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僕の聖女様(エマ視点) 〜No3〜

あの洞窟の一件以来、なんだかアルとヨルトが競いあっている。

確かにコウの食事は美味しいけど、食べる量を競う事に意味があるのだろうか?

そして今ではその競う内容が、倒した魔物の数になっている。

まあ僕としては助かっている。

勝手に魔物の数は減るし、それと同時に僕の危険も減る。

意味のない食べる量の争いなんかよりも、よっぽど実用性のある争いだ。


それにちょっとだけ楽しくもある。

それは二人が競う理由がコウにあるからだ。

恐らく二人は、コウにいいところを見せたくて競っている。

それをコウがどう思っているのか、それが楽しみだった。


もしかしてコウも、私の為に二人が頑張ってくれるなんて、とか。

二人共、私の為に争うのはやめて、とか思うのだろうか?

一人の女性を巡って二人の男が競い合っているのだ、コウだって思うところはあるだろう。

コウがどんな反応をするのか、どんな表情をするのか楽しみにしていた。

コウが満面の笑みで二人を指差すまでは。


「...エマ、私やっちゃっていいかな?」


顔は笑顔なのにコウからは今まで感じた事が無い程の圧を感じる。

ひんやりと背筋の凍るようなコウの圧は、僕ではなくアルとヨルトに向けられた。


二人が競うように戦っていた魔物を、コウは瞬殺した。

あまりにも一瞬の出来事に、アルもヨルトも固まったまま動けずにいる。


「私の勝ちって事でいい?」


まさかこうなるとは。

予想外のコウの行動に、僕は腰に手を当てて大きくため息を吐いた。

コウらしいと言えばコウらしい。

だた...。

コウは怒らせない方がいいな。

この場にいる誰もがそう思った瞬間だった。





ヴァルシオに入った僕達をすぐに迎えたのは、同行者のザイドだ。

なんでも兄であるヴァルシオ国王が囚われてしまったらしい。

ヴァルシオ国王を救出する作戦が練られる中、僕は思ったのだ。

最高の作戦があると。


「コウが踊り子の振りをして、王宮に忍び込むのはどう?」


完璧な作戦だとばかりの僕に、コウが慌てた。


「いや、私に踊り子は無理だよ。」


コウはそう言って自信なさげだが、聖女姿はあんなに美しかったんだ。

絶対に踊り子姿も美しいに決まっている。


なんだかんだでコウに踊り子服を着せる事には成功したが、ここで予想外の事も起きてしまった。

なんと僕も踊り子服を着る事になってしまったのだ。

まさか僕も着る事になるとは...。

だがコウは着ているのだ、僕が断る事も出来ない。

コウの目が言っているのだ、断るなんてしないよね?と。

結局、踊り子服は僕とコウの二人で着てゲインドルに会う事になった。


さらにコウは睡眠の魔法を使うとも言っていた。

お試しで眠らされる事になるとは思わなかったが、本当に何でも出来るのだと感心した。

これならヴァルシオ国王奪還もうまくいくだろう。



ヴァルシオの城に潜入し、コウが踊り子姿で踊っている。

髪の色も目の色もいつもの黒とは違う。

金髪に緑の瞳。

聖女の時とは違った美しさがあった。

まるで本物の踊り子のように優雅に踊るコウにみんなの視線は釘付けだった。

コウの踊りに見惚れているうちに、この場にいたドワーフ達は皆、眠りについた。

こんなあっさり作戦が成功するとは。

それもこれもコウのおかげと言っていいだろう。

ヴァルシオ国王も無事救出し、ヴァルシオでの一件は幕を閉じた。




だが、問題とは次々と起こるものだ。

今度はベーマールに向けてデルヘンが軍を動かしたのだ。

これでは折角ヴァルシオまで進んで来たのに、ベーマールに逆戻りだ。

しかし、母国であるベーマールを放っておくことなど出来ない。

ヨルトはネムの国へ、僕はヴェルアリーグ教団に援軍を求めベーマールに向かった。


ベーマールに戻ってセオンに話を聞いてみると、どうやらデルヘン軍は悪霊に取り憑かれているようだ。

それならば話は早い。

コウに浄化魔法を使って貰えば解決だ。

僕はまだ見た事のない浄化魔法に、胸を躍らせた。

聖女の事を勉強する中で、浄化魔法について書かれていた資料を思い出す。

真っ白な光に包まれ洗われる魂、それは非常に美しい光景らしい。

聖女のいる時代にしか見る事の出来ない魔法に、期待が膨らんだ。



いや、僕が悪かったんだ。

こんなに期待してしまった僕が。

予定通り、コウは浄化魔法を使った。

使ったのだが...あれはもはや攻撃魔法ではないか。

悪霊に突き刺さる光の矢に、絶句してしまった。

違う...僕が求めていた浄化魔法はあんなに攻撃的ではなく、柔らかく暖かい物だった筈なのに。

思い描いていた浄化魔法と掛け離れ過ぎていて、本当に浄化魔法か疑ったレベルだ。


だが、結果として悪霊は浄化された。

正直納得など出来ないが、それが現実なのだ。

ガックリと項垂れてしまった僕にコウは少し申し訳なさそうな顔をしたが、結局はその浄化魔法を使い続けた。

デルヘン国王に取り憑いた悪霊を浄化して、やっとデルヘン軍を鎮静化した。

僕の憧れはもはや原型が残らないくらい壊されてしまったが、これで一安心と言ったところか。


それにデルヘンの王都で人々を鎮めたのもコウだ。

まあ僕としてはデルヘンの王都で使った、キラキラと輝く聖魔法を浄化魔法として使って欲しかったが。




そういえば前にアルと何故コウが聖女だと気付かなかったかと話した事があった。

黒髪黒眼は聖女の証。

それは僕もアルも知っていた事だ。

だが、僕もアルも最初はコウが聖女だと気付かなかった。

今思えば何で気付かなかったんだろうと思えるが、あの時は本当に気付かなかったのだ。


その理由はきっと僕もアルも同じだろう。

まず一つは、コウを男だと疑っていなかったことだ。

聖女と言うからにはもちろん女しか聖女に選ばれない。

だから男だと思っていたコウが聖女と結びつく事がなかった。


それともう一つ。

聖女の子孫は髪や瞳に黒に近い色を持つ。

ヨルトがいい例だ。

それに人の視覚なんて意外と曖昧なもので、本当に黒でもそれが黒に近い色に見える。

だから僕もアルも、コウの先祖に聖女がいて、コウは黒に近い色の髪と瞳をしていると思っていた。

それが結果的に、僕もアルも驚く事になってしまったがこれはしょうがない事だったと二人で納得したのだった。

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