目覚めた騎士
2日経ってようやく熱が下がった。
あの酷い薬の飲ませ方をしなくて済むようになり安堵している。
だが2日経った今も男は目を覚さない。
傷を治すのにも体力が必要だろうに、寝たままの男は食事を取る事も出来ない。
点滴なんかもない為、男が目覚めてくれるのを待つしか無かった。
寝ている男の顔を眺める。
綺麗な、でも男らしい顔をしていると思う。
少し長めの金色の髪はキラキラと透き通るようだ。
年齢は私より少し上だと思う、20歳を超えた位だろうか。
服装からして騎士だろう。
一緒にいた男が敬語を使っていたのを考えると、地位は低くないのだと思う。
男の熱も下がったし、私は自分の食事を用意する事にした。
男が小屋に来てからベッドを男に譲っている為、私はソファで寝ている。
その疲れもあって、最近食欲が無い。
私はさらっと食べられるようにたまご粥を作る事にした。
お米を研いでお粥を作る。
あっさりとした味付けをすると、最後に卵を流し込んだ。
ふわりといい香りがする。
冷めないうちにとお椀へ粧い、テーブルに着こうと後ろを振り返るとビクリと肩を揺らした。
「ここは...何処だ?」
起きていると思わなかった男にそう言われると、思わずお椀を落としそうになる。
びっくりして声も出なかった。
起きるといいとは思っていたが、まさか起きているとは思わなかったのが本音である。
「お前は誰だ?」
私が返事をしないのに、男は質問を続ける。
このまま黙っているのも失礼だろうと、私は口を開いた。
「私はコウと言います。
ここは私の住んでいる、森の小屋です。
魔物に襲われて倒れていた貴方を、ここへ運んで来ました。」
男は私の答えを聞くと起き上がろうとする。
だが傷口が痛んだのだろう。
眉間に皺を寄せると、声を殺して小さく息を吐いた。
「無理しないで下さい。
やっと傷が塞がって来たんですから。」
私はそう言って、お椀をテーブルに置くと男を支えて上体を起こすのを手伝った。
「すまない...。
俺はアルフォエルだ、この国の騎士をしている。
お前には世話になったようだな、礼を言う。」
アルフォエルは真っ直ぐに私の目を見てお礼を言った。
支える為に近くに居た私は、近い距離での視線に妙な緊張をしてしまう。
「いえ...。
食べられそうですか?
丸2日も寝たままだったので、食べれそうなら食べた方がいいと思うんですが。」
私は緊張を悟られないように視線を外すと、テーブルの上に置いたお椀を手にした。
「いい匂いだな、頂こう。」
アルフォエルはそう言うと喉を鳴らした。
お腹が空いていたのだろう。
もしかしたら、食べ物の匂いで目が覚めたのかも知れない。
お椀を盆に乗せ、一緒にスプーンも乗せた。
私はそれをアルフォエルの膝の上に乗せる。
「これは?」
「たまご粥です。
熱いので気をつけて下さいね。」
そういえばこの世界にお米はないかも知れなかった。
だが出してしまったものは仕方ない、食べて貰うしかないだろう。
アルフォエルはお粥をスプーンで掬って、それに息を吹きかける。
ふわりと上がった湯気が、息に流されて空気中へと消えていく。
見慣れない食べ物にアルフォエルはまだ警戒しているようだったが、恐る恐る口へ運んだ。
「...美味い。」
ポツリとそう呟くと、次を掬いまた口へ運ぶ。
何度もそれを繰り返しているうちにお椀はすっかり空になっていた。
「どうぞ。」
食べ終わったタイミングで暖かいお茶を出す。
アルフォエルはそれを受け取ると、一口口に含んだ。
「初めて食べたが美味かった。」
「それはよかったです。」
本当は自分の為の食事だったのだが、そう言ってもらえるなら譲った甲斐がある。
私は自分の分のお茶も用意すると、ダイニングの椅子に腰掛けた。
「傷は痛みませんか?」
私がそう声を掛けると、アルフォエルはこちらを見た。
「ああ、大丈夫だ。
ただ少し汗をかいたようだ、風呂に入りたいのだが。」
様子を伺うようにそう言われたが、私は首を振って答える。
「まだ完全に傷が塞がっていません。
お風呂はまだ無理です。」
私のその返事にアルフォエルはそうかと言って肩を落とした。
「洗浄魔法で我慢してくれませんか?」
「ほう、魔法が使えるか。」
今度は洗浄魔法に興味を持ったらしく、眉を跳ね上げる。
魔法はそこまで珍しくない認識でいたが、違ったのだろうか。
認識を改めないといけないかも知れない。
私は椅子に座ったまま、アルフォエルの方へ掌を向けると洗浄魔法を放った。
「これは...便利だな。」
すっきりしたのだろう。
アルフォエルの表情が僅かに明るくなったように思える。
「まだ体調も万全ではないですし、お休みになった方がいいのでは?」
食事も済ませたし、体も綺麗になった。
休んで体力を回復させるのが一番だろう。
寝るように勧めたつもりだったがアルフォエルは首を振った。




