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植物の魔物

「お待たせしました。」


エリルが木をくり抜いて作ったような器に、何か飲み物を入れて持って来た。


「姉の作った果実酒です。

 良かったらお飲み下さい。」


そう言ってエリルは皆に飲み物を配った。


「旨そうだな。」


そう言ってガロはそれを一気に飲み干す。

ガロに続くように、皆も飲み物に口を付けた。


「そういえばエリルの姉が言っていた助けてとは何だったんだ?」


アルがエリルに確認するように言う。


「ああ、それなら食べ物が無くて困っているって事だったようです。」


エリルは笑顔でそう返す。


「ならそう言ってもらえれば、王都から食べ物を持って来たものを。」


そう言ったガロにエリルおかしそうに笑った。


「ふふふ、それなら心配いりません。」


「どういう事だ?」


ヨルトはエリルが笑っている意味がわからなかったのだろう。

そう聞き返すと、エリルを見た。


「ちゃんと食べ物は運んで来ましたので。」


皆はますますわからないといった表情をした。

そんな中でエリルだけが不気味に笑う。


「エリル、一体何を...」


そう言って丸太から立ち上がろうとしたガロの体がグラリと傾く。

ガロは何にも支えられる事なく、そのまま地面に倒れた。


「おい、ガロ。」


ザイドが慌てたように立ち上がったが、その体もフラフラとしている。


「あは、飲み物に神経系の毒を混ぜておいたんです。

 ザイドはちゃんと飲み干さなかったんですね。」


アルもヨルトもクラクラするらしく、頭を押さえたまま立ち上がる事が出来ないようだ。


「エリル、お前...」


ガロはなおもエリルの元に行こうとしている。

だが体に力が入らないようで、その場に這いつくばったままだ。


「安心して、その毒で死ぬ事はないから。

 死体で良ければ運びやすかったのに、姉さんは死んだ奴は食べないんだ。

 だから生きたまま姉さんに会わせてあげる。」


そう言うとエリルは魔物の姿へと変わっていく。

アル達はそのエリルを息を飲んで見ていた。


「まさか...コウが言っていたのは本当だったのか?」


「あはは、バカな奴ら。

 気付くのが遅いんだよ。

 あの女が言った、あの時が助かる最後のチャンスだったのに。」


アルに続いてそう言ったエリルは心底楽しそうに笑う。


エマは私の服の裾を掴むと不安そうに私を見つめた。


「コウ、皆んなを助けよう。」


心配そうに揺れる瞳に、私は小さく首を振る。


「エリルの姉が姿を現すまで待たないと。」


エマは私の言葉に悔しそうに唇を噛むと、無理矢理納得したように静かに頷いた。

私達は再び目線をアル達の方へと戻す。


「姉さんが来るまで、少しだけ話そうか。」


魔物姿のエリルが耳まで裂けた口を楽しげに歪ませた。


「私達姉妹は植物の魔物なの。

 花の私は自由に動けるけど、木の姉さんは大き過ぎてあまり動けないんだ。

 だから私がこうして食べ物を運んであげるの。」


「な、何だ?部屋が急に消えおったぞ?」


エリルが幻影魔法を解いたのだろう。

ザイドはそう言って、辺りをキョロキョロと見渡した。

他の者達も、突然森の中に放り出された事に驚いている。


「幻影を解いただけだよ。

 因みにさっきまでは魅了と誘惑も掛けてたから、アンタ達の私に対する思いは全部気のせいって事。」


「エリル...嘘だろ?」


ガロは悲しそうにそう言った。

自分の婚約者が魔物だったのだ上に、自身の気持ちまで操られていたのだ。

ショックなのが理解出来る。

ザイドは放心したまま遠くを見つめ、ヨルトは怒りを露わにしていた。

アルは悔しそうに自分の掌を見ていた。


「でも、勇者が本当に聖獣を連れていた時は驚いちゃった。

 まあ鼻がいいだけのワンちゃんも、私の匂いには気付かなかったみたいだけど。

 ...ねえ何で気付かなかった教えてあげようか?」


アル達はもう何も言わない。

そんなアル達の悔しそうに、そして恐怖に歪められた表情にエリルは満足そうだった。

魔物ではあるが、見た目が人に近いエリルの様子は猟奇的に見える。


「私、表面は本当の人間なの。

 姉さんと違って私面食いだからね、綺麗で可愛い女の子しか食べないんだ。

 その女の子達からもらったの。

 この髪も顔も皮膚も。

 綺麗でしょ?私の最高傑作。」


エリルはそう言って、自身の髪をクルクルと弄ぶ。


何と言う事だ。

エリルは自分の表面を実際の女の子達で覆い、その姿や匂いを掻き消していたのだ。

エマはカタカタと震えた手で、私の服をギュッと握った。


「あら、姉さんが来るみたい。」


エリルは森の奥に目を向けるとそう言った。


と、その直後にズシーンと低い音が鳴り響く。

段々と近づいて来る音と共に、地面がビリビリと揺れた。


「な、なんの音だ?」


ザイドは青ざめた顔のまま、音のする方を凝視する。

皆が同じ一点を見ていると、それは木々の間から現れた。


びっしりと立ち並んでいたはずの木々が、それを避けるように左右に割れる。

その中央から二階建ての建物位の大きさのある、女が現れたのだ。


目は壊れた人形のようにギョロリと大きく、口はエリルと同じように耳まで裂けている。

その口からはギザギザとした牙が覗き、肌は木の幹のようにでこぼこしていた。

蔦のような緑色の髪はボサボサと顔に掛かっている。

木の枝のような腕をニョロニョロとさせたエリルの姉に、皆が言葉を失う。


「姉さん、お久しぶりです。」


そう言ったエリルの頭に、ニョロニョロとした手が伸びて撫でた。

エリルはそれに嬉しそうに目を細める。


ギョロっと自分達に向けられた視線に、アル達は凍り付いた。

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