同じ名前の友達
アミーに任せたまま暫く進むと、森へ入った。
町や村では身を隠す場所はなかったのだろう。
森の中ならこれまで見つける事が出来なかったのも頷ける。
アミーが仕切りに地面の匂いを嗅ぎ、辺りを見渡す。
『どうやらこの辺りらしいな。』
琴美がそう言うと、私は辺りの気配を探った。
確かに人の気配がする。
上手く隠れていたようだが、アミーの鼻は誤魔化せなかったようだ。
「うおうりゃ!」
「とおおおう!」
威勢のいい掛け声と共に草むらから飛び出した二人を、風魔法で払い除ける。
簡単に吹っ飛ばされ、木に背中を打ち付けた二人は紛れもなくゲインドルの息子達だった。
「くそ!せっかく上手く行ってたのに、お前のせいだぞ!」
「お前が先に飛び出すからだろ!」
相変わらず仲の悪い双子だ。
ザイドは双子の前に立つとそのまま、双子に両手で拳骨を喰らわせた。
「〜〜〜っイッター!」
「イッテェー!」
仲が悪い割に動きはシンクロする。
二人はまったく同じように、ザイドに殴られた頭を押さえた。
「何する...ってザイド!」
「なんでザイドがここにいるんだ!」
「バカモン!お前らは他所様の国に迷惑をかけおって!」
ザイドに怒鳴られて双子はビクリと肩を揺らす。
しかし、それだけではめげないようだ。
「おいザイド、父上はどうした!」
「俺達にこんな事して、父上が黙ってないんだぞ!」
「ゲインドルなぞとうの昔に捕まったわ!」
ザイドの言葉に一度は黙るが、その後はまた嘘だとか出任せをとかゴチャゴチャうるさい。
私は剣を抜くと双子にその切っ先を向けた。
「「ヒッ。」」
「ゴチャゴチャうるさい、お前らが拐ったエルフは何処だ?」
お互いを抱くように寄り添い震える双子を睨みつける。
ガチガチと歯を鳴らし座り込んでいるところを見ると、本当に怯えているようだ。
ザイドは特に私を止める事もせず、腕を組んで事の成り行きを見ている。
「さっさと案内しろ。
何も二人いる必要はないんだぞ。
口を割るつもりがある方だけ残ればいい。」
私はそう言うと切っ先を1人ずつに向けてみせる。
「お、俺が案内します!」
「いや、俺が!だから殺さないでください!」
命乞いをする様に、双子はそれぞれ胸の前で祈るように手を組む。
あまりの呆気なさに、やれやれと言葉が漏れそうになった。
「...早くしろ。」
静かにそう言うと、私は剣を鞘に戻した。
双子は安心しように息を吐き、立ち上がる。
我先にと森を歩き出した双子に続いて私たちは歩いて行った。
お互いを引っ張るようにして歩いている双子は本当に仲が悪いようだ。
その二人の様子に私はため息を吐いた。
「...コウってやっぱり聖女っぽくないよね。」
ポツリと呟いたエマを見てみると案の定、呆れた顔をしている。
「あんな脅し慣れた聖女など普通はいないだろう。」
ヨルトは無表情のままそう言い放った。
「聖女様ってあんな事もするんですね。」
そう言ったイリーゼは少し怯えた表情をしている。
「まあ、コウだからな。」
アルはもう慣れたといった顔だ。
だが、その一言で済ませるのは辞めて欲しい。
「あ、あの...」
「ここ...です。」
先頭を歩いていた双子が恐る恐る声を発する。
双子がそう言った先には、気を失い倒れた男性エルフが横たわっていた。
「ハイント様!」
イリーゼは声を上げるとそのエルフへと駆け寄った。
近付き息を確認したイリーゼが安心したように、息を吐く。
「...気を失っているだけです。」
そう言ったイリーゼの隣に膝を着き、私はハイントの顔を覗き込んだ。
少し顔色が悪いが、見たところ怪我はないようだ。
私はハイントの胸の辺りに手を翳すと、治癒魔法を掛けた。
淡い白色の光が収まると、ハイントは静かに目を開ける。
「ハイント様!」
「イリーゼかい?僕は一体...」
そう言いながらハイントは辺りを見渡した。
自分を囲む人々に、何となく自分の状況を思い出したようなハイントはイリーゼに視線を戻した。
「助けに来てくれたんだね、ありがとう。」
「聖女様や勇者様達が助けて下さいました。」
イリーゼの言葉にハイントはもう一度私達を見る。
「皆さん、ありがとうございました。」
そう言って微笑むハイントを見て、皆が安心した表情をする。
「ではとりあえず、王都に戻ろうか。」
ガロがそう言うと、アルが頷いた。
「そうだな。
コウ、すまないが馬車を出してもらえるか?
