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沢山の聖女を見てきた者

ユルフェクトの城を見上げて見る。

アニメ映画で見た事があるような氷の城が、目の前には聳えていた。

実際、寒くは無いのだが、雪と氷の城を見ていると何だか寒く感じてしまう。

だが、今はそんな事を気にしている場合では無い。

イリーゼは私達を謁見の間に案内した。


「女王陛下、聖女と同行者を連れて参りました。」


ユルフェクト女王の前に行くと、イリーゼは片膝を付きそう言った。


「待っておったぞ。

 して聖女様は?」


私達を見渡してユルフェクト女王はイリーゼに聞く。


「私が聖女のコウです。」


私は一歩前に出ると、ユルフェクト女王に向かって騎士の礼をした。


「...お主が聖女とは嘆かわしいな。」


そう言ったユルフェクト女王は私を見下すような視線を送るとため息を吐いた。


「騎士の真似事をしながら旅をするなどはしたない。

 これまでの聖女様が聞いたら、呆れるぞ。」


「聖女に対してその言い草は、あまりにも失礼では?」


ユルフェクト女王の言葉にアルは怒りを露わにし低い声でそう言った。

そのアルに対してもユルフェクト女王はフンと鼻を鳴らす。


「コウよ、そのドワーフを同行させるなら我が国の同行者は同行させんぞ。」


「...どう言う事でしょう?」


「そのドワーフかイリーゼのどちらかを選べと言っておる。

 双子のドワーフがハイントを誘拐したのは事実。

 我が国ではドワーフを許さない。」


そう言ったユルフェクト女王はザイドを刺すように睨む。

エマ達は困ったようにザイドとユルフェクト女王を交互に見た。


「さあどうするコウ。

 騎士の真似事などして遊んでおるお前に、決める事が出来るか?

 ....聖女とは本来、神聖なもの。

 それを汚すようなお主など、聖女とは認めたくないがな。」


『もう止めぬかメディ。』


延々と続くユルフェクト女王の嫌味を遮ったのは琴美だった。

琴美の声にユルフェクト女王は弾かれたように辺りを見渡す。


「い、今、琴美様の声がしなかったか?」


キョロキョロと辺りを見渡しながら、ユルフェクト女王は怯えたようにそう言った。

まるで先程までの横柄な態度とは別人のようだ。


『コウは立派な聖女だ。

 共に過ごして来た妾が証明しよう。』


「...琴美...様?」


信じられないようにアミーを見て、ユルフェクト女王は呟いた。


『久しいのう、メディよ。』


「琴美、知ってるの?」


まるで知り合いのように話す琴美に聞いたが、どうやらそれもユルフェクト女王の怒りに触れたらしい。


「無礼者!琴美様になんて口の聞き方を!」


『落ち着けメディ。

 妾が頼んで、そうしてもらっておる。』


琴美に窘められると、ユルフェクト女王は口を噤んだ。


『妾とメディ、メディエランは共に魔王を封印した者同士なのだ。

 つまり、メディは妾の時の同行者だ。』


「ワタクシが出会った聖女様の中で、一番聖女様として美しかったのは琴美様です。

 琴美様は常に凛とされ、常に神聖な方だった。

 ワタクシはその後も同行者として何人かの聖女に会いましたが、琴美様を超える方はいなかった。」


ユルフェクト女王は心酔したように琴美を褒める言葉を口にした。

きっと当時の事を思い出しているのだろう。

うっとりした目で空中をぼんやり見ている。


『訳あって幽霊となった妾をコウが解放し、更に聖獣に憑依までさせてもらった。

 コウは聖女としてしっかりと仲間の信頼も得ておる。

 それをお前にとやかく言う権利はあるか?』


心酔している琴美に咎められ、ユルフェクト女王は何も言えずにいた。

ユルフェクト女王はきっと、何人もの聖女を見てきた事で自分の理想を押し付けるようになってしまったのだろう。

そしてその理想が琴美という訳だ。

だが、自分が行ってきた事の結果が琴美に咎められる事になってしまった。


『もうすでに魔王も復活しておる。

 ここは協定国として協力しあい、同行者を魔王封印へ向かわせるべきではないか?』


「...いくら琴美様に言われたとしてもそれは出来ませぬ。

 ハイントは我が国にとって、それほど大事な者なのです。」


ユルフェクト女王は琴美に向かってハッキリとそう言った。

心酔している琴美に対してもそう言い切るのだ。

この国にとっては余程の事なんだと理解する。


「さてコウよ、どうする?

 そのドワーフかイリーゼか。

 どちらを選ぶのだ。」


先程までの威圧感はなかったが、ユルフェクト女王は真っ直ぐに私を見てそう言った。

そのユルフェクト女王を私は見つめ返す。


「...どちらも選べません。」


「何?」


ユルフェクト女王は片眉を跳ね上げると、訝しげな表情をする。

話を聞いてなかったのかと視線で訴えられたが、私はそのまま話を続けた。


「ザイドはこれまで一緒に旅をして来た大切な仲間です。

 ザイドを置いて行くなどあり得ません。」


「ならばドワーフを選ぶと言うのだな?」


「いえ、ユルフェクト女王国は協定国です。

 そんな国を蔑ろにするつもりもありません。

 それにイリーゼはこれから仲間になる者です。」


「話にならんな、そんなのはお主のわがままだ。」


ユルフェクト女王はイラついたように、玉座の肘置きをコツコツと爪で鳴らす。


「そうですね、私のわがままです。

 ですが私はどちらも譲りたくない。

 同じ位大切なものだと思っています。

 ...なのでハイント様を連れ戻します。」


ユルフェクト女王は驚いたように目を見開いた。

魔王が復活した時間のない中で、そんな事を言うとは思ってもみなかったのだろう。


「無理だ、時間がないであろう。

 ハイントが何処に行ったのかもわからないのだぞ?」


「国から出る為の港は監視していたんですよね?

 つまりはこの国に居るという事。

 ならば見つけてみせます。」


「...もし見つけた所で、ドワーフがハイントを拐った事実は消えぬ。」


ユルフェクト女王はそっぽを向いてそう言った。


『メディ、その位は大目にみてはくれぬか。

 ユルフェクトも協定国との間に溝ができるのは望まぬだろう?』


「...わかりました。

 2日だ。

 聖女降臨式準備にかかる2日だけ待ってやろう。

 それを過ぎれば、そのドワーフかイリーゼのどちらかを諦めてもらうぞ。」


短いが猶予は貰えた。

私達はユルフェクト女王に頭を下げると、謁見の間を後にした。

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