仲間を待つ騎士
「俺の仲間を知らないだろうか?」
寝ることを拒んだアルフォエルは私にそう聞いた。
あの時聞こえていた、もう1人の声の人物を指しているのだと思う。
「いえ、私が見た時にはアルフォエル様しかいませんでした。」
「そうか...魔物は、あの魔物はどうした?」
「私と、アミーで倒しました。
そういえば、処理せずにそのままにしてしまってた...」
先程の魔法への反応を見ると、魔法で一突きでしたとは言えなかった。
今まで比較対象がいなかったのでわからなかったが、もしかすると私の魔法は普通に比べて強いのかも知れない。
「それなら心配要らないだろう。
きっと俺を探しにきた奴らが処理する。」
魔物を倒した後、そのままにする事はあまりよろしくない。
魔物の死体に他の魔物が集まってくる事もあるし、そこから病気が流行ることもある為だ。
だから魔物の素材は割と高値で買い取って貰える。
高く買ってもらえるなら、面倒な解体をする者が増えるからだと小百合の本に書いてあった。
アルフォエルを探しに来るのも恐らく騎士だろう。
あの声の主とアルフォエルが別れた場所に残された魔物の死体なら、解体なり処分なりしてくれる。
そういう意味だと受け取った。
「そしてアミーとは?
先程からここにはコウ殿1人しか居ない様だが。」
アミーは今、食事に出ている。
目を覚ました時にアミーがいたら、アルフォエルはどんな反応をしただろうか?
ここまで冷静に話せなかったかも知れない。
「そろそろ帰って来ると思いますが...。」
ちょうどそのタイミングで扉が開いた。
アミーはいつも自分で器用に扉を開ける。
小屋の中に入って来たアミーを見ると、アルフォエルの目が見開かれた。
「サーベルタイガー!」
「アミーおかえり、こっちにおいで。」
アルフィエルは驚いた様に大きな声を出したが、私はそれを気にせずアミーを呼んだ。
アミーが私の隣に座ると、私はアミーの頭を撫でた。
「...驚いたな。
サーベルタイガーが懐くなど聞いた事がない。」
珍しいものを見る様に、アルフォエルはアミーを見ている。
「ずっと一緒でしたから。」
ずっと一緒だったのは小百合だが、昔の聖女の話を今する必要はない。
私が聖女召喚に巻き込まれた事も、今はまだ言わない方がいいだろう。
アルフォエルに言えることは少なかったので、私は誤魔化すようにそう言った。
そうかと言ったアルフォエルは深く追求するつもりはない様だ。
正直それで助かった。
「俺が寝ていたのは2日か?」
話を切り替えるようにそう言われた。
私は頷く事で返事をした。
「ならばまだ、俺の捜索は続いているだろうな。
俺の無事をアイツらに知らせたい。」
「では私が明日、アルフォエル様の無事を伝えに行きます。」
『人払い』のせいで彼らが案内無しでここまで来る事は出来ない。
私が結界の外まで行き、伝えるのが最良だろう。
「誰でもいい、ここに連れて来て貰うのは可能か?」
「わかりました、ではこちらに案内します。」
私のその言葉を聞き、アルフォエルは安心したような表情を浮かべた。
聞きたいことや、話したい事は全て話したのだろう。
アルフォエルは暫し黙ったままだった。
「アルフォエル様、もうお休みになって下さい。
傷の治りが遅くなります。」
アルフォエルはああ、と言うと私の言葉に従った。
横になり目を閉ざすと寝息が聞こえる。
私は明かりを小さくすると、自身に洗浄の魔法をかけた。
今からお風呂では、折角寝たアルフォエルが目を覚ましてしまうかも知れない。
私はなるべく静かにソファへ腰かけると、明かりを消した。
靴を脱ぎ、毛布を掛けるとアミーが足元で丸くなったのが見える。
「おやすみ。」
小さくそう言うと私は瞼を閉じた。
朝になり日の光を感じる。
私は目を覚ますと、アルフォエルへ視線を向けた。
まだ眠っているようで、その胸は規則正しく上下に揺れている。
昨日、食事を取ったおかげで多少顔色も良くなったように思える。
私は顔を洗うと台所へ立った。
アルフォエルは2日も胃の中に何も入れていなかった。
昨夜はたまたま消化の良いお粥だったが、今日もまだ胃に優しい物の方がいいだろう。
私は野菜スープを作る事にした。
野菜をみじん切りにしてじっくり煮込み、胃への負担を減らす。
昨夜は夕食を食べそびれてしまい、私もお腹が空いた。
鍋の蓋を開けると、ふわりといい香りがした。
「いい匂いがするな。」
背後から声を掛けられる。
やはり食べ物の匂いで起きているのかも知れない。
「アルフォエル様、おはようございます。」
私が振り返りアルフォエルを見ると、アルフォエルはおはようと言った。
皿にスープを分け、昨日と同じように盆に乗せアルフォエルの膝へ置く。
「昨日のではないのだな。」
アルフォエルは少し残念そうにそう言った。
どうやらたまご粥が気に入ったらしい。
「また今度、作りますよ。」
私がそう言うとアルフォエルは嬉しそうにスプーンを手にした。




