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聖女召喚(エマ視点)

城の中庭に僕は1時間を掛けて、大きな魔法陣を描いた。

少しでも違えば、召喚は成功しない。

とても慎重な作業だった。


「魔法陣は完成したよ。」


額の汗を拭いながら、僕はそう言った。

ずっと集中したまま魔法陣を描き続けたが、結局1時間も掛かってしまった。

その間に何も出来なかったアルはもどかしかったのだろう。

ウロウロしていたから思わず、気が散ると怒ってしまった。

しゅんとした様子のアルには申し訳ないが、流石に集中出来ないと困る。

他の皆も何も出来ずの落ち着かない様子だったが、誰もこの場を離れようとはしなかった。

皆、一刻も早くコウに会いたいのだと思う。


「じゃあ早速、召喚に入るからね。」


そう言って僕は魔法陣の外へ出ると、両手を前に突き出す。


「我、お告げを受けし者。

 聖女の名を捧げ、ここに聖女を招かん事を。

 聖女の名はキリュウ サク。

 我に聖女の祝福を願う。」


僕の言葉に反応した魔法陣が淡く光る。

しかしその光は、暫くすると消えてしまった。


「...ダメだ、上手くいかない...」


そう小さく呟くと僕はもう一度手を前に突き出し、同じ呪文を唱えた。


しかしまた魔法陣は淡く光って、そして消えてしまう。

気持ちが焦る。

僕が召喚を成功させなければ、コウにはもう二度と会えない。

そう思ってしまうと自分で自分を追い詰めてしまっていた。


何度も呪文を唱えては魔法陣が光、そして消える。

そんな事を何度も繰り返していた。


「何で...!魔法陣も呪文も合っているのに...」


何度も召喚魔法を試みている為、息が上がり額から汗が流れた。

ハァハァと呼吸を荒くし、膝に手を付くと頬を汗が伝い顎から落ちた。


元々、召喚魔法は難しい魔法だ。

成功に数年掛かる事だってある。

そうわかってはいるが、今は僕しかコウをこの世界に召喚する事は出来ないのだ。

数年なんて待っていられない。

今、今、成功させなければならないのだ。

気持ちばかりが焦る。

早く...早く召喚しなくては...。


そう思いながら両手を前に突き出した。

しかしその手を押さえられる。


「エマ、落ち着け。」


そう言いながら僕の手を掴んでいたのはアルだった。


「だって、僕が召喚しないとコウに...」


会えなくなる、そう言葉にする事さえ怖かった。

言葉にしてしまえば本当にそうなってしまいそうで...。

それにアルだって早くコウに会いたい筈だ。

僕を止める意味がわからない。


「わかっている。

 今はエマ、お前に頼るしかない。

 だからこそ落ち着け。

 お前が無理して倒れる訳にはいかないだろ?」


そう言ったアルは僕に笑顔を見せた。

引きつった笑みに、アルが無理に笑っているのがわかる。

コウに会いたい気持ちはアルも強い。

今はコウが心配過ぎて、笑える気分ではないだろう。

だが、アルは僕を落ち着かせる為に無理に笑っていた。


「少し休憩しよう。

 顔色が悪い。」


僕の手を引いてアルは椅子に座らせた。

座った途端に一気に疲労を感じる。

張り詰めていた糸が切れたような感覚だ。

自分の手を見ると、カタカタと震えていた。

魔力を使い過ぎたらしく、指先が冷たい。


僕はその手をギュッと握ると力を込めた。

もう何度も召喚魔法を使う事は出来ないだろう。

魔力が限界を迎えてしまう。


次こそは...必ず成功させなければ。

力を込めた指先が白くなる。

俯いたまま下を向いた僕の頭にポンと手が乗せられる。

顔を上げるとそこにはヨルトがいた。


「思い詰め過ぎだ。」


無表情のままのヨルトだが、心配しているのが伺える。


「ほら、これでも食べて糖分を取れ。」


そう言ってガロが紅茶と共にクッキーをテーブルに乗せる。


「エマにだけ頼ってしまってすみません。」


イリーゼは僕の顔を見ると、申し訳なさそうに眉を下げた。


「少し肩の力を抜け。」


ザイドは僕の肩を揉むようにしてそう言った。


「皆んな思いは一緒だ。

 大丈夫、コウはきっとここに戻って来る。」


アルの言葉にスッと力が抜けた。

僕一人ではない。

皆の思いが、僕の心を支えた。


ガロが用意したクッキーを一口かじる。

甘味が口の中に広がり、僅かに疲れを溶かす。


「...コウが作ってくれたお菓子、食べたいな...」


僕が甘い物が好きだと知ると、コウは色々とお菓子を作ってくれた。

クッキーやマフィン、タルトにパイ。

それにエリルの件で二人っきりの夜に食べさせてくれたアイスクリーム。

皆んなには、ナイショにしないと、そう言って涙を流したコウが思い出される。


「じゃあ、尚のことコウをこっちに連れ戻さないとな。」


アルはそう言って、魔法陣に目を向けた。

僕は両手で頬を打つと気合を入れ直す。


「休憩終わり!早くコウに会いたい。」


僕は立ち上がると魔法陣に戻る。

大丈夫、コウはきっと戻って来る。

コウもきっと、戻って来たいと思っている。

両手を前に突き出すと、僕はもう一度呪文を唱えた。

魔法陣が淡く光出す。


すると、アルが魔法陣に手を翳した。


「俺の魔力なんか猫の手程も役に立たないと思うが、待ってるだけは性に合わない。

 コウが戻って来た時、ただ待ってたなんて言えないからな。

 それに、コウに早く会いたいのは俺も同じだ。」


アルの魔力が僅かに魔法陣に流れ込む。


「オレはコウを大切な仲間だと思っている。

 コウは誤ちを犯したオレを許してくれた。

 オレがコウだけを信じると言ったら、オレは自分が正しいと思った事を信じろと言った。

 いつもコウはオレと対等で居てくれる。

 だからオレは自分が正しいと思った事をする。」


ヨルトもそう言って、魔法陣に手を翳す。

それに続くようにザイドも魔法陣に手を翳した。


「コウの踊り子姿は綺麗だったな。

 ヴァルシオを救う為に、コウは美しい舞を見せてくれた。

 ワシはもう一度、コウの舞が見たいからの。」


相変わらずザイドは少しずれている気がするが、コウに戻って来て欲しいと思っているようだ。

ヨルトとザイドの魔力が魔法陣に流れ込んだのを感じる。


「コウにはエリル件で世話になったしな。

 おれはまだ、コウに感謝も謝罪もし尽くしていない。

 コウに返さなくてはならない恩は、まだまだ足りないんだ。」


ガロも魔法陣に手を翳すと、ガロの魔力も流れ込んできた。


「エルフ族とドワーフ族のどちらもコウは大切にしてくれました。

 魔王が復活し、時間のない中でエルフ族を見捨てなかった。

 コウはエルフ族を助けてくれた。

 だからわたしも、コウを助けたいんです。」


イリーゼがそう言って魔法陣に手を翳す。

イリーゼの魔力が魔法陣に流れ込むと、魔法陣はその光を強めた。

コウと会いたい皆の思いが、魔法陣の光を強くさせる。


「僕もコウに会いたい。

 コウは僕の親友だから。

 ...僕の残りの魔力を全て注ぐつもりで行くよ!」


僕が注ぐ魔力を強めると、魔法陣は眩い光を放った。

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