陽介、荒れる
「陽介!! しっかりしてください!!」
突然放心状態になった陽介にクロードは大声で呼びかける。
「陽介!! っ!?」
突然、陽介がクロードにつかみかかる。
「急にどうしたんですか陽介!!」
「てめえか!! てめえがホワンを!! ホワンを殺したのか!?」
ほんの一日程度だが深い友情を育んだ相棒の、死。それは陽介を正気ではなくさせるには充分であった。
「落ち着いてください!! ホワンとは誰のことですか!?」
突然自分に怒り出した陽介に説明を求めるクロード。
「さっきのハトだよ!! 白いハトだ!! 俺の相棒だ!!」
「ハト? もしかしてさっきの魔物のことですか?」
「魔物じゃねえ!!」
「なっ!? まさか人間が変化した姿だったんですか!?」
「ちげえよ!! そうじゃねえ!! ハトだ!! 俺らと同じ"動物"だ!!」
「動物? なんですかそれは?」
この世界に動物という定義はない。だからクロードは陽介の言葉を理解できない。
「は? お前、本気で言ってんのか?」
だが、今の陽介にはクロードがただふざけているようしか思えない。今陽介を動かすのは相棒の死によって生まれたドス黒い感情。
「ええ、本気です。とにかく落ち着いてください陽介。さっきの白い何かはあなたの仲間だったということですか?」
「そうだってさっきから言ってるだろ!!」
クロードはその言葉に少し黙る。
「......申し訳なかった」
そして、深々と陽介に向かって頭を下げた。
「謝って済む問題じゃ」
「落ち着けよおっさん」
まだ怒りが収まらない陽介にそれまで傍観に徹していた少年ソラトは声をかける。
「こいつもあんたを守ろうとしてやったことだろ? しょうがねえことなんだよ」
「死んだことに対してしょうがねえはないだろ」
瞬間、ソラトは叫ぶ。
「しょうがねえんだよ!! この世界は弱肉強食が当たり前!! 力がなければ死ぬ。当然だろ? おっさんがどこから来たか知らねえけどよ、平和ボケしすぎじゃねえか?」
「っ!?」
そう、ここは陽介がもといた世界のようにそれなりの安全が保障された世界ではない。魔物が常に近くに存在している世界。つまり、常に死と隣り合わせの世界。
改めて自分がどういう場所に来たのか思い知らされる陽介。
「そこまでだ、少年。理由はどうであれ僕が陽介の仲間を殺めたのは事実。それは僕の責任だ」
ソラトを諫めるクロード。
「そういうのがぬるいつってんだよ!! 死ぬ覚悟もねえ奴はずっと家に篭ってやがれ!!」
「少年」
陽介の態度が気に入らず怒りが収まらない様子のソラトを再びクロードが諌めようとしたその時、
「グルアアアアアアアア!!」
「「「!?」」」
どこからかそんな雄叫びが聞こえた。