昔の聖女の息子
「ねえコウ、どうやって2日でハイント様を探すつもりなの?」
城を出るとエマはすぐにそう聞いた。
エマだけではない。
他の皆も同じ事を思っていたらしく、私に視線が集まる。
「えっとね、アミーなら探せるんじゃないかと思って。」
ユルフェクト女王はハイントを拐ったドワーフを双子と言っていた。
双子のドワーフに心当たりがある。
恐らくゲインドルの息子達だ。
奴らは歌の上手いエルフを連れてくると言って、あの時出て行った。
その歌の上手いエルフが、ハイントだったのだろうと予想がつく。
それに私が踊り子に扮してヴァルシオの王都に入っていた時に、王都の外で待っていたアミーは一枚の布の切れ端を咥えていた。
私はその布に見覚えがあった。
ゲインドルの息子達のどちらかが身に付けていたものだった。
つまり、アミーはあの双子に会っている。
どう言った経緯で布を咥える事になったかは知らないが、双子を知っていることに意味があるのだ。
それと以前、エリルはアミーの事を鼻のいいワンちゃん言っていた。
聞き捨てならない言葉だったが、それはサーベルタイガーは鼻がいいと言っていたという事だ。
だから私はアミーなら双子の匂いを追って、探す事が出来ると思ったのだ。
私が皆にそれを話すと、皆納得する。
「なるほどな、確かにアミーなら追えるかも知れないな。」
ヨルトがそう言いながら頷いた。
「...皆、すまんの。
ワシのせいでいらん手間を掛けさせてしまった。」
ザイドが下を向いたまま、私達に謝る。
普段が普段だけに、落ち込むザイドはかなり元気がないように見える。
「ザイドのせいじゃないだろ。」
ガロはそう言ってザイドを慰めるが、あまり効果は無かったようだ。
「あの時、ゲインドルの息子達を甘く見て野放しにしたワシの責任だ。
まさかあ奴らが本当にエルフを拐いに来るなんて。」
確かにあの時にゲインドルの息子を見逃したのはザイドにも責任があるかも知れない。
ただ、あの時のヴァルシオの状況を考えると、ザイドだけの責任とも言い難い。
結局のところ悪いのは、ハイントを拐ったゲインドルの息子達なのだ。
「ザイド、今は落ち込んでる場合じゃない。
まずはゲインドルの息子達を探す事が優先でしょ?」
今、ザイドに慰めの言葉を掛けても聞きはしないだろう。
それよりも道を示してやる方がわかりやすい。
それで結果が伴えば、ザイドだけではなくエルフ族の心も動かせるかもしれない。
『うむ、コウの言う通りだ。
今はハイントを探す事だけに集中しよう。
幸いアミーも双子の事を覚えておる。
匂いを辿れば見つけられると言っておるし、それもすぐに片付くだろう。』
琴美を通してアミーと会話が出来るのは、非常に助かる。
私達は早々にハイントを探しに出ようとしたが、それを呼び止められた。
「あの聖女様、私も同行させて頂けないでしょうか。」
そう言ったのはこの国の同行者のイリーゼだ。
土地勘のないこのユルフェクトで、エルフが居てくれるのは助かる。
私が皆を見ると、私の意図を汲んでくれたようで皆が頷いた。
「わかりました。
では王都を出たらザイドの手枷を外してもらえますか?」
「はい、ありがとうございます。」
私の了承の返事にイリーゼは嬉しそうにする。
私達はイリーゼを仲間に加え、ハイント捜索に出た。
王都を出ると、アミーは地面の匂いを嗅ぎ進んで行く。
きっとこのままアミーに任せておけば、ハイントはすぐに見つかりそうだ。
「あの、イリーゼさん...」
ハイントの事を聞こうと思ったが、イリーゼによって私の言葉が遮られる。
「聖女様、私の事はイリーゼとお呼び下さい。
それと敬語も辞めて頂きたいのです。」
「わかった、じゃあ私の事はコウと呼んで。
敬語も使わなくていいから。」
私がそう言うとイリーゼは困った顔をする。
「聖女様にそのような口の聞き方は...」
「じゃあ私もイリーゼさんって呼ぶし、敬語も辞めません。」
私の言葉にイリーゼは益々困った表情をする。
「ではコウと呼ばせて頂きます。
ですが敬語は...あの癖なので、見逃して頂きたい。」
眉を下げそう言ったイリーゼに私はキョトンとしてしまった。
そうか、癖か。
それならば仕方がない。
日本でも敬語が癖な人は稀にいた。
納得せざるを得ないだろう。
「わかった、よろしくねイリーゼ。」
私がそう言って笑うとイリーゼは安心したように笑顔になる。
「イリーゼ、聞きたい事があるんだけどいい?」
「なんでしょう?」
「ハイント様ってどんな人なの?
昔の聖女の息子って言ってたけど。」
そう聞いた私にイリーゼは俯く。
ハイントは余程エルフにとっては重要な人物らしい。
イリーゼが心配しているのが伝わる。
「ハイント様は日向 菜花様のご子息です。
菜花様と、その時の同行者の男性エルフとの間に生まれたお子さんです。
我々エルフ族は女性が多い種族の為、聖女様を妃としてこの国に迎えるのが難しく、菜花様はこの国に残られたたった一人の聖女様なんです。
そのご子息ですので、ハイント様は我が国で大切に扱われているのです。」
なるほど、そう言った理由でハイントはこの国の重要な人物となっていたのか。
確かに貴重な聖女の血を引く者だ。
大切に扱われるのも納得がいく。
それと気になったのが、日向 菜花の名だ。
前にも気になった覚えがある。
あれは確か教会都市で、聖女の事を学んだ時だ。
聞き覚えがある名前のような気がしたが、思い出せなかった。
そして今もその名前に同じ感覚になる。
何かを思い出せそうで思い出せない。
そんな感じだ。
「菜花様ってどんな方なの?」
「そうですね、ハイント様に聞くのが一番分かると思います。
なにせ実の母親ですから。」
確かにイリーゼの言う通りだ。
菜花の事はハイントを探し出してから本人に直接聞こう。




