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婚約者の思惑

エリルの姉が住んでいる森へは船で行く事になるらしい。

陸地で行くと、足元の悪い森の中を歩き続けないといけない。

起伏の激しい森は馬で行く事も難しいので、船で海から川へ入り森に行く事になった。

海に面したリセイアの王都からは直接船が出ている。

船の準備は既に済ませてあったようなので、すぐに乗る事が出来るそうだ。


「アルフォエル、ちょっといいか?」


自分達が乗る船を見ていた私達の所に、ガロがやって来て声を掛けた。

その後ろにはピッタリとエリルがくっついている。


「どうした?」


「あの、聖獣様の事なんだけどさ。

 ここに残って待っててもらう訳にはいかないか?」


ガロはアルの様子を探るようにそう言った。


「アミーをお置いて行けって事か?

 何故だ?」


「それがさ、エリルが聖獣様を怖がっちゃって。

 一緒に行くのが怖いって言うんだよ。」


エリルはガロの腕にしっかりと掴まり、怯えて見せる。


「アミーは人を襲ったりしないぞ。」


「いや、わかってはいるんだが動物も苦手なんだ。

 だから聖獣様にはすまないが、な?」


ガロ顔の前で手を合わせると、頼むよと小さく言った。

アルは困った顔でこちらをみる。


『仕方がないな。

 大丈夫だ、アミーには妾が付いておる。』


琴美は私にだけ聞こえるように声を潜めてそう言った。

困った顔のままのアルに私は頷いて見せる。

するとアルはホッとした表情になった。


「わかった、アミーにはここで待っていてもらう。」


「そうか、助かったよ。」


ガロはそう言ってニカっと笑う。

私はその後ろで、口元だけで笑うエリルを見てしまった。

エリルは何を考えているんだ?アミーを置いて行かせるのはわざとだろう。


『コウ。』


琴美が声を潜めたまま私に話しかける。


『あの婚約者には気を付けた方が良さそうだ。』


琴美も私と同じ意見らしい。

私は琴美に小さく頷き返事をする。


『あの者の霊気は何かおかしい。

 何がおかしいのかハッキリしないがな。』


「取り憑かれている?...訳でもなさそうか。」


『うむ、あれはあの者の意思だ。

 取り憑かれてはいないだろうな。』


エリルの事が引っかかるが、何がおかしいのか明確にはわからない。

これでは手の打ちようがない。


「気を付けて見てみるよ。

 じゃあ行って来るね。

 アミーをよろしく。」


『ああ。

 アミーも気を付けるように言っておるぞ。』


「うん、ありがとうアミー。

 琴美もありがとね。」


私はアミーにギュッと抱き付くと、頭を撫でた。

アミーは喉を鳴らしている。

きっと私を心配してくれているんだ。


「コウ、そろそろ出発だって。」


エマに呼ばれて私は船へ向かう。

アミーと琴美に見送られながら、私は船に乗った。





船に乗ってからも私はエリルの様子を探っていた。

エリルはガロの目を盗んでは、アルやヨルトにちょっかいを掛けている。

いまだにエリルが何をしたいのかわからない。

エリルの姉の元に、アル達が行くように仕向けたのはエリルだ。

そこに何があるのか。

何故アル達も行く必要があるのか。

わからない事だらけだ。


「コウ様?先程から黙ったままですが、具合でも悪いのですか?」


エリルに顔を覗き込まれ、そう声をかけられる。

エリルの整った顔が目の前にあった。


「い、いや大丈夫です。」


そう言ってエリルから顔を背ける。

するとエリルはコロコロと鈴を転がした様に笑った。


「コウ様は照れ屋さんなのですね。」


そんな事を言いながら、エリルは楽しそうにもう一度私の顔を覗き込んだ。


「あまりうちの聖女様を苛めないでくれ。」


エリルの後ろからアルが声を掛ける。


「聖女様?」


エリルは振り返り、アルに聞き返した。


「コウは聖女だ。」


アルの言葉にエリルは目を丸くする。

そして次の瞬間にはまるで興味が失せたかの様に、冷めた表情をこちらに向けた。


「コウ様は聖女なんですか。」


「はい...。」


エリルは冷たい表情のままふーんと言うと、そのまま立ち去ってしまった。

私はあまりの変貌ぶりに呆気に取られる。

よくあそこまで、あからさまに態度を変えられるものだと感心さえする。


「コウ、大丈夫か?

 顔色が悪いぞ。」


アルは心配そうにそう言ったが、エリルの豹変ぶりには何も思わなかったのだろうか。


「大丈夫、少し疲れたのかも。」


私はそう言ってアルに笑顔を見せた。

なんだろう、エリルだけじゃない。

何かいつもと違う。

違和感はあるのに、何が違うのかはっきりわからない。

私は正体不明の違和感に、昨日の嫌な予感を思い出した。





私がはっきりとした異変に気付いたのは、ヨルトを見た時だった。

船での旅が始まって、2日目の事。

明らかにヨルトとエリルが仲良くなっている。

ヨルトだけではない。

元々、綺麗な女性が好きな節があったザイドもそして...アルも。

その中でも一番変化がわかりやすかったのがヨルトだ。

別に仲が良くなる事が悪い事ではない。

だた少し異様に感じるのだ。

皆がエリルに惹かれていってる。

そんな感じだった。


最初はエリルに気を使う程度でしかなかった。

私や琴美を除けば、魔王封印の旅で女性が旅を共にする事はこれまでなかった。

私は女性扱いされる事はほぼ無かったし、琴美も然りだ。

だからそれは理解できる。

女性に気を使っていたのだと。


でも今は違う。

皆が必死にエリルの気を引こうとしている。

まるで女王蜂の様に振る舞うエリルを誰も不審に思わず、皆が働き蜂になっているのだ。


「ねえヨルト、どうしちゃったの?

 なんか変だよ?」


「そんな事ない。

 ...それよりそこを避けてくれないか?

 エリルが果物を食べたいって言ってたんだ。」


そう言ってキッチンへ入って行くヨルトの背中を見送る。


「アル、皆んな様子がおかしいよ。」


「何言ってるんだ?

 どこもおかしくないだろ?」


「エマ?」


「...」


「ザイド。」


「ワシは忙しいんだ。

 エリル...エリル...」


気付くのが遅すぎた。

皆がエリルに何かされている。

ずっと一緒にいたのに、何故こうなるまで気付けなかったのか。


私はエリルに確かめる為、エリルの部屋へ向かった。

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