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僕の聖女様(エマ視点) 〜No4〜

デルヘン軍との戦いを終えて、ベーマールの王都に戻った僕達は1日の休みを挟んでから旅を再開する事になった。

旅を再開する日の朝、アルは声高々にこう言った。


「という訳で、コウは俺の恋人となった。」


ザイドは恋人と言う言葉に少々呆れた様子だ。

ヨルトはネムの国に来れば米が食べれるようになるとコウに言いながらも、なんだか暖かい目をしている。

あの洞窟以来、ヨルトはアルをライバル視しながらもなんだかんだで認めていたしコウに対しても仲間として大切にしていた。

きっと今もアルを揶揄っているんだろう。


僕はと言うと、何故かモヤモヤとしていた。

アルもコウも僕の大切な友達だ。

二人には幸せになって欲しいと思っている。

でも何故か、照れながらも幸せそうにしている二人を見るとモヤッとする。


あれこれ考えているうちに、ユリシアがやって来てその場の空気を攫っていった。

まるで嵐のように現れ嵐のように去って行ったユリシアを皆が呆然としている。

僕は結局、アルとコウにおめでとうも、よかったねも言う事が出来なかった。




ベーマールを再び出発して、ヴァルシオに向かった。

コトミ様の小屋に行くという約束が、ようやく果たされる。

昔の聖女が研究していた事に興味があったし、コウがその小屋に張られた結界を解く事が出来るのか楽しみだった。


そして僕達はその小屋で驚きの経験をする事になる。

まず最初にやらかしたのは案の定コウだ。

結界を解く事が出来たが、その解き方が斬新だった。

まあそれは予測出来た範囲ないだ。

今更、そこまで驚く事ではない。


問題は小屋の中に入ってからだ。

なんとそのにはコトミ様の幽霊がいたのだ。

悪霊は見た事があったが、幽霊は初めて見た。

その場に居た皆が怯えているのがわかる。

だがコトミ様は僕達の様子を気にする事なく、淡々と喋っていた。


コトミ様とコウの話している内容はあまりわからなかった。

きっと聖女達が経験した事や、元いた世界の話なんだとは思うがコトミ様から口を挟む事を禁じられている。

僕達は2人の会話が終わるのを待つしかなかった。

話の途中でコウの顔色が悪くなっていくのに気付いた。

滅びたとか時間が巻き戻るとか、会話の端端に物騒な言葉が含まれる。

そんな話を聞いている内に、コウの顔は真っ青になっていった。

何も言わずに青くなっているコウが心配になったが、更に続けられるコトミ様の言葉に気を戻される。


「あの黒い物体と勇者は何か関係かあるぞ。」


そう言った後、コトミ様は持論を語る。

それは矛盾を感じる事もなく、説としては十分にあり得ると思えた。

黒い物体と勇者の関係。

今までそんな事を考える事も無かったし、誰もそんな事を思わなかった。

そもそも黒い物体の存在にさえ気付いていなかったのだ。

コトミ様の話を聞き、皆が静まり返った。

コウの顔色も優れないままだ。


魔王の封印。

僕達のやる事の意味を考える。

だが答えなど出なかった。

聖女の召喚はもうすでに行われている。

歯車はすでに回っているのだ。


「勇者は呪い...か。」


アルがポツリと漏らしたその言葉にカチンと来る。


アルも自分が望んで勇者になった訳ではない。

選ばれたのだ。

アルにやる気があったかどうかは別問題として、選ばれて勇者になったのだ。

そしてアルは勇者としての責任を果たそうとしているし、その為の努力もしている。


なのに何故呪いなどと言われなくてはならないのか。


「アル?どうしたの?

 誰にそんな事言われたの?」


怒りにより声が強くなってしまう。

だが、アルはそれをいつ、誰に言われたのか覚えてさえいなかった。

そんなことがあるのか?

呪いなど失礼な事を言われた相手も覚えていないなど。


「ほう、勇者も記憶を欠いておるか。

 実に興味深い。」


コトミ様はそう言うと、アルをジッと見た。

こうして話しているうちに、コトミ様の幽霊に対しての恐怖心も薄らいでいった。

なんだったら昔の聖女と話せた事に、感激さえしている。


だが、そのコトミ様はもう時間がないと言う。

自身の魂を閉じ込めていた結界は既にない。

止まる事の出来なくなった魂は、天に召されるだけだ。

自分の研究結果は全て話したから、もう行けと言われる。

そのコトミ様はなんだか寂しそうだった。


コトミ様に見送られながら小屋を出る。

コトミ様と過ごした時間はほんの一時だ。

でも僕はきっと、コトミ様の事を忘れる事はない。

ここでコトミ様とお別れかと思うと、僕もなんだか悲しくなって来た。

生きている人とは違い、別れたらもう会う事はない。


そんな干渉に浸っていた僕の耳にコトミ様の声が聞こえた。


「ま、待て。

 それは聖獣ではないか?」


言うが早いからコトミ様はアミーに憑依した。


...そうだった。

これまで僕が関わる、と言うか知る事が出来た聖女達は普通では無かったのだ。

コウが規格外なのはこの旅で身を持って知っている。

サユリ様もアミーを聖獣に育てたあげた人だ。

コトミ様は死ぬ間際に結界で自分の魂を閉じ込めて、幽霊になってこの世界に居続けた。

正直、教会都市で勉強した聖女様達の事は、本当の事が書かれていたのか疑うレベルである。


感傷に浸った僕の気持ちを返して欲しい。

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