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森で会った男

最近ますます魔物が増えた気がする。

小屋の近くへは『魔物避け』がある為近付かないが、狩に行くと魔物に会う頻度が上がった。

アミーもいるし私自身の魔法の練習にもなるので特に問題は無いのだが、この世界の人々への影響はないのか心配になった。


その日も私はアミーを連れて狩に出ていた。

すると遠くから人の声が聞こえる。

今まで何度も狩に出たが、人の声を聞いたのは初めてだった。


「いいから早く行け!俺達2人じゃダメだ。

 助けを呼びに行け!」


姿は見えないが大声で話しているらしく、内容が耳に入る。


「しかしアルフォエル様、貴方を置いて行くなど...」


もう1人の声も聞こえる。

だが彼は余り声を張っていない様でボソボソと聞き取り辛かった。


「お前より俺の方が強い、俺の方が時間を稼げるだろ!

 時間が惜しい、さっさと行け!」


アルフォエルと呼ばれた男は口調は厳しいが、相手を思っているのが伝わる。

2人の会話の合間にも獣の低く唸る様な声が聞こえていた為、2人は魔物に襲われているのだと判断した。


「アミー、助けに行かないと!」


私がアミーの背中に跨ると、アミーは声のする方へ走って行く。

木々の合間から見えたその姿は3メートル以上の大きさの熊の魔物だった。

近付いてみるが熊の魔物以外の姿が見当たらない。

先程まで声がしていたのだ。

近くにいる。

そう思いながら辺りを見渡すと、その魔物の足元に男の人が倒れているのが見えた。


「アミー!近付いて!」


私がアミーに指示を出すと、アミーは魔物に向かって速度を上げる。

私は掌に魔力を溜めると、魔物に向かって氷魔法を放った。

鋭利な氷が魔物の胸元に深く突き刺さる。

グァぁぁぁと大きな声を上げて魔物は暴れる。

しかし魔物ごと木に突き刺さった氷にしっかりと縫い止められ、魔物は暫くすると動かなくなった。

私は倒れている男を仰向けに向き直した。


首から胸にかけて大きく傷ついている。

恐らく魔物の爪にやられたのだろう。

このままでは死んでしまう...!

私は傷口に手を翳すと、治癒魔法を掛けた。

魔力を送りながら、ふと小百合の魔法の本を思い出す。

治癒魔法は非常に希少な為、人前では使わない方がいいと書いてあった。

小百合もそれはノーラに言われた様だ。


治療の手を思わず止めてしまう。

出血は治まったようだ。

瀕死状態は免れたと思っていいだろう。

出血の量が多かったようなので、少しだけ血液を『増殖』させる。

きっと、これ以上の治癒魔法はやめた方がいい。


だがこのままここへ置いて行く訳にはいかないだろう。

私は男をアミーの背に乗せてもらうと、小屋へ連れて行く事にした。




小屋へ着くと、傷口と泥の付いた服に洗浄の魔法を掛ける。

ベッドへ寝かせると傷口に包帯を巻いた。

男は傷が痛むのだろう、ずっとうなされている。

大きな怪我のせいで熱も上がってきている。

私は男の額に濡らしたタオルを乗せた。


本当は治癒魔法を使ってあげたい。

こんなに苦しんでいるのだ。

だが小百合が書き残した事が気になる。

小百合もノーラも無意味にそんな事は書かないだろうと思う。

治癒魔法を使ってはいけないのにはきっと理由があるのだ。


普通の治療を考えると、必要になってくるのは薬だろう。

私は本棚から医学書を引っ張り出した。

ここの本棚にある本は全て目を通している。

解熱剤も傷薬もこの近くで取れる薬草から作れる事は知っていた。

私はアミーに留守番を頼むと、薬草を取りに出た。

薬なんて作った事もない。

でも治癒魔法が使えないなら、何か出来ることをしたかった。

薬草は前回見つけた所と同じ場所に生えていた。

必要な分を摘むと小屋へと急ぐ。

あとはコレを煎じて薬にすればいいはずだ。

家庭の医学的な本だったが、あの傷が家庭の医学で治せるのだろうか。

だが必要なのは解熱剤と傷薬だ。

それは変わらない。

私は小屋へ戻ると、医学書を片手に慣れない薬作りへ時間を費やした。



ようやく解熱剤が完成した。

煮たり擦り潰したりをしているうちにだいぶ時間が経ってしまった。

見るからに不味そうな色をしているが、飲んで貰うしかない。

私はベッドの端へ腰掛けると、男の上体を起こした。

薬をスプーンで掬って、口元へ運ぶ。

どうやって口を開けさせればいいのか。

意識を失っている男に言っても、口を開けるとは思えない。

...仕方ない。

私は男の鼻を摘んだ。

呼吸をする為に開けた口へスプーンを押し込む。

薬を飲ませる為に今度は口を塞いだ。

余程不味かったのだろう。

男は眉間に皺を寄せたが、喉を上下に動かした。

嚥下したのを見届けるとそっと手を離す。

ゲホゲホと男は咽せたが、口の中の物は無くなっていた。

熱が下がるまでこんな事を繰り返すのかと思うと罪悪感が半端ない。

自分に医学的知識があったらもっと上手い方法があるのかも知れないが、唯一の医学的知識を得る為のアイテム、家庭の医学には意識のない人への薬の飲ませ方など書いて無かった。

私は申し訳ない気持ちを感じながら、額のタオルを濡らし直すと今度は傷薬の製作へと立ち上がった。

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