罪人を運ばなくてはならないからな。」
アルに言われて、私はアイテムボックスから馬車を出した。
アイテムボックスを知らなかった者達は驚いたようだが、今はそれに構っている暇はない。
イリーゼが双子に手枷をはめると、馬車の荷台に押し込んだ。
ヨルトが馬車の御者をし、ザイドは見張りとして馬車の荷台に乗った。
ドワーフのザイドに見張りを任せたところを見ると、イリーゼはザイドを信頼出来ると思ったという事だろう。
ハイントを自分の馬に一緒に乗せるとイリーゼは少し緊張したような顔をした。
まだ日が暮れるまでは時間がある。
私達はこのまま、王都に戻る事にした。
「コウ、一つ聞いてもいいですか?」
森を抜け王都への帰路を辿っていると、イリーゼは私に声をかけた。
「何?」
さっき双子を脅してから、少し怯えられてしまったイリーゼから話しかけられると思わなかった。
私はなるべく怖がられないように気を付けながら、返事をする。
「何故、わたしを連れて行こうと思ったのです?
ザイドとは元々仲間だったので、わかります。
でもわたしは、まだ仲間にもなっていません。
なのに何故、わたしを置いて行こうとは思わなかったのですか?」
ユルフェクト女王にどちらか選べと言われた時の事を言っているのだろう。
私の中ではどちらかを置いて行く選択肢は無かったのだが、それが皆に理解されるものではなかったらしい。
「女王陛下にも話したけど、私はユルフェクトを蔑ろにするつもりはないんだ。
だからイリーゼが同行者なら、私は一緒に旅をしたいって思った。
逆にイリーゼに聞きたいんだけど、エルフ族で犯罪を犯した人がいたらエルフ族皆んなが処罰されるの?」
「いや、そんな事があるはず無いですよ。」
「今回はそれと同じだと思うんだよね。
ハイント様が拐われたのは見過ごす事の出来ない犯罪だけど、それでドワーフ族全員が悪いってなるのはおかしいよ。
ハイント様の誘拐を指示したのはヴァルシオじゃない、この双子が勝手にした事でしょ?
それなのにドワーフ族とエルフ族の間に確執が生まれるのは、どうかと思って。」
私の話をイリーゼと一緒に聞いていたハイントが、うんと頷く。
「コウの言う通りだね。
個人の犯罪が国全体の責任になるのは変だよね。
...ところでコウって、騎士なんだよね?」
たかが騎士が、イリーゼを連れて行くかどうかを決めるような発言をしていたのが気になったのだろう。
ハイントは確認するようにイリーゼに聞いた。
「ハイント様、コウはこう見えて聖女様なんです。」
イリーゼの言葉にハイントが驚き目を瞬かせると、私をマジマジとみる。
「これは驚いたな...。
...コウ?コウって言ったよね?
そう言えば母上の元の世界の友達に、そんな名前の人がいた気がしたんだ。
懐かしいな...」
そう言ってハイントは母親を懐かしむように空を見上げた。
そういえばハイントの母親は日向 菜花という聖女だった。
私はその菜花について、ハイントに聞こうと思っていたのだ。
「ハイント様、私にハイント様のお母様の事を教えて頂けませんか?」
ハイントは私が自分の母親に興味を持った事に嬉しそうだ。
笑顔で頷くとハイントは菜花について話し始めた。




