町の様子
5日間の航海を終えて私達はユルフェクトの港に到着した。
私は船の上で、皆からエルフについて色々教えてもらった。
エルフ族はこの世界で一番の長寿の種族だ。
そしてドワーフ族とは逆に女性の割合が多く、人口の7割が女性となっている。
その為かはわからないが女性の寿命が約1500歳、男性の寿命が約2000歳となっているらしい。
エルフ同士での子はもちろんエルフだが、女性のエルフが産んだ子供は全てエルフとなる。
しかしハーフエルフが存在しない訳ではない。
他種族の女性とエルフ族の男性の間の子はハーフエルフとなるらしい。
エルフとハーフエルフで寿命は変わらないらしく、変わるのはエルフ特有の能力だけとなる。
エルフ特有の能力、それは念話だ。
つまり、エルフは心の中で会話が出来るという事だ。
それがハーフエルフは出来ないらしいが、他の種族には元々ない能力なので大した不便はないように思える。
それとエルフの念話はかなり限定された物で、家族間しか使えない。
なので結局、他人と話すには会話が必要になってしまう。
その為あまり実用的ではないと言えるだろう。
後、見た目で違うのは耳の長さだ。
ハーフエルフの方がわずかに短いらしいが、私達から見ればどちらも長いのであまり見分けはつかない。
エルフ達にしか違いがわからないのだが、見た目の差はその位だ。
港に降り立ち辺りを見渡す。
チラチラと空からは雪が舞い降りている。
町全体を覆う雪に身震いを起こしそうになるが、不思議と寒くない。
近場に山を作っていた雪に触れて見たが、それも冷たくなかった。
「ねぇ、何でここの雪は冷たくないの?」
「何を言っているんだコウ?
冷たい雪なんか見た事がないが。」
聞いたのは私なのに、それに疑問を返されてしまった。
だがそういえば、私はこの世界で雪を見た事がない。
この世界の雪は、冷たくないのが普通なのかも知れない。
「コウの世界では雪は冷たかったの?」
「うん、だから寒い時期にしか雪は降らなかったよ。」
エマに聞かれて私は答える。
日本での冬を思い出して、懐かしくなってしまった。
「ユルフェクトはいつも雪が降っているしな。
というか、雪はユルフェクトにしか降らないんだよ。」
ガロは空を見上げながらそう言った。
私もガロに釣られるように空を見る。
青空なのに雪が降っている。
不思議な光景だった。
「そろそろ宿を探さんか?
ワシは腹が減ってしまった。」
ザイドのお腹の虫が、ザイドの言った事を肯定するように大きな音をならす。
アルは苦笑しながらも、そうだなと言って宿を探しに町へ入った。
「何だか様子がおかしくない?」
町に入って少し歩くが、何かおかしい。
町のエルフ達がこちらを見ながらヒソヒソと話している。
アミーに驚いているのかと思ったが、そういう訳ではないようだ。
「コウもそう思うか?オレも気になっていたんだ。」
ヨルトが私の言葉に同意する。
やはり私だけが感じていた訳では無いようだ。
「まあ気にはなるが、こちらに何かして来る訳でもないからな。
今は放っておくしかないだろう。」
アルはそう言って宿に入った。
慣れない船旅で疲れも溜まっている。
出来れば早めに休みたい所だ。
「今日から一泊したいんだが空いているか?」
アルが宿屋の女将にそう聞くと、宿屋の女将は私達を見た。
「...申し訳ありません、本日は満室となっておりまして。」
どこか冷たく感じる声で宿屋の女将は返事をする。
あまり人がいるようにも見えないが、女将がそういうのならば食い下がる訳にもいかない。
「...そうか、この町に他の宿屋はあるか?」
「小さい町なので、ウチ以外はないですよ。」
そう言うと宿屋の女将は用件は済んだとばかりに、視線を逸らす。
皆が何か言いたそうにしているが、ここで騒ぎを起こす事は避けたい。
私達は仕方なく宿屋を出た。
「やっぱり変だよ、この町。」
エマは腕を組み、不機嫌そうにそう言った。
「ああ、だが今は寝場所の確保が優先だ。
この町の宿が無理なら、町の外で野宿をするしかないだろう。
日が暮れる前に野営地を探すぞ。」
「もうワシは腹が減ったぞ。
そうそうに場所を決めて飯にしないと死ぬ。」
アルに続いてそう言ったザイドは本当にげっそりとしている。
一食食べなかった位で死ぬとは思えないが、ザイドにとっては死活問題なのだろう。
私達は町の中を見る暇もなく、急いで町を出た。
「やっぱり変だよ、あの町。」
町を出て野営地を決め、今は夕食を終えた所だ。
焚き火を囲むようにして座っていた私達を見ながら、エマはそう言った。
「そうだな、本来エルフ族はもっと友好的な種族だろう。
あんなよそ者を邪険に扱うような事は無かったと思うが。」
ヨルトも焚き火を見ながら、考えるようにしてそう言う。
『妾が昔来た時も、あんな扱いは受けなかったぞ。』
琴美も同じ意見のようだ。
やはり今のあの町の様子がおかしいらしい。
「う〜ん...そうだな、ユルフェクトの王都は港からそう遠くはなかった筈だ。
今は魔王も復活してしまったし、町の事は気になるが王都に行った方がいいんじゃないか?」
そう言ってガロはアルを見た。
今後の方針をアルに聞きたいのだろう。
「コウはどう思う?」
アルは顎に手を当て、少し考えた後の私にそう聞いた。
「そうだね...おかしいのがあの町だけなのか、ユルフェクト全部なのか今はそれが判断出来ないし...。
原因もまだわからないし、一度王都に行って様子を見るのもいいんじゃないかな?
魔物が絡んでいるようにも思えなかったから、それからでもあの町の対応は遅くないと思うよ。」
「確かにそうだな...、よし明日は王都に向かおう。
そこで何かがわかるかも知れないからな。」
アルの言葉に皆が頷く。
この日は皆も疲れていたのだろう。
テントに入ると皆、早々に眠ってしまった。




