僕の聖女様(エマ視点) 〜No1〜
これまでの旅のエマ視点での振り返りになります。
ほぼストーリーが進まない為、エマ視点の6話を一度に更新したいと思います。
初めて聖女様を見たのは、ベーマールでの聖女降臨式だった。
幼馴染みのアルに腕を引かれて歩く、その姿に目を奪われた。
真っ黒な髪と瞳。
純白のドレス。
彼女の周りだけ切り取られたように、別の世界のようだった。
神聖な、神秘的な女神様のような彼女。
ベーマール国王から受け取ったティアラが、彼女の美しさを増す。
周りに合わせるように、無意識に拍手をしていた。
そして気付かないうちに、聖女降臨式終わっていた。
僕、エマ=ワークリーは小さい時からかわいいと言われ続けていた。
両親からも天使のようだと言われ、友人達も口を揃えて僕をかわいいと言う。
だから正直、僕の中でかわいいは当たり前だった。
大きくなってからもそれは変わらない。
僕をかわいいって言う女は多い。
もちろん男もだけど。
そんな女達は、かわいいって言いながら僕に近付く。
散々可愛がって可愛がって、そしていざとなったら僕に言うんだ。
男のくせにって。
男なんだから守ってよ、男なんだから戦ってよ。
だから僕は女が嫌いなんだ。
僕は昔から弱かった。
剣の稽古も全然身につかなかった。
力も弱いし、体力も無い。
幼馴染みのアルが羨ましかった。
僕にはない物を全部持っているアルが。
恵まれた体格に剣術の腕。
僕とは対照的と言えるアル。
ただ一つだけ、僕でもアルに勝てる物があった。
それが魔法だ。
アルだけじゃない、他の誰にも魔法は負けなかった。
僕にも戦える方法がある。
それが嬉しかった。
僕は導かれるように教団に行き、そこで魔導士になった。
そしてそこで、聖女の同行者に選ばれた。
聖女の同行者なんて面倒だし、僕自身が聖女を好きになれると思えなかった。
だって聖女といっても結局は女だ。
他の女達のように、男に守られるのが当然といった奴を好きになどなれない。
でももう何百年も聖女は召喚されていない。
いくら同行者に選ばれても、聖女が現れなければそれは意味がないのと同じだ。
だから僕はすっかり油断していたんだ。
僕が同行者として聖女と旅をする事なんてないって。
なのに、やってくれた。
まさか僕が同行者の時代に聖女が召喚されるなんて。
総大司教様に言われて、同行者としてベーマールに行く事になってしまった。
気が重いなんてレベルの話じゃない。
変わってくれるなら誰でもいいから変わって欲しい位だ。
でも僕が同行者なのも事実で、聖女が召喚されたのも事実。
総大司教様言われた事を断れる筈もなく、僕はベーマールに行く事になった。
聖女降臨式が終わって数日経った。
今日は教会都市に向けて出発する事になる。
僕の同行者としての初仕事だ。
正直、この前の聖女降臨式での聖女は美しかった。
僕が目を奪われる程には。
しかし彼女も所詮は女だ。
他の女達と変わらないだろう。
結局、聖女達は同行者に守られるのが当たり前だと思っているんだ。
沢山勉強した聖女の事を思い出しそう結論付ける。
突然、こっちの世界に連れてこられた事には同情するが、僕達同行者だって人間だ。
そんな見ず知らずの女の為に命を張るこっちの身にもなって欲しい。
だから僕は、ちょっとだけ意地悪をする事にしたんだ。
僕みたいな可愛い子が女の子として同行者にいたら、聖女はどんな顔をするだろう。
ベーマールの同行者がアルだから、すぐにバレる嘘だ。
だから僕の興味を満足させてくれればそれでよかった。
ローブの前をしめて、フードを被れば十分女の子に見える。
聖女よりも先に来て僕と準備をしていたアルは呆れた様子で僕を見たが、僕は聖女がどんな顔をするか楽しみだった。
馬車の荷台に荷物を積み込みながら、アルを見る。
「ねえ、アル。
聖女様と何回か会ってるんでしょ。
聖女様ってどんな人?」
僕の声にアルは僕を見た。
きっとアルが聖女に会ったのはこの前の聖女降臨式が初めてではない。
だからアルに聞いてみたいのだ。
聖女がどんな人物なのかを。
「そうだな、面白い奴だと思うぞ。」
少し考えた仕草の後にアルはそう言った。
面白い?
