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魔王復活

大きなガロの隣に立つと、自分が小さくなったように感じる。

謁見の間に続く廊下をガロは私に合わせてゆっくりと歩いてくれた。

暑いこの国の城は開放感があり、風が通ると意外と涼しい。

海に近い事もあり、風からは潮の香りが微かにした。


謁見の間の扉も格子の様になっていて風が通る作りになっているようだ。

扉の外からでも中を覗く事ができる。

防犯面で心配が生じるが元々平和な国なのかも知れない。


扉が開くとガロに腕を引かれて中へ入る。

真っ白な石造りの床は歩くとヒールの高い音がした。

両側にある柱の前には沢山の人が私達を見守っている。

玉座に近付くと、そこにアル達の姿を見つけた。

アミーやエマと並んだアルと目が合う。

それがなんだか気まずくて、私はアルから目を逸らしてしまった。

だがそれにより生まれる罪悪感が、胸を締め付ける。


アルとちゃんと仲直りしろよ。


ガロに言われた言葉を思い出してしまう。

わかってはいる。

そうしなくてはいけない事は。

でも中々それをする事が難しい。


ダメだ今は降臨式に集中しないと。

玉座の前で膝を着くガロの隣で、私はカーテシーをした。


「これより聖女降臨式を行う。

 聖女様、こちらへ。」


リセイア国王の言葉に私は顔を上げ、前に出る。


「爾を聖女と認め、これを授ける。」


そう言ってリセイア国王はブレスレットを手に取ると、それを私の腕にはめた。

振り返り私はブレスレットを着けた手を高く掲げる。

その場には大きな歓声と拍手が起こった。


拍手をし歓声を上げる者達の顔は明るい。

この中にはエリルの魅了や誘惑に掛かっていた者も多いのだろう。

この国をリセイアを救えてよかった。

そう思いながらも、私はアルの方を見る事が出来なかった。





聖女降臨式が無事終わった翌日。

私達は次の目的地へ向かう為、港に集まっていた。


「次に行くのはエルフの国、ユルフェクト女王国だ。

 協定国はユルフェクトで最後になる。」


『ユルフェクトか、懐かしいな。』


アルに続いて琴美はそう言うと、私の隣に並んだ。

ユルフェクトは島国の為、ここリセイアから船で行く事になる。


この世界は時計の6時から9時の部分が開いたCの字のような地形をしている。

9時の所に位置するデルヘンからその隣にあるベーマールへ行った私は、その後時計回りで旅をしていた。

今は6時に位置にあるリセイアにいる。

ユルフェクトはそんな時計の中心部分に位置するようだ。

真南にあるリセイアの王都から船で出港すると、ユルフェクトへ行くのはリセイアの外周をグルリと船で回る事になる。

しかし陸を北へ進みそこで船を調達するよりも、王都から船で行った方が簡単に行ける為、私達は王都から船で行く事になった。


「船の準備は済んでいる。

 すぐにでも行けるぞ。」


ガロがそう言った瞬間だった。


急に辺りが暗くなったかと思うと、これまで晴れていた空を雲が覆う。

遠くでは稲光が見え、低い雷の音が鳴った。

大きな地震のように地面が揺れ、海が波打っている。

キーーーンと耳をつん裂くような音が響く。

あまりに大きな音に耳が痛くなり、両手で耳を押さえるとその場に膝を着いた。


あの時を思い出す。

一度滅んだ日本を。

目を閉じると、あの時の情景が目の前に浮かぶ。

何も出来なかった自分に、悔しい思いをしたあの時を。


どれ位そうしていただろう。

ようやく音が止むと、周囲を見渡した。

騒然としている周囲の者達が怯えている。

皆が何が起こったのかわからないといった風だ。


『魔王が復活したな。』


私に寄り添うようにしていたアミーから琴美の声が聞こえた。


「魔王って...どうしよう、まだこれからユルフェクトに行かなきゃいけないのに。」


『大丈夫だ、魔王が復活したからと言ってすぐに何かが起こる訳ではない。

 ユルフェクトに行き、最後の同行者に会ってからでも十分時間はある。』


琴美の言葉に少しだけ安心する。

と、その時ピピーピピーと通話の魔力石が鳴った。

私は魔力石を取り出すと、魔力を込める。


『コウ、聞こえる?セオンだ。』


通話の相手はセオンだった。


「聞こえてる、どうしたの?」


『近くにアル様もいる?』


「ああ、俺にも聞こえている。」


セオンの声にアルはこちらに近付いた。


『先程、魔王が復活したと思われます。

 場所はデルヘンです。』


セオンの言葉に皆が息を飲んだ。

またデルヘンか。

誰も口には出さないが、皆も同じ事を思っていただろう。


『これからデルヘンに救助の隊を出して、デルヘンの者達を避難させます。』


「そうか、わかった。

 俺達はこれからユルフェクトへ向かう。

 そこで最後の同行者と合流したら、すぐにデルヘンへ行けるようにする。」


『わかりました、お気をつけて。』


そう言ってセオンは慌ただしく通話を切った。


「とにかく急いだ方が良さそうだね。」


そう言ったエマの表情も硬い。

いつか魔王が復活するとはわかっていたが、実際に目の当たりにするとやはり恐怖は訪れる。

皆、硬い表情のままデルヘンの方向を見た。


「よし、行こう。」


アルはそう言って船に乗り込む。

私達はアルに続くように船に乗った。

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