表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/141

聖女の名前(アルフォエル視点)

「おい、どういう事だ?コウはどこに消えた?」


聖剣から何かが飛び出し、コウの背中を押すと魔王と共にコウの姿が消えた。

ここにいる皆がそれを目撃したが、誰もがそれを信じられなかった。


「コウは?魔王と一緒に消えちゃったって事?」


エマが不安そうに皆に問う。


『恐らくコウは、今は日本にいるだろうな。』


「日本?」


『忘れたか?魔王はここと日本を行き来していると妾は言ったであろう。』


琴美の言葉に、皆が琴美の小屋での事を思い出す。

確かに琴美はそんな事を言っていた。


「じゃ、じゃあコウは魔王と共に、あっちの世界に行ってしもうたという事か。」


ザイドはそう言うと、悲しげに眉を下げる。

せっかく魔王を封印できたというのに、コウが居なくなってしまっては意味がない。

皆が同じ事を思っていた。


「ねぇ、なんとかコウをこの世界に戻す事が出来ないかな?」


エマはそう言って琴美を見た。


『うむ、戻す...という言い方が正しいかはわからんな。

 コウは元々、あっちの世界の住人だ。

 コウをこっちの世界にもう一度連れて来るとなると、召喚しか方法はないであろうな。』


召喚。

確かにコウがこの世界に来たのは聖女召喚によるものだ。

もう一度召喚すれば、コウがこっちの世界にもう一度来る可能性はある。


「なら、もう一度召喚をしよう!」


エマが張り切ったようにそう言った。

ヴェルアリーグ教の中でも優秀なエマなら召喚の成功の確率は上がるだろう。

皆がコウの再召喚に前向きな姿勢を見せる中、ガロが待ったを掛けた。


「ちょっと待ってくれ。

 おれもコウには戻って来て欲しいと思うけど、それってコウの為になるのか?

 コウは元々居た世界に戻れたって事だろ?

 それなら、このまま元の世界にいた方がコウはいいって思っているかも知れないじゃないか。」


「そ、それは...」


ガロの言葉にエマが言葉を詰まらせる。


「確かにそう言われると否定出来ないですね。」


イリーゼも顔を曇らせながらもそう言った。

皆、コウには戻ってきて欲しいと思っている。

しかしコウの事を考えるとどれが正解か。

皆が答えを探す中、口を開いたのは琴美だった。


『妾もコウに聞いた訳ではないが...。

 其方達は覚えておるか?

 元の世界では召喚された者に関する記憶は消えてしまう。

 つまりはあっちの世界でコウを覚えておる者は居ないという事だ。

 菜花の件を考えても、コウを覚えておる者がいる可能性はないだろうな。』


「誰もコウを覚えていない世界に、コウは今いると?」


ヨルトの質問に琴美はうむと答える。


『家族さえもコウを覚えていない世界で、コウは幸せになれるか?

