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ナイショの夜

身体強化の魔法と治癒魔法で体力を回復しながら、ひたすら陸地を真っ直ぐに進んだ。

木々が多くまるでジャングルのような森は確かに歩きづらかったが、進めなくはない。

私とエマは目的地に向かって突き進んだ。


「多分この辺だよね?」


アル達が船を降りるだろう場所に到着する。

身体強化の魔法を掛けていても、エマには大変だったようだ。

肩で息をしている。


「大丈夫?」


私はそう言って、エマに水を差し出す。

エマはそれを受け取ると、一気に飲み干した。


「はぁ、大丈夫。

 でも本当にここに来るのかな?」


心配そうなエマの言葉に、私はまた地図を取り出した。

そして一つの魔力石に魔力を込める。

するとその魔力石からはレーザーの様な光が発せられ、地図の一点を照らした。


「...これは何の魔法?」


「う〜ん...位置情報...かな?」


船を降りる前に、位置情報を発信する魔力石を船に積まれたボートに隠しておいた。

川に入ったら、恐らく船からボートに乗り換えるだろう。

その為、魔力石はボートに隠したのだ。

今持っている魔力石は、その位置を地図に示してくれる物だ。


「ほら、アル達の船は今ここだよ。

 ちゃんと鈍化の魔法も効いてるみたいだね。

 でも動いているから、ここに向かってくると思うよ。」


地図を指差しながら説明する私に、エマは顔を引きつらせた。


「僕、コウだけは敵にしたくないな。」


エマのその一言に、苦笑しか出なかった。





ただひたすらに走り続けたおかげで、夜になる前に目的地にはたどり着いた。

後はアル達の到着を待つだけだ。

ちょうど日も暮れてきたので、今日はここで野宿をする事にした。

自分達の存在に気付かれないように、焚き火も灯りも着けずにいたが月の光は明るく私達を照らしていた。

今日は満月のようだ。

空に浮かぶ月は、そこだけ夜の空に穴が開いたように明るい。

木々の間から漏れ出す月明かりでも十分な明るさを確保できた。


アイテムボックスから食材を取り出して、夕食の用意をする。

今日は前にエマが好きだと言ってくれたオムライスにする事にした。

材料を切ってフライパンで炒め、炊いて置いたご飯を加える。

ケチャップと一緒に炒めればチキンライスはすぐに完成した。

その上に焼いた卵を乗せると、その卵の中央に切り目を入れる。

中からトロンとした卵が溢れて出し、チキンライスを覆うとエマは目を輝かせた。


「美味しそう!」


スプーンで掬って一口食べると、エマは幸せそうな顔をしながらモグモグとする。

それが私には嬉しかった。


「皆んな、今頃何を食べてるんだろうね?

 あの中で料理が出来たの、コウだけじゃん。」


エマはそう言って意地悪そうに笑った。


「確かに、何を食べてるんだろう?」


自分のいない旅など、想像した事もなかった。

それ程私にとっては、一緒にいるのが当たり前の仲間だった。


「そうだ。」


オムライスを食べ終えたエマを見て、私は声を上げた。

アイテムボックスの中から、以前作って置いた物を取り出す。


「何?それ?」


ガラスの器に盛った、クリーム色の冷たい食べ物を前にエマが不思議そうに言った。


「アイスクリームだよ。」


リセイアの地は暑い。

夜になった今でも蒸し暑さを感じる。

だから今ならちょうどいいと思って、エマに勧めた。


「冷たい...」


受け取ったエマはそう言って不安そうにしている。


「甘いから、エマは好きだと思うけどな。」


甘いという言葉にエマが興味を示す。

小さくスプーンで掬い、それを口に運んだ。


「...本当だ、甘い!」


暑さで溶ける心配をしていたが、その心配も要らない位の勢いでエマはアイスを完食する。


「コウと一緒にいると、美味しい物がいっぱい食べれるね。」


そう言ってエマは、本当に嬉しそうに笑った。

エマの笑顔に私も笑顔になる。


「皆んなも残念な事をしたね。

 コウと一緒にいたら、こんな美味しい物食べられたのに。」


「そうだね、皆んなには...ナイショにしないと。」


そう言った瞬間、頬を温かい物が伝った。

あれ?何でだろう、視界がボヤける。


「コウ...」


エマが困ったように眉を下げる。

そうか...私、泣いているんだ。

そう自覚してしまうと、次から次へと涙が溢れた。


皆の事を考えると、どうしてもあの冷たい視線を思い出す。

目的は魔王封印だったけど、旅は楽しかった。

皆を仲間だと思っていたから、大変な事も乗り越えられた。


「皆んな仲間なのに...」


ポロポロと溢れる涙の止め方がわからない。

エマを困らせたい訳じゃないのに。


「...信じて欲しかった...私を信じて欲しかった。」


涙と一緒に、心の弱い部分が溢れる。


「嫌われちゃったかな...皆んなに...アルに。」


せっかく自分の思いに気付いて恋人になったのに。

アルなら自分を信じてくれると、不思議な自信があった。

なのに現実は...。


何も言わずに私の弱音を聞いていたエマが、ふと動いた。

涙で歪んだ視界に、エマが近づいて来るのがぼんやりと見える。

と、次の瞬間に涙で濡れた頬に温かく柔らかい感触が触れた。

ちゅっと小さな音を立てると、エマの顔が目の前にあった。


「あ、本当にキスすると涙って止まるんだ。」


関心したようにそう言ったエマに何が起きたのかわからなかった。

キス...エマの言葉を頭の中で反復すると、ボッと顔が熱くなる。

エマの唇が触れたであろう頬に熱を感じて、私はそこを手で触れた。


「え、え、え、エマ?」


あまりに予想外の出来事に驚く私に対して、エマはいたずらっ子のように笑う。


「おまじないだよ、ただの涙を止めるおまじない。」


エマに言われて気付く。

いつの間にか、涙は止まっていた。


「そっか...おまじないか。」


この世界ではそんなおまじないもあるのか。

1人で慌ててしまった事が恥ずかしい。


「大丈夫だよ、きっと皆んな助けられるよ。

 ちゃんと元通りになる。」


そう言ったエマの顔は優しかった。


「...うん。」


「さて、今日はもう寝ようか。」


エマは近くの木に寄りかかる。

いつアル達が来てもわかるように、今日はテントを使わずに寝る事になった。

私もエマと同じように近くの木に寄り掛かったが、エマは私を手招きした。


「一緒に寝よう。」


そう言って自分の隣に座るように促す。

私はアル達の件で寂しかった事もあり、一度立ち上がるとエマの隣に座り直した。

同じ木に寄りかかり、肩を寄せ合う。

エマに触れている部分が温かくて安心する。


「おやすみコウ。」


「おやすみエマ。」


私はそう言うと、静かに目を閉じた。

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