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聖女の再召喚

公園のブランコを足を地面につけたまま、キィキィと小さく揺らしている。

辺りはもう真っ暗だ。

街頭の灯りに照らされ、私の足からは長い影が作られる。


皆を思い出し流した涙はもう乾いた。

結局私にはどうする事も出来ないのだと思い知る。

空を見上げると、点々と星が見えた。

あっちの世界の星空に慣れてしまった私にとって、日本の星空は少し物足りなさを感じる。


『おい、コウ。

 あれを見ろ。』


ぼんやりと空を見上げていた私に、ナイミルが慌てたように声を掛けた。

ナイミルの言葉に、私は正面に視線を戻す。

すると少し先に、淡い光を放つ魔法陣が浮かび上がっていた。


「あれって...」


『コウ、急げ。

 消える前に入るぞ。』


ナイミルに言われて私は急いでブランコから立ち上がると、魔法陣に向かって走った。

私が魔法陣入ると、淡かった光は眩い物に変わる。

強い光に目を閉ざすと、体がフワリと浮かぶ感覚があった。

一瞬の無重力の後に、体は重さを取り戻す。

ペタリと座った足元からは、冷たい感触を感じる。


「...コウ?」


聞き覚えのある声に、私は目を開けた。


目の前には驚いた表情のアルがいる。

そして私を囲むようにエマもヨルトもザイド、ガロ、イリーゼも皆が揃っていた。


「わ...私...」


アル達の世界へもう一度来れたんだ。

そう思うと乾いた涙が再び溢れる。


「コウ!」


アルは私の元に駆け寄ると、私をキツく抱きしめた。

アルの腕が暖かい。

この腕の中にいると、安心して私はこれまで起きた様々な事を思い出した。

間接的とはいえ、レクスチェールを死なせてしまった事。

兄に、母に忘れられて孤独を感じた事。

一人では堪え難かった物がアルの腕の中で思い出され、私はアルにしがみ付くと涙を流し続けた。


「コウ、心配したんだから。」


エマの声が優しく私に降りて来る。


「無事、戻って来てくれてよかったな。」


そう言ったヨルトの声が安心したように感じた。

皆が私の帰りを待っていてくれた。

それが嬉しかった。




「コウ、おかえり。」


一通り泣き尽くした私にアルはそう言った。

その笑顔は優しい。


「...ただいま。」


もう帰る場所なんかなくなってしまったと思っていた私は、照れたように返事をした。


「それにしてもコウはまた、そんな格好をして。

 まるで異世界の召喚者じゃん。」


日本で着替えた私の姿に、エマが揶揄うように言った。


「もう、コウはホント...規格...外...」


エマは茶化す様にそう言いながらフラリとその場に倒れた。

近くにいたガロによってその体は支えられたが、ぐったりとしている。


「エマ!」


「恐らく魔力を使い果たしたんだ。」


驚きエマに駆け寄った私に、ヨルトはそう言った。


「コウを呼び戻す為に、何度も召喚魔法を使っていたからな。

 無理もない。」


アルも心配そうにエマの顔を覗き込む。


「エマ...ありがとう。」


私はエマの手を握ると、魔力を注いだ。

私の魔力をエマに徐々に流し込んでいく。


真っ青だったエマの顔に赤みが刺すと、エマは睫毛を揺らし目を開けた。


「あれ?僕、魔力切れを起こしたんじゃ...」


「私の魔力を譲渡したんだよ。」


そう言った私にエマが一瞬驚いた顔をして、それから笑い出した。


「コウはまた、やってくれるね。」


「何が?」


「魔力譲渡なんて聞いた事がない。」


そう言ってエマはおかしそうに笑う。

そんなエマに釣られる様に、私も笑顔になった。


『コウ。』


頭の中にナイミルの声が聞こえる。

私はその声に頷くと、アルを見た。


「アル、聖剣を貸してもらえる?」


「あ、ああそれは構わないが...」


そうだ、アルはあの時気を失っていたから知らないんだ。

私が聖剣を持てる事を。

私はアルから聖剣を受け取ると、アイテムボックスから赤い石を取り出した。

そしてそれを欠けている部分にはめる。


ピッタリとハマった石はキラキラと輝いていた。

そして私の体からナイミルは離脱すると、聖剣へと戻っていく。

それを周りで見ていた皆は、息を飲んだ。


「な、何だ?今、コウがもう一人いた様に見えたんだが...」


ザイドは驚いた様に目を瞬かせながらそう言った。


「今は説明を省くけど、私の前世が一番最初の勇者だったんだ。

 で、その一番最初の勇者はずっと聖剣に宿っていた。

 私はその前世の私によって日本に連れて行かれた。

 ...ねぇ、アミーは今どこに居るの?

 琴美は?」


「今はユリシアの部屋に居る。

 コウが戻ってきたら連れて来て欲しいと言っていた。」


そうか、そこに居るのか。


「わかった、ユリシアの部屋に行く。」


そう言ってユリシアの部屋に向かう私に皆が続いた。

皆の顔に戸惑いが見えるが、今はのんびり説明している暇はない。


「何がどうなってもいるんだ?」


ガロは私の後ろに続きながらそう言った。


「...簡単に言うと、戦いはまだ終わっていない...ってことかな。」


ユリシアの部屋にやって来た。


コンコンコン。


部屋をノックすると、中からサクが扉を開けた。


「...コウ!無事に戻って来たんだね!」


サクはそういうと大きく扉を開け、私に抱き付いた。

ギュッと抱き付くサクの頭にポンと手を乗せると、ただいまと言う。

サクは嬉しそうに、へへっと笑うと私から離れた。


『コウ、戻ったか。』


そう言った琴美の声も安心したように感じる。


「うん...琴美、もしかして...」


『ああ、そうだ。

 この女に憑いておる。』


琴美がそう言うと、アミーがユリシアを見た。

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