 コウは孤独を感じておるだろうな。』


琴美の言葉に俺は皆を見た。


「...コウをもう一度召喚するぞ。」


『そうだな。

 ...して、コウの本名を知っている者はおるのか?』


「ん?コウはコウではないのか?」


ザイドが首を傾げると、琴美はため息を吐いた。


『仮に名前がコウだったとしても、日本人には名字がある。』


「ミョウジ?」


『家名の事だな。

 それがわからないと、召喚は難しいのではないか?』


琴美の言葉に皆が静まり返る。

コウがコウである事に、疑問をもった事は無かった。

しかし、コウには別の名前があるという事だ。


「コウが召喚されたのはデルヘンだったな。

 だが、コウの召喚に関わった者は皆、悪霊に取り憑かれてしまったと聞いたぞ。

 まともに喋れる奴がいるかどうか...。

 どうすればコウの本当の名前を知れるんだ...」


「そうですね...。

 ハイント様も、ナノハ様からコウの名前はコウと聞いていたようですし...。」


俺に続いたイリーゼがそう言うと、皆は表情を硬くした。

悲しげな、そして悔しげな表情。

コウにもう一度会いたいと思いながらも、その術がわからない。


コウがベーマールに来て最初に知り合ったのは恐らく俺だろう。

それ以前の事となると、知る者は限られて来る。


「そういえば...コウと一緒に召喚された者が居ると言っていなかったか?」


ふと思い出したようにヨルトは言った。

コウと一緒に召喚された...。


「そうか、サクか。

 サクなら何か知っているかも知れない。」


「今、そのサクは何処に居るんだ?」


「ベーマールにいる。

 よし、サクの所に行くぞ。」


そう言うと俺達はベーマールへと急いで向かった。







「アルフォエル様、よくご無事で。

 魔王は封印出来たのですか?」


城に着くと、セオンに迎えられ声を掛けられた。


「ああ、だが今はそれよりもサクだ。

 サクは今、何処にいる?」


「サクですか?今はユリシア様と一緒にユリシア様の部屋におりますが...」


それだけを聞くと、俺達は走るようにしてユリシアの部屋に向かった。

城の中で何人もの者に声を掛けられるが、今はそれどころではない。

その者達を適当にあしらうと、俺はユリシアの部屋に急いだ。


コンコンコン。


「ユリシア入るぞ。」


返事など待たずに扉を開ける。


「サクはいるか?」


「アルお兄様、どうされたのですか?」


部屋の中には、驚いた表情のユリシアと共にサクが居た。


「サク、お前に聞きたい事がある。

 コウの本当の名前を、お前は知っているか?」


なんの前触れもなくそう言われたサクは、戸惑っているようだ。


「えっと...どういう事ですか?」


「コウの名前だ、コウの本当の名前が必要なんだ。」


鬼気迫る声で俺に問い詰められ、サクがオロオロとしているのがわかる。

しかし時間が惜しい。

尚も詰め寄ろうとする俺とサクの間に、ユリシアは割って入った。


「アルお兄様、落ち着いて下さい。

 どういう事なのですか?」


「説明している暇はない!」


声を荒げる俺の肩に、エマがポンと手を置く。


「アル、ちゃんと説明しないと話が進まないよ。」


デルヘンからここまで来るのでさえ、数日掛かっている。

焦る気持ちばかりが先走り、俺は苛立ちから舌打ちをした。


「僕が説明するから、ね?」


エマも俺と同じ気持ちだろうに、冷静にそう言った。

俺は頷くとエマに任せる。

そしてエマが説明を終えると、ユリシアとサクは顔を青くした。


「そんな...コウが元の世界へ...」


ユリシアが額を押さえ、ヨロヨロと椅子に座り込む。


「そんな訳でサク、コウの本当の名前を教えて欲しいんだ。」


エマはそう言ってサクの顔を覗き込んだ。


「...私もコウから聞いた名前はコウだけなんです。」


サクは青い顔のままそう言った。

どうすればいいのかわからない、サクの表情はそんな感じだった。


「そんな...じゃあどうすれば....」


エマの言葉に、その場に居た皆が暗い空気に包まれる。

最後の望みを絶たれた思いだ。


「...いや待て。」


そう言った俺に皆の視線が集まった。

皆が必死に希望の糸を掴もうとしている、そんな目だ。


「デルヘンでは名前による召喚をしていたんだよな?」


「そんなの今更だろ?

 だからコウの本当の名前を求めてここまで来たんだ。」


ガロは呆れたように言った。


「名前による召喚で、コウとサクは一緒に召喚されたんだ。

 という事は...」


「なるほど、コウとサクは同じ名前。」


俺に続いたヨルトの表情はパッと明るくなった。


「そっか、サクの名前がコウの本当の名前と一緒なんだ!」


エマはクルリと振り向くと笑顔を見せた。


「サク、お前の名前は?」


「キリュウ サクです!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