屋を出た。
アミーにはお留守番をして貰う事にした。
もちろんアミーが害をなす事はないが、一応魔物だ。
アミーを連れている事で要らぬ誤解を生む事を避ける為、私1人で行く事にした。
結界を通り抜けると男の声がした。
恐らくアルフォエルを探しに来た騎士だろう。
念の為、気配を消して身を隠しながら様子を伺う。
アルフォエルと同じ様な服を着た男が、アルフォエルの名前を呼びながら探し歩いている。
男の周りには、他に人の姿は無かった。
「あの...」
木の影から姿を現し声を掛ける。
だが突然、背後から声を掛けられた男は大いに警戒し剣を抜いた。
「何者だ!」
剣をこちらに向けながら、男は私にそう言った。
私は悪意の無い事を示すために、両手を挙げる。
「アルフォエル様は無事です。」
私の言葉に少しだけ警戒を緩めた男は、何?と聞き返した。
「アルフォエル様は怪我を負われて、今は私に所にいます。
騎士の方を連れて来る様に言われているのですが、ご一緒願えますか?」
「...わかった。」
男は剣を鞘へ戻すと、私へ視線を送った。
案内しろという意味だろう。
剣は収めたが警戒されたままなのは伝わって来る。
私が歩き出すと、男は数歩離れて後ろを着いて来た。
結界を通ると男は僅かながらに違和感を感じたらしく、辺りをキョロキョロと見回した。
初めて結界を通った時の自分も同じ反応だったのだろうと思うと、微笑んでしまった。
「...何か?」
男は不機嫌そうにそう言った。
これ以上何か言ってしまえば男の警戒を強めるだけだとわかっているので、いえとだけ返事をした。
「こんな所に小屋が...。」
男は何度か森に来た事があるのだろう。
『人払い』によって辿りつけなかった小屋の存在に驚いた様だった。
「ただいま戻りました。」
小屋の扉を開けて中へ入る。
「セオンか。」
私の後ろに続く男の姿を見て、アルフォエルは呟く。
「アル様!ご無事でしたか!」
アルフォエルの冷静な反応とは逆に、セオンと呼ばれた男は目を見開きアルフォエルの元へ駆け寄った。
「ご無事で何よりです。」
ベッドの脇に跪いたセオンはアルフォエルを見上げ、目に涙を浮かべた。
余程心配していたのであろう。
セオンの視線からは尊敬の色が強く伺えた。
アル様と愛称で呼んだセオンはアルフォエルと親しい仲なのかも知れない。
「そこのコウ殿に命を救われた。
無礼のない様にな。」
アルフォエルの言葉にセオンはピキリと動きを止める。
恐らく先程、私に剣を向けた事を思い出したのであろう。
セオンの反応を見逃さなかったアルフォエルは眉間に皺を寄せた。
「お前...」
「大丈夫ですよ、アルフォエル様。
その方はアルフォエル様の事をとても心配してらっしゃいましたが。」
アルフォエルが何かを言う前に私はそれを遮った。
セオンが安堵するのがわかる。
アルフォエルもそれをわかった様だが、私が大丈夫と言ったのでそれ以上何も言わなかった。
「コウ殿、アルフォエル様をお助け頂き感謝します。
して...アル様の怪我の具合は?」
先程までの対応とは明らかに違う態度でセオンは私に聞いた。
自分の上司の命の恩人とわかれば、そんな態度にもなるだろう。
「怪我が大きく、今はまだ安静が必要です。
距離を歩いたり、馬に乗ると傷が開く可能性もあります。
2週間はここで休まれた方がいいと思いますが。」
アルフォエルを連れて帰れるか知りたかったのだろう。
だが、傷が開けばまた治療の期間も長くなる。
今は大人しくしているのが得策だ。
「2週間...ですか。」
「傷が良くなったら私がアルフォエル様をお送りしますよ。」
「貴方が?」
怪我が治ったばかりのアルフォエルを1人で帰らせるのには抵抗がある。
私が護衛代わりに送り届ける事を提案したが、セオンは納得しなかった。
セオンの視線が上から下へ、品定めするかの様に送られる。
信頼どうこうではなく、単純に頼りないと思われた様だ。
セオンの様子にアルフォエルが笑う。
すると傷が痛んだらしく、今度は顔を顰めた。
「セオン、コウ殿の実力は心配ない。
私を襲った魔物を倒したのはコウ殿だからな。」
アルフォエルの言葉にセオンは驚きを見せる。
アルフォエルを捜索中に魔物の死体を見たのだろう。
セオンはホントにコイツが?といった顔で私を見ていた。
「アルフォエル様、私とアミーでです。」
私がアミーに視線を向けると、アルフォエルはそうだったなとどこか適当な返事をした。
「サーベルタイガー!」
小屋に入ってからアルフォエルにばかり気を取られていたセオンは、アミーの存在に気づかなかったらしい。
今さらながら、驚いた声を上げた。
「大人しくていい子なんですよ。」
そう言った私をセオンは信じられない者を見るような目で見てくる。
アルフォエルもセオンも口に出しては言わないが、私を変わり者扱いしている気がする。
この世界で魔物との共存は珍しい事の様だ。
アルフォエルの説得もあり、セオンにはどうにか私の実力を納得してもらった。
2週間を待たずとも、アルフォエルの怪我が良くなり次第私が送って行く事で合意する。
「アル様をお願いします。」
セオンはそう言うと、名残惜しそうに小屋から出て行った。




