一番最初に聖女を召喚した国
一晩休むと、魔王封印の為にデルヘンへ向かう事となった。
王都だけではなく周囲の村や町にも、ハイントが無事戻った事もドワーフの入国禁止が解かれた事も通達された。
恐らく最初に行った港町でも、今度は宿屋に拒否される事もないはずだ。
城を出る準備をしていた私の元に、ハイントがやって来た。
「コウ、そういえばコウに言っておこうと思った事があったんだ。」
既にアミーに跨り、いつでも出発出来る状態の私にハイントは声をかける。
「何?」
「これはぼくの父上が言っていた事なんだけど、一番最初の聖女様が召喚されたのはウラカルドっていう小さな国だったんだ。」
「ウラカルド?聞いた事が無い国だな?」
私の隣にいたアルがそう言って顎に手を当てた。
この世界の住人のアルが聞いた事が無い国とはなんなのだろう。
「魔王に滅ぼされた国だから、今は無いんだよ。
今、ヴェルアリーグ教の教会都市がある所に元々あった国なんだって。」
「そういえば僕も聞いた事がある。
昔、滅んだ国の跡地に教会都市が作られたって。」
ハイントの言葉に続けてエマがそう言った。
「聖女様を召喚したから魔王が生まれたって説と、魔王が生まれそうだったから聖女様を召喚したって説の両方があるんだけど、それらを把握していたウラカルドが滅んじゃったからね。
詳しい記述は残っていないらしいよ。
まあ、この話が魔王の封印に役立つかはわからないけど、一応話しておこうと思って。」
「そっか、ありがとう。」
ハイントはそれだけを言うと、私達を手を振り見送った。
一番最初の聖女話は、教会都市でもあまりわからなかった貴重な話ではあった。
しかしそれが魔王の封印に、どう役立つかはわからない。
『妾も初めて聞いた興味深い話ではあったが、あまり関係はないだろうな。』
琴美もこう言ってる事だし、あまり深く考えなくても良さそうだ。
最初に訪れた港町を目指す為、馬に乗ったアル達と並走する様にアミーと走る。
私達はこうしてユルフェクトの王都を後にした。
港町で船に乗り換えるとすぐに、デルヘンへ向けて船を出した。
皆の会話は少なく、船全体に緊張感が漂う。
いよいよ今回の旅の目的である魔王封印に向かうのだ。
緊張するなと言う方が難しい。
今回は魔王の復活も聖女を召喚したデルヘンだったが、聖女召喚の地と魔王復活の地は同じとは限らない。
魔王復活の地に法則は無いらしく、その為予測は不可能だった。
「コウ、セオンに連絡出来るか?
デルヘンの状況を聞きたい。」
私はアルに頷くと、ポケットから通話の魔力石を取り出した。
魔力を込めると電子音が響く。
何度かその音を繰り返すと、魔力石からセオンの声が聞こえた。
「セオンか?」
『アル様ですか?どうされましたか?』
「たった今、ユルフェクトを出てこれからデルヘンに向かう。
その前にデルヘンの状況を聞いておきたくてな。」
アルとセオンの会話に皆が集まる。
皆、これから向かう地が気になるようだ。
『デルヘンですが、思ったよりも被害は大きく無いようです。
魔王が復活した地に町や村がなかったのもそうですが、聖女の粉が効いたと住民は話していました。』
「聖女の粉?」
アルが不思議そうにしたが、私はああそんな物もあったなと思い出した。
聖女の粉とは前に私がデルヘンで振り撒いた、聖魔法のお清塩の事だ。
何故かそれが聖女の粉と呼ばれ、厄除けの御守りのような扱いを受けていた。
セオンに頼まれて瓶詰めにしたが、それがデルヘンで出回っていたらしい。
本来、魔王が復活するとその周りには沢山の魔物が現れる。
俗に魔王軍と呼ばれる魔物達だ。
魔王復活で一番最初に出る被害が、その魔王軍によるものが多い。
しかし今回は魔王軍の数が少なかったらしい。
どうやらそれが、聖女の粉による効果だと噂されているようだ。
「...コウは相変わらずやってくれるな。」
ボソリと呟いたヨルトの言葉に、皆が同意するように頷く。
「まあ、その聖女様が味方ってのは心強いんじゃないかな?」
ガロは明るくそう言って、ニカッと笑って見せた。
それにより船の雰囲気も僅かに明るくなる。
『魔王が復活した場所はデルヘン王都の南西になります。
住民は皆、ベーマールに避難させましたので近くに人は居ない筈です。』
「そうか、わかった。」
『では御武運を。』
そう言ってセオンとの通話は切れた。
「そう言う事らしいから、コウ大暴れしても大丈夫だぞ。」
そう言ってアルは意地悪な笑みを向ける。
「いや、大暴れするのは私じゃなくて皆んなでしょ?」
「う〜んでも、一番暴れそうなのはザイドだけど被害を出しそうなのはコウだよね。」
エマまで便乗したように揶揄ってくる。
「まあ暴れていいならワシは戦いやすいがな。」
ザイドは満更でもなさそうに言う。
「おれらは後半のメンバーだから、ここで活躍しないと見せ場がないからなイリーゼ。」
ガロはそう言って背中に背負った大剣を引き抜くとイリーゼを見た。
「ええ、そうですね。
わたしも同行者として大暴れして見せますよ。」
ガロに倣うようにして、イリーゼも弓を構える。
魔王復活に対して緊張に包まれていた船内が、一気に明るくなった。
大丈夫、このメンバーなら魔王を封印出来る。
私はそう思いながら、デルヘンの方角を見つめた。




