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魔王の城

数日の船旅を経て、魔王復活の地デルヘンに上陸した。

魔王が復活してそれなりに時間が経っているが、船の上では特に変化は感じられなかった。

だが、デルヘンに上陸した事で思い知る。

私は今回を含めて4回デルヘンに訪れている。

最初に召喚された時、サクを救出に行った時、デルヘン国王が悪霊に取り憑かれた時、そして今回だ。

どの時も忙しくあまりデルヘンを知る機会はなかった。

そんな私でもわかる。

今のデルヘンの様子は明らかにおかしい。


草木は枯れ果て、地面は焼け焦げたように黒ずんでいる。

魔物以外の気配は感じられない。

植物も含め生き物の気配がなかった。


「なんか...荒れ果てた地って感じだね。」


エマがゴクリと喉を鳴らし、そう言った。

ジャリッと踏み鳴らした地面からはじわじわと熱を感じる。

熱くて立っていられないって程では無いが、嫌な感じだ。


「セオンの話だと、魔王はあっちの方角だな。」


アルは自分達が進む方向を見つめている。

鳥や虫の声さえしない。

グルルという魔物の声だけが辺りの響く。


「少ないとは言っても、やはりそれなりの数はいる様だな。」


そう言いながらヨルトは自分の剣を抜き構える。

きっとここから魔王の元までは、ずっと魔物と戦い続ける事になるだろう。

皆に戦い前の緊張が走る。


「デルヘンも災難だの。

 悪霊の次は魔王が復活する地になってしまうとは。」


ザイドはそう言って辺りを見渡す。

これだけ荒れ果てた地で、被害が少なかったのは不幸中の幸いなのかも知れない。


「まあ、ここまで来たら進むしかないな。」


1匹の猪の魔物がこちらに突進してくるが、ガロはそんな事を言いながら魔物を真っ二つにした。

皆、着実に強くなっている。

きっと今なら、最初にアルを襲った熊の魔物でも負ける事はない。


「覚悟は決まっています。

 後は魔王を封印するだけです。」


イリーゼは上空を偵察する様に飛んでいた、カラスの魔物を矢で撃ち落とす。


『覚悟を決めのたなら早く行ったほうがよいな。

 のんびりしておると、決心が鈍る。』


そう言って琴美は、皆の顔を見た。

皆が琴美の言葉に頷く。


「さあ、行こう。」


私がそう言うと、アミーは走り出す。

皆がそれに続く様に馬を進める。

私達は荒れた大地を駆け抜け、魔王の元を目指した。






「これが...魔王城...」


岩を積み上げたように作られたそれは、城と呼ぶにはあまりにも無骨な物だった。

地面から這い出だようなその城の周りは、あちこち隆起している。

まるで来る者を拒むように歩き辛い。

だが、この中に魔王は確実にいる。

そうわかる位の禍々しいオーラのようなものが感じられる。

中にはこれまでの魔物など、比べ物にならない位強い物がいると。


「中に入るぞ。」


そう言ってアルは馬から降りた。

皆がそれに続いて馬から降りると、私もアミーから降り隣を歩いた。

大きな岩をよじ登ったり、飛び降りたりを繰り返しながらようやく入り口まで辿り着いた。

中に入ってみると、意外と広い。

まだ魔王の姿は見えないが、ビリビリと殺気を感じた。


扉などない、まるで迷路のような魔王城の中を進む。

エマが魔法で出した灯りの玉を頼りに、足元を見ながら歩いた。

途中出てくる魔物も、苦なく倒して行く。


「案外余裕だの。」


そう言ったザイドの足元からカチリと音がする。


「ぬおおおおお。」


直後にザイドの足を縄が締め上げ、ザイドは逆さ吊りとなった。

そのザイドに向けて、サソリの魔物が飛び掛かる。

ヨルトがそのサソリの魔物に剣を突き立てると、魔物はビクビクと痙攣し動きを止めた。


「罠があったんですね。」


イリーゼがザイドを踏んだであろう、スイッチをしゃがんで確かめる。


「この世界に来て初めてこういう罠を見た気がする。」


この世界にダンジョンなどがあるかは知らないが、私は行った事がない。

だからこういった罠は初めて見た。


「おい、そんな関心してないで助けてくれ。」


逆さまになったままのザイドがそう言う。

頭に血が上ってしまったらしく、その顔は赤くなっていた。

ガロがザイドの足に絡んだ縄を切ると、ザイドは地面に転がった。


「もう少し丁寧に扱ってくれ。」


ザイドは腰を摩りながら、ヨロヨロと立ち上がる。

被害にあったザイドには申し訳ないが、その事で少し空気が和んだ。

いい意味で緊張が僅かに緩む。

それは皆も同じだったようで、硬かった表情に笑顔が見える。


「さあ、先に進もう。」


そう言ってアルは、皆を先導するように歩いた。




あまり代わり映えのしない城の中を、ただひたすら歩く。

本当にこっちであっているのだろうか、そう思っていたがその答えは出たようだ。

目の前に聳える、大きな扉を見上げる。

これまで扉の無かったこの城の中で、唯一扉だ。

恐らく辿り着いてしまったのだろう。

ギィィと鈍い音を立てて、扉が開く。

部屋の中に入って見た物に、私は驚きを隠せなかった。


「...ドラゴン...」


広い部屋の中心で、大きな翼を広げて威嚇しているのはどう見てもドラゴンだ。

皆も息を飲みドラゴンを只々見つめている。


『奴が魔王だ。』


一人冷静な琴美の声が、静かに私の耳に響いた。

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