空を飛びたい。
本当に異世界にきてしまったことをどこかも分からぬ森の中で確認したところで、その場に胡座をかき座り込み、これからの行動を考える。
(まず、こういう時のテンプレは大きな街に行くことだよな)
大体はそこで装備を整えたり、冒険者登録をしたりするものだ。そう言うことができなくとも、人が多くいるため、自分が今いる世界の情報をそれなりに得ることができる。
「つってもそもそもここがどこかもわかんないんだよな。空を飛べたら楽なんだけどな」
空を飛ぶ→翼をください→鳥→ハト?
(あ、そういやハトがいたな。ハトにつかまって空を飛ぶとかできねえかな? 異世界だし)
異世界ならなんでもできそう(異世界あるある?)。
「ハトさん、こっちに来てくれないか?」
近くの木の枝に止まっているハトを見上げ、そう呼びかける。
(って、通じるわけねぇか)
当然自由気ままな動物であるハトが人の言うことに従うわけないと思ったその時。バサッ、と音がしたかと思えば頭にズッシリとした重さがやってきた。
「おおっ!?」
頭の上に乗ったのはさっきまで木の枝の上にいた白いハトだった。
(まさか、通じたのか? さすが異世界!!)
ハトが言うことに従うと分かれば、やることは一つ。
「よし、じゃあ俺を周りがある程度見渡せるくらい上まで運んでくれ」
そう頼んで、陽太は立ち上がり、ハトの足につかまる。ハトは羽を広げ、飛び立とうとする。
だがしかし、
(ダメだ、飛ばねえ)
バサバサバサ!!ハトはその場で苦しそうに羽をバタつかせるだけだった。サッカーボールほどの大きさのハトが20代後半の平均的な体格をした陽太を持ち上げることなどできるわけがない。この事実は異世界でも変わらないようだった。
「くっそ、どうすんだよ!! 道がわからないまま森を突き進むしかねえのか!? てかなんで森スタートなんだよ!! だったらせめて地図ぐらい持たせろよ!!」
地図がないこの状況で森を歩けば遭難間違いなしである。今も絶賛遭難中ではあるのだが。
(待てよ? もしかしたらマップスキル的なものがあるのかも。よし)
「出でよ、マップ!!」
......。何も起きない。
「出でよ、地図!!」
......。何も起きない。
「なんなんだよチキショー!!」
その場でヤケクソに地団駄を踏む。
(やばい、詰んだよこれ)
お先真っ暗な展開に途方を暮れる。
「いやまだだ。こういう時は何かしら役に立つチートスキルってやつを持ってるはずなんだ。そんで、スキル確認の定番といえば」
異世界転移の十八番と言っても間違いないであろう、あれである。
「ステータス、オープン!!」
......。何も起きない。
「もういいよ!! なんなんだよこのクソゲーは!! せめて街くらいは行かせてくれよ!!」
誰もいない森に陽太の悲痛の叫び声が響き渡る。これに答えてくれるのは、誰もいない。
「はあ、仕方ない。歩くか」
結局ハトやらスキルやらに頼ることは諦めて、陽太は右も左も東も西も分からぬまま頭の上にハトを乗せ、森を突き進むのだった。