8 苺味のキス
「あっ そろそろ時間じゃね?」
腕時計で確認すると電車の時間まで後5分。
「うん。もう、行くね」
そう口にしながらも改札口に向かおうとはしないすず。
俺が「また後でね」と言うと「うん、またすぐね」と彼女は小さく呟いた。
それを見てちょっと不満そうな表情を見せるすずの頬に、俺は人差し指を押し当てる。
「何?」
「ぷにぷにして気持ち良さそうだったから、つい?」
「もう、慶のバカ!」
彼女はふくれっ面を見せると、改札口に向いて歩き出した。
やっぱり怒った顔したすずは可愛い。
「すず、放課後ここで待ってるから。絶対待ってるから」
改札を通り抜ける彼女の後姿に声を掛けると、すずは後ろを振り向き笑顔で「うん!」と頷いて小さく手を振りホームへと消えていった。
毎日彼女をここで探していたのが嘘みたいな幸せな朝。
ニヤケそうになる顔を必死で隠し歩き出すと、改札を抜けた先に怪訝な顔した聖が立っていた。
「おう、おはよう聖」
「今の何?」
「は? 何が?」
「何がじゃねぇよ。何で彼女と一緒にいたんだよ。しかもイチャイチャしてた」
「イチャイチャって......。まぁ 色々あって」
「告ったのか?」
「まぁ そんな感じ」
「お前ふざけんなよ! 金曜日学校休んだから、ショックで落ち込んでんのかと心配してたんだぞ」
「じゃあ電話くらいしろよ」
「......デートで忙しかった」
「そんな事だと思ったよ」
俺の言葉に苦笑いを浮かべながら「でも、良かったな」聖はぽつり呟いた。
「お前のおかげだよ。ありがとうな」
照れくさくて素っ気なくお礼を言うと「おぅっ」聖も何だか照れたように小さく頷いて返事を返してきた。
そして待ちに待った放課後。
こんなにも放課後になるのが待ち遠しいと感じたのは初めてで、俺はHRが終わると急いで駅に向かった。
改札口前でソワソワしながら彼女を待っていると「慶一 お前急いで帰ったのに、何でまだここに居んの?」とクラスメイトが話しかけて来た。
「えっ まぁ、ちょっと人待ってて」
「なに何? お前彼女でも出来たの?」
興味深々で問いかけてくる友達に「まぁ......そんな感じ?」俺はちょっとだけ見栄を張って答えた。
【付き合って下さいって、ちゃんと言わないとな】
帰って行く友達に手を上げると、ホームに続く階段を駆け下りてくるすずの姿が目に入った。
「慶!」
笑顔で手を振る彼女に応えるように手を上げると、彼女の後ろの方で友達がニヤニヤと笑っている。
だから俺は思いっきり友達にピースサインをして見せた。
「えっ 何?」
驚いて後ろを振り向くすずに「友達がいたからピースしただけ」と答え「これからどうする?」と問いかけると「公園に行こう」と彼女は駅向こうを指差した。
「公園でいいの?」
「いいよ。慶はイヤ?」
「俺もいいよ。ってか、すずと一緒ならどこでもいい」
俺がそう言うと彼女は嬉しい様な照れくさい様な何とも言えない可愛い笑顔を見せながら「じゃあコンビニでアイス買って、公園に行こう」と言って、俺の手を握って来た。
駅前の大通りから一本中に入った所にある大きな公園。
その中にある木で造られたガゼボのベンチに俺達は腰を下ろして、買って来たアイスを二人並んで食べ始めた。
「すずは苺が好きなの?」
「うん。慶はバニラがいいの?」
「俺は結構甘いもの好きだから、何でも好き」
「あたしはこのシリーズが好き。中でも苺が一番」
カップのアイスをスプーンで掬いパクッと口に運んだすずの唇に、苺のアイスがちょっとだけ付いている事に気がついた俺は「それ俺も味見していい?」と問いかけ「うん。いいよ」と言ってカップを差し出す彼女の唇にキスをした。
びっくりして俺の顔を見詰めるすずに「アイス付いてたから味見した。ってか急にごめん」と謝ると俺は手にしているアイスを口に運んだ。
小さく首を横に振るすずの顔は真っ赤で、ドキドキを隠せないでいる。
でも正直、ドキドキしているのは俺の方。
だって、まさか自分がこんな行動に出るなんて思ってもみなかったから。
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