僕の聖女様(エマ視点) 〜No2〜
正直僕は、自分の顔が好きだ。
ナルシストと言われるかも知れないが、自分の顔は気に入っている。
だが、なりたかった顔かと言われるとそれは違う。
好きな顔となりたい顔が違う事などよくある事だと思う。
まして僕のように異性に間違われるような見た目なら尚更だ。
僕だって男だ。
背が高くカッコ良い見た目に憧れる。
そしてその憧れそのものが、今目の前にいるのだ。
聖女として。
まさか夜色の騎士が聖女だとは夢にも思わなかった。
アルに言われたし、それをコウも否定しなかったという事は事実なのだと思う。
だが今も信じられない。
こんな自分より男らしい聖女が居るなんて。
そんな事を思いながらも、教会都市に向かう準備をする。
信じられないがそれが事実なら受け入れるしかない。
「エマ様もどうか私の事はコウとお呼び下さい。
敬語も不要ですので。」
アルとの会話の流れでコウにそんな事を言われた。
守られるのが当然の聖女がそんなに謙虚だとは驚いた。
コウは今までの聖女達とは違う。
アルが面白いと言っていたのが理解出来た気がする。
だが、僕はこの時はまだ知らなかった。
コウの規格外さを。
最初は気さくなちょっと面白い聖女としか思わなかった。
しかしそれはすぐに覆る。
まずはアイテムボックスだ。
馬車の荷台を丸ごと消したのに平然していたり、挙げ句の果てにその魔法を僕にも使えないか聞いてきた。
そんな魔法の存在は初めて知った。
なのにコウはえ?知らないの?みたいな態度だ。
常識で考えれば存在さえしないだろう魔法を使いこなす。
聖女だから、そんな理由だけではない。
コウは異常なんだと思う。
更に教会都市に向かう旅では、魔法と剣を駆使して最前線で戦うのだ。
騎士の格好は飾りだけだと思っていた。
アルはコウを騎士としては十分な腕だと言っていた。
それは聖女のご機嫌とりで言っただけの言葉だと思っていたのに、本当にコウは騎士としても十分やっていける。
まさか自分が聖女に守られる側になるとは思ってもみなかっただけに、衝撃が大きかった。
だって、あのアルさえも守られているのだ。
アルは僕とは違い、剣の才能があった。
それ故の騎士団長だった筈なのに、そのアルが守られている。
こんな事はきっと、聖女召喚が始まって以来の事だ。
教会都市でもコウの異常行動は収まらない。
気を失ったアルを浮かせて運んだり、勇者しか動かす事の出来ない聖剣を持ち上げたり。
それには総大司教様も顔を青くしていた。
やっぱり僕がおかしいんじゃない、コウが異常なだけだ。
これまで勉強してきた聖女の事が無意味にさえ思える。
それ程までに、コウは規格外だった。
しかもそれを本人が自覚していないのがタチが悪い。
無自覚だからこそ制御がされていないのだ。
そして更に驚かされる事が起きる。
コウが昔、世話になっていた昔の聖女の小屋に行った時の事だ。
なんとそこには聖獣がいた。
実在した記録さえ残っていない伝説の生き物。
その聖獣にコウは乗って移動する。
もう何がなんだかわからなくなるような出来事だが、これまでのコウの行いのせいで驚く事に免疫が出来ている自分がいる。
ああ、もうこれは慣れるしかないんだ。
いちいち驚いていては、こちらの体力も精神力も持たない。
そう悟るのに時間は掛からなかった。
ネムの国の同行者、ヨルトを仲間に迎え僕達の旅は続く。
ヴァルシオに向かう為の山道を進んでいると、雨が降って来た。
近くに洞窟があると言うヨルトに続いて、雨宿りの為に洞窟へ向かう。
その洞窟で僕達は、ヨルトの一言をきっかけに少しだけいざこざを起こしてしまった。
「是非オレの妻としてネムの国に残って欲しいものだ。」
そう言ったヨルトの言葉にコウだけではなく僕やアルも凍り付く。
妻として?
ヨルトは間違いなくそう言った。
確かに同行者の中から結婚相手を選ぶ聖女は多い。
だが、今のこの状況でヨルトがそんな事を言い出すとは誰も思わなかった。
アルとヨルトが言い合いになった後、アルは洞窟の奥に行ってしまった。
そのアルの後ろ姿を見送ると、僕はコウにギュッと抱き付いた。
「...ダメだよ、コウは渡さない。
僕とコウは仲良しなんだから。」
何故こんな事をしたのか、自分でもわからなかった。
ただ、コウが取られてしまう。
そう思ったのだ。
別にコウが誰と結婚しようが婚約しようが関係ない。
でも僕からコウが離れて行くのが嫌だった。
「きっと私が好きになるのは、私が聖女とか関係なく私を好きになってくれる人だと思うから。」
そう言ったコウは凛としていた。
コウにはちゃんと自分の思いがある。
それは聖女としてではなく、コウとしてのものだ。
だから僕は許せなかったんだ。
コウを一人の人としてではなく、聖女としてしか見ていないヨルトが。
アルを追ったコウが居なくなると、この場には僕とヨルトしか居なくなる。
「ヨルトは聖女をネムの国に残したいだけなんでしょ?
なら、コウにあんな事言わないで。」
僕の言葉にヨルトはため息を吐く。
「コウが聖女なのは事実だし、ネムの国に聖女を残したいのも事実。
だがそれは悪い事か?
同行者が自国に聖女を連れて行きたいのは当たり前だろ?」
コウが言いたかった事が、ヨルトは理解出来ないらしい。
まあ政略結婚も存在するし、それもわかる。
「コウは物じゃない、聖女である前に一人の人なんだよ。
人には思いがある。
それって当たり前の事じゃない?
もしコウがヨルトを好きになったなら、僕は何も言わないよ。
でもコウの思いを無視したような事をコウに言うのは許せない。」
グッと力を込めた拳が少し痛い。
でもヨルトにはコウを傷付けるような事を言って欲しくない。
聖女として自分しか必要とされていないなんて、悲し過ぎる。
「...わかった。
コウの気持ちを尊重すればいいんだろ?」
「違うよ、もしヨルトがコウ自身が好きならそれを伝えるのは構わないんだ。
僕はただ、コウを聖女としてだけじゃなく一人の人として、女性として見てあげて欲しいんだ。」
ヨルトは少し考えるように腕を組んだ後、僕を見た。
「今はまだコウと会ったばかりで、オレ自身が今後コウにどんな感情を抱くかわからない。
だが、コウに好かれる努力はする。
それなら問題ないだろ?」
ヨルトも言葉に僕は笑顔を向ける。
コウの事を、思いを汲んでくれる人が増えたのが嬉しい。
僕はコウに幸せになって欲しいんだ。




