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避けていたページ

魔法の本を読み終えて一週間が経つ。

あれから毎日、魔法の練習をして何とか形になって来たように思う。

比較対象がいないので、自分の実力がどの程度なのかわからないが魔法に慣れて来た感触はあった。

今のところ、魔力切れを起こしたりもしていないのでそこそこ魔力は多いのでは無いかと予想している。


食料の心配もなくなったので、自炊も始めた。

実家暮らしの高校生だった為、台所に立つ機会はそこまで多くは無かったが料理は意外と好きだった。

小百合の書いたレシピ本を見ながら料理をしたり、実家での料理を思い出しながらの自炊はいい気分転換になった。





この小屋に来て直ぐ、まだ私が魔法を知らない内から部屋の明かりは点けられるし、お風呂ではお湯も出せた。

その事を不思議に思っていたが、それが可能だったのは魔力石のおかげだったようだ。

魔力石とは魔物から取れる魔石を加工した物で、それに魔力を込めると使えるらしい。

水魔法を込めたり明かりを込めたりする事でそれぞれの役割を果たす。

この魔力石はこの世界で一般的に使われている物で、小百合がここに来る前からノーラが使っていた。

魔力が多い者は使わなくても良いのではないかと思うが、そうでもないらしい。

実際、いちいち魔法を使わなくて便利なのだ。

それに効率的だった。

魔力石を使った方が魔力の消費が抑えられるし、魔力石を設置する時のみの消費で済む。

また魔力石には2種類あって、魔力入力済みの使い捨てものと自分で魔力を入力する繰り返し使える物がある。

使い捨ての電池と充電式の電池の違いのようなものだ。

使用者は自分に合った物を購入すればいい。

魔力が少ない者は使い捨てを使うし、魔力が多く適性があった者は充電式を使う。


この小屋にあったのは充電式の魔力石だった。

最初から使えていたのは、小百合が込めた魔力が残っていたからだ。

魔力がなくなると壊れてしまう使い捨てよりも、魔力を込めれば何度でも使える充電式の方がこの小屋では実用性があった。


お風呂や明かり、コンロや冷蔵庫など、この小屋でも様々な所にこの魔力石は使われている。

ちょっとそこを照らすだけの懐中電灯位なら魔法を使って照らすが、毎日使うような家の明かりは魔力石が使われる。

何と無くだが、この世界での魔法の位置づけの様な物がわかってきた。




冷蔵庫の中を覗き、レシピ本を開いてみる。

パラパラとめくっていくページの中に、目を止める。


「やっぱり、これは必要だよね...。」


私は動物の捌き方のページ見ながら、ため息を吐いた。


この小屋にいる内は『増殖』を使えば何とかなるだろう。

だが、いつまでこの小屋に居られるかも分からない。

今はこの小屋を出るつもりは無いが、私はこの世界で何度か命の危機にあっている。

いつ何があるかわからないのがこの世界だ。

もしかしたら今後、人が沢山いる所で生活する事も考えられる。

そんな中、気軽に『増殖』が使えるとは限らない。

そうなった時に食料に困らないように、自分で取得する手段はあった方がいいだろう。


そうは思うが中々、動物を捌く事に抵抗があった。

普通に暮らしていた日本の女子高生に、動物を捌く機会など無に等しい。

小百合も最初は難色を示していたし、それが普通の反応だ。

だが今のこの状態が普通では無い。

覚悟を決めるしか無い...。

私は平民の服へ着替えると、狩の準備をした。






小屋の外へ出ると大きく息を吸い、深呼吸をした。

初めての狩だ。

緊張する。

歩き出す私の後ろをアミーが付いて来る所を見ると、同行してくれるのだろう。

心強い味方に少しだけ気を緩める。

小屋から少し離れた所で、少しだけ視界が歪むのを感じた。

前に通った時は空気の膜を感じがしたが、今は僅かだが視界でもそれを捉える事が出来る。


魔法に慣れたからだろうか...。


恐らくコレが『幻影、人払い、魔物除け』何だろうと思う。

要するに結界のようなものだ。

私はそれに軽く触れた。

すると少しだけ魔力を吸われた感覚がある。

小百合の魔法の本に書いてあったが、こうして内側から魔力を認識させないと戻って来られないらしい。

つまり結界が働いてしまうのだ。

私は静に結界から手を離すと、それを通り抜けた。



静に息を潜める。

魔法によって気配は消しているが、静かに行動するに越した事はない。

私は緊張でドキドキと高鳴る胸を押さえ、ゆっくり息を吐いた。

近くの草むらからガサガサと音がする。

目線だけで確認すると、そこからはウサギが出てきた。

大きさから言って成獣だろう。

私は腕を動かし、震える指で照準を合わせる。

初めて生き物に魔法を使う。

額からは汗が流れた。

指先に魔力を集中させ、風魔法を放つ。

しかし、震えた指先は照準を外してしまい、驚いたウサギは何処かへ逃げて行ってしまった。

私は殺していた息を荒々しく吸い吐き出す。

逃げられた事に安心感さえ覚えてしまう。

生きる為に必要な行為とはいえ、やはり生き物の命を奪うのは怖い。

私は額に浮かんだ汗を手の甲で拭うと、その場に座り込んでしまった。

自分の手を見つめる。


今まで普通に肉を食べて来た。

この世界に来てからも、日本にいた時も。

それは誰かが生き物を殺していたから、私の口に入っていたのだ。

今はそれを自分でやらなくてはいけない。

そうして考えると、これまでの食事の有り難みを強く感じた。

私はこれから、一人でも生き抜く力をつけなくてはならない。

強張る足に無理やり力を入れると、私は立ち上がった。

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