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止まった時の中で

『我はその後、後悔の念から聖剣に魂を半分だけ宿らせた。

 我と同じ事が繰り返されぬように、見守るつもりだった。

 しかしレクスチェールは再び魔物の姿で、我の前に現れた。

 人々はいつしかそんなレクスチェールを魔王と呼ぶようになったのだ。』


ナイミルの記憶を手に入れた私に、ナイミルが話しかける。

脳に直接語りかけるような声に、一瞬、自分の声なのではと思ってしまう。

ナイミルの声は私の声にそっくりだった。


『後に知った事だが、レクスチェールは聖剣の石を盗んだ事であのような魔物になったらしい。

 聖剣にあった筈の石が、魔物の額にあるのを見たのだ。

 本来、普通の人間では聖剣から石を盗むなど出来ぬだろう。

 レクスチェールがどうやって石を取ったのか、未だにわからぬままだ。』


ナイミルは聖剣に宿る事で、魔王であるレクスチェールをずっと見て来たのだろう。

そしてそのレクスチェールは、きっとここ日本にいる。

ナイミルもそれがわかっていて、私をあの黒い穴へ押し込んだんだ。


『我の生まれ代わりであるコウが聖女として我の世界へ来た。

 今回なら、レクスチェールを解放出来るのではと思ったのだ。

 巻き込んでしまってすまない。』


「自分の前世の事なら、私も無関係じゃないしね。

 レクスチェールを探すんでしょ?」


前世の自分に謝られるのは変な気分だ。

それにもう既に巻き込まれてしまったのだ。

やるべき事をやるしかない。



日本に帰って来た。

私は時間が止まったままのこの場所を、ぐるりと見渡しながら歩いた。

こんなに沢山の車や人が居るのに、あまりにも静かで不気味な感じがする。

それになんだか違和感がある。

ここは日本で間違いない筈なのに、私が知っているそれとは何かが違うように思えた。

違和感が何かを探りながら歩くと、一人の女子高生の手元に目が止まる。

あれは...ポケベルというヤツではないか?

実物を見たのは初めてだが、テレビで見たことのあるそれとよく似ている。

もし、あれが本物のポケベルなのだとしたら、私は過去の日本に来たという事だ。

辺り人を観察する様に見てみるが、誰もスマホを持っていない。

これだけ人が居れば一人くらいは持っていてもおかしくないのに、誰も手にしていないという事はやはりここは過去なのだ。


何故過去の日本に来たのかはわからないが、私よりも未来の聖女がいたのはきっとこういう事なんだろう。

時間が止まった過去の日本を、不思議な気持ちで歩いていると何か聞こえた気がする。

今までが無音だったので、聞き間違いではない。

誰かが泣いている声が聞こえた。


「あっちから聞こえる...」


私は泣き声が聞こえる方を目指して歩いた。


静まり返った中でその泣き声は遠くまで聞こえていたらしく、暫く歩いたが未だに声の主は見つからない。

だが声は大きくなっている。

確実に近づいてはいるようだ。


もう声はすぐそこで聞こえる。

私はそう思い、ビルの角を曲がった。


「レクス...チェール。」


地べたにぺたりと座り泣いていた女性は、ナイミルの記憶で見たレクスチェールだった。

そしてその真上には、氷漬けになったような魔王であるドラゴンの姿があった。

私の声にレクスチェールが顔を上げる。


「...殿下?」


レクスチェールは目を見開き、信じられない物を見たような表情をした。


「な、ぜ?何故、殿下がここに?」


そう言いながらもレクスチェールは涙が止まらないらしく、ポロポロと涙が溢れる落ちている。


「レクスチェール...」


そう言うとレクスチェールの元まで歩み寄り、レクスチェールを抱きしめた。

それをしたのが私だったのかナイミルだったのかわからない。

でも自然と体が動いたのだ。


「殿下...殿下!」


私の胸に縋り付き泣きじゃくるレクスチェールの頭を撫でる。

泣いているレクスチェールをようやく抱きしめる事が出来た。

そう思ったのは、私の中のナイミルの記憶だろう。

私はレクスチェールが泣き止むまで、彼女を抱きしめ続けた。





レクスチェールの涙が止まると、私はこれまでの事を少しずつ彼女に話した。

3000年前の事、ナイミルが聖剣に魂として宿っていた事、私がナイミルの生まれ代わりである事。

レクスチェールは黙ったまま私の話を聞き続け、話が終わると私を見た。


「本当に殿下にそっくりですね。

 髪と目の色が違えば、殿下そのものです。」


懐かしむように私を見つめるレクスチェールの目は嬉しそうだった。


『レクスチェール、全て我の責任だ。』


ナイミルが私の体を通してレクスチェールに話し掛けると、レクスチェールは一瞬驚いた表情をしてから首を振った。


「殿下のせいではありません。

 全ては私の弱さが招いた事。

 今度は私がお話しさせて頂きます。」


レクスチェールはそう言うと、自身の真上には浮かんだ魔王を見た。


「あの日...殿下に婚約破棄された翌日に私の前に現れたのです。」


「現れた...って誰が?」


「悪魔...と言えばいいのでしょうか。

 真っ黒な小さい影のような彼は、私に言ったんです。

 全ての物に復讐したくはないか、と。」


小さな影。

それはきっと、琴美が魔王を封印した時に見たと言っていた者と同じだろう。

レクスチェールは記憶を辿るように遠くを見ながら話続けた。

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