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一人じゃない

エリルの思惑通りになってしまったのは悔しいが、これが皆の望む事ならどうしようも無い。

僅かな荷物を抱えると、私は部屋を出た。


「コウ。」


廊下に出た私を隣の部屋から呼ぶ声がする。

薄っすらと開いた扉からは、エマが顔を覗かせていた。


「エマ?」


私が名前を呼ぶと、エマは扉を勢いよく開き私の手を取って中へと引っ張り込んだ。

エマは一度廊下を覗くとキョロキョロ辺りを見渡し、誰もいない事を確認すると扉を閉めた。

私の方を振り向いたエマの顔は、青く見える。


「コウ、さっき僕見たんだ。

 ...その...コウの部屋で。」


部屋を覗いた事に気まずさがあったのだろう。

エマは言い辛そうにそう言った。


「ねえ、さっきのってエリルだよね?

 コウが言ってた事は、本当だったんでしょ?」


エマはどうやら先程、私の部屋で魔物になったエリルの姿を見たらしい。

エマの顔が青いのはその為か。


「うん...」


私は短く肯定の返事をした。


「じゃ、じゃあ皆んなに知らせないと。」


エマの言葉にズキン心の痛みが蘇る。


「皆んなが危ないんでしょ?

 だったら、エリルが魔物だって皆んなに...」


「やったよ!もう...やったよ。」


私は思わず言葉を強めてエマに言った。


「エマも見てたでしょ?

 さっき私は皆んなに言ったんだよ。

 でも...誰も信じてくれなかった...」


グッと拳を握り、俯きながら私はそう言った。

エマはハッとしたように息を飲む。


「...ごめん。」


「ううん、私の方こそごめん。

 エマが悪い訳じゃ無いのに大きい声出しちゃって。」


「船、降りちゃうの?」


「...誰も私が船に乗るのを許してくれないから。」


自傷気味にそう言って、私は弱々しく笑った。

エマはそんな私の手を取ると、もう一度ごめんと呟いた。


「あのね...コウ。」


何かを必死に考えるようにして、エマが言葉を紡ぐ。


「皆んなの事...捨てちゃう?」


そう言って私を見上げたエマは悲しそうに眉を下げた。

私はエマの手を握り返すと、首を横に振る。


「私は諦めない。

 きっと皆んなを...助ける。」


今まで一緒に旅をして来た皆を、見捨てる事など出来ない。

今は何も出来ないが、きっと皆を救う方法があるはずだ。


「コウ...」


エマは薄っすらと目尻に浮かんだ涙を、手の甲で拭う。

そして力強い眼差しを私へと向けた。


「僕もコウと一緒に行く。」


「いいの?」


「うん、だって僕がここにいてもできる事はないから。」


エマの目に本気なのだと知ることが出来る。

エマは自分の荷物を手早くまとめると、船を降りる準備をした。





甲板に行くと皆が揃っていた。

船は既に岸に寄せて止められていて、早く降りろと言われているようだ。


「ボートを出してやる。

 それで岸まで行け。」


ガロが冷たく言い放つ。


「いらない、これ位なら自力で行けるから。」


氷の魔法を使い水面を凍らせてしまえば、岸まで行けそうだ。

私は皆の横を通り過ぎると、水面に向かって氷の魔法を放つ。


「僕もコウと一緒に行くから。」


エマは私に続くと、皆に向かってそう言った。


「おい、エマいいのか?

 コウは...」


そこまで言ってアルは言葉を濁す。


「勝手にすればいい。」


ガロはそう言ったが、ガロの後ろではエリルが少し悔しそうな顔をしていた。

獲物が減ってしまうのが悔しい。

そんな顔だった。


「コウ、お前があんな奴だったとは思わなかったよ。」


ザイドが怒りを含んだ声でそう言った。


「何が聖女だ。

 コウにはガッカリさせられた。」


ヨルトは相変わらずの無表情でそう言う。


「コウはね、皆んな為に...」


皆の言葉に耐えきれなくなったようで、エマは振り返り言い返そうとする。

私はそんなエマの肩に手を乗せると、首を横に振った。


「エマ、いいから。」


ここでエマまでがエリルを魔物呼ばわりしたら、きっとエマも私と同じ思いをする。

エマにはそんな思いをして欲しくなかった。


エマは悔しそうに唇を噛み締めると、私の方へと向き直った。

風魔法を使い、船から氷の上へと降りる。

エマも同じように私に続くと、二人で岸へと向かった。


岸に辿り着くと、氷を溶かす。

もう船からは誰もこちらを見ていない。

氷が完全に溶けると、船は早々に動き出した。





「これからどうしよっか。」


船が見えなくなるとエマはそう言った。

私は荷物の中から地図を出すと、それを広げた。


「...この地図、どうしたの?」


「船にあったのを増殖してコピーした。」


エマは少し呆れた様子だったが、二人で地図を覗き込む。


「今いるのがここでしょ。

 で、この川から森に入るって言ってたから、陸地でここを直進すればこっちの方が早いと思うんだ。」


「でも、僕達は徒歩であっちは船だよ?」


「大丈夫だよ、身体強化の魔法をかけて行けば早く進めるし。

 それに船には鈍化の魔法をかけておいたから。」


私の言葉にエマは目を瞬かせる。

それからあはは、と声を上げて笑い出した。


「はあ、流石コウだよ。

 抜かりがないね。」


私達の作戦は既に始まっている。

うかうかなどしていられない。


「相変わらずの規格外。」


そう言って笑ったエマに釣られるように私も笑う。

規格外など、普段言われたら少しムッとしていただろう。

でも今はそれさえも居心地を良くさせる。

いつもと変わらないエマの言葉が、態度が私を安心させた。

エマが居てくれてよかった。

私は一人ではない。

それが心強かった。

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