この前の聖女降臨式での聖女の姿を思い出すが、どうもその言葉と結びつかない。
アルは聖女の何を見てそう言ったのだろうか。
僕はアルに更なる質問をしようとしたが、こちらに近付く足音にそれを止める。
馬車の荷台から顔を覗かせると、そこには夜色の騎士がいた。
何故ここに彼が居るんだ?
「なんでここに夜色の騎士がいるの?」
疑問をそのまま彼にぶつける。
しかし彼は僕の質問に答える事なく黙ったままだ。
きっと彼を呼んだのも聖女だろう。
夜色の騎士はいかにも女が好きそうな容姿をしている。
聖女のわがままで呼ばれたであろう彼を哀れに思う気持ちはあるが、僕を無視していい理由にはならない。
「ねぇ、なんで夜色の騎士がいるか聞いているんだけど。」
ムッとしたようにそう言った僕に夜色の騎士は僕をジッと見た。
「夜色の騎士とは?」
コイツは何を言っているんだと思った。
そんなに面倒臭い事を聞いているつもりはない。
何でお前がここにいるのか、それを聞いているだけだ。
まさかコイツは自分が夜色の騎士と呼ばれている事を知らないのか。
「お前、自分が夜色の騎士って言われてるの知らないの?」
僕の質問に彼は知りませんでしたと答える。
まさかの答えに呆気にとられた。
あれだけ王都中の女達が騒いでいるのに、本人はその事実を知らないなんて。
その事にじわじわと面白さがこみ上げる。
「あはは、城下町であんなに有名なのに本人は知らないんだ。」
声を上げて笑ってしまった僕を、夜色の騎士は困ったように見ている。
面白い。
コイツとは仲良く出来そうな予感がする。
「お前、面白いね。
あのさ...」
そう言って荷台から降りようとするが、ローブの端を踏んでしまいバランスを崩してしまった。
ぐらりと揺れた体に思わず目を閉じる。
近付いて来る地面を直視出来なかった。
「危ない!」
その声が聞こえたかと思うと、何かに体をすっぽりと覆われた。
...痛くない。
本来受けると思っていた衝撃はいつまでも来ない。
僕は恐る恐る目を開けると、顔を硬らせた。
「大丈夫か?」
そう言って覗き込む夜色の騎士と目が合う。
僕をすっぽり覆っていたのは彼だった。
自分のドジっぷりに恥ずかしくなる。
まさか抱き留められるとは。
これなら転んで痛い思いをした方が、幾分マシだ。
「やめろ!離れろ!
僕に男色の趣味はない!」
恥ずかしさを隠すように夜色の騎士を突き飛ばすと、僕は声を荒げてそう言った。
そんな僕の様子にアルは声を上げて笑い出した。
「アル!お前も黙ってないで何とか言え!」
八つ当たりのように言ってしまったが、アルは我慢が出来ないようで笑い続けている。
「そもそも何で聖女様はまだ来ないんだよ。
聖女様が早く来てればこんな事にならなかったのに。」
苛立ったように言った僕に答えたのは、ようやく笑いが収まったアルだった。
「聖女ならもう来てるぞ。」
アルの言葉が一瞬何を言っているのかわからなかった。
「え??」
「さっきお前が突き飛ばした、夜色の騎士が聖女だ。」
僕の口をついて出た疑問符にアルはまた答える。
夜色の騎士が聖女?
それだけを認識すると、はぁぁぁぁ?と声が漏れてしまっていた。
「紹介がまだだったな。
コウ、彼がヴェルアリーグ教からの同行者のエマ=ワークリーだ。
俺の幼馴染みでもある。
エマ、彼女が聖女のコウだ。」
そう紹介されたコウと思わず顔を見合わせてしまった。




