7 どんな夢を見てる?
本日2話目の投稿です。お気を付け下さい。
その日の夜、俺は月曜日の待ち合わせ場所を決める為に彼女にメールを送った。
しかし待ち合わせ場所が決まっても俺達のメールが途切れる事はなく、結局部屋の電気を消したのは0時を2時間ほど過ぎた頃だった。
幸せな気持ちで眠りに就くと、直ぐに俺はいつもの夢を見始めた。
だけどその夢は今までと少し違っていて、俺にギュッと抱きついてくる彼女の名前を呼ぶと、すずは顔を上げ嬉しそうに微笑んだ。
「慶!」
零れそうな笑顔を見せたのは、間違いなく鈴音だ。
そっと瞳を閉じてキスをせがむすずの唇に、俺は小さなキスを落とした。
物足りないって顔を見せる彼女の唇が艶を持ち、俺は引き寄せられるようにまた唇を重ねる。
何度も繰り返す優しいキスが少しずつ熱を持ち始めると、俺はすずの首に顔を埋めてゆっくりと味わうように舌を這わせた。
甘い吐息を漏らせ、可愛い声で俺の名前を呼ぶすず。
彼女の指が俺の頬に触れた瞬間、俺はハッと目を覚まして飛び起きた。
「夢?」
自分に呆れ頭を抱えながらベッドに寝転がり、彼女の肌の感触が残っているような気がしてそっと唇に触れてみる。
【そりゃ、キスしたいなぁと一瞬思ったけど、こんな夢みるか?
キスなんてしたことないのに、何で感触なんてわかんだよ。
なんか俺、欲求不満みてぇじゃんか!】
俺は恥ずかしい様な、情けない様な気持になりながらも、夢の途中で目が覚めた事をちょっと残念に思ったりもした。
【すずは今、どんな夢を見てるのかなぁ】
月曜日の朝、俺はいつもより30分早く家を出てすずと待ち合わせている駅に向かった。
俺の学校とすずの家があるこの駅が俺達の待ち合わせ場所。
改札口を抜けた先、タクシー乗り場が傍にある小さな広場で待っていると、暫くして彼女がやって来た。
俺を見つけて慌てて駆け寄って来るすず。
「慶、おはよぅ」
「おはよう。別にそんな走らなくていいのに」
「だって、嬉しかったんだもん」
ストレートな彼女の言葉に笑みが零れる。
「何分ぐらい一緒にいられる?」
「10分の電車に乗れば間に合うから、25分くらいかな」
「今度はちゃんと時計見とかないとな」
俺がそう言うと彼女はクスリと笑って「そうだね」って呟いた。
多くの人が行き交う駅の片隅で、俺達は互いの思いを確認するように言葉を交わしていた。
「あのね、また慶の夢見たよ」
「どんな夢だった?」
「......言わない」
顔を赤らめながらも嬉しそうに微笑むすず。
【もしかしたら、彼女も同じ夢見てたのかな?】
「俺も見たよ。すずの夢」
「どんなの?」
「ん? 言わない」
「もう、何それ」
ちょっとふくれっ面の彼女が、一段と可愛い。
そしてすずと話し始めて10分くらい過ぎた頃、俺達の近くに自転車が止まり「鈴音、お前は何やってんだよ」と少し苛立ったような声で話しかけてくる奴がいた。
金曜日に会った、すずの幼馴染だ。
すると彼を確認したかと思うと、すずはプイっと余所を向いた。
「何で先に一人が出掛けたんだよ。先に行くのは先週だけだって約束だったろ?」
「もう雄ちゃんとは一緒に学校行かない。毎日電車で通うからほっといて」
すずは彼の顔も見ようとはしない。
「すず、無理してるんだったら俺はいいよ。放課後も会えるんだし......」
俺がそう言うと「無理なんてしてない。慶は会いたくない?」彼女は不安そうに俺を見詰めて来た。
「そうじゃないよ。ただ......」
「それに雄ちゃん何て嫌い。パパに言い付けたりして。
雄ちゃんのせいで、パパに怒られたんだからね」
「それはお前が無断で学校休んだりするからだろ」
「わざわざ言わなくてもいいじゃない」
「言った訳じゃなくて、一緒に帰らなかったからバレたんだろ」
困った様子の彼の言葉で、今まで二人がどれだけ同じ時間を過ごして来たのかが分かり、俺は居た堪れない気持ちになった。
「兎に角これからは電車で行くから、雄ちゃんとは一緒に行かないから。
ほらっ早く行かないと雄ちゃんは自転車なんだから遅れるよ」
早く学校に行くように促す彼女に「今日はちゃんと学校来いよ」彼はそう言うと俺の顔をチラリと横目で見て、自転車のペダルを踏み込んだ。
「やっぱり怒られたんだ? 俺のせいでごめんな」
「慶のせいじゃないよ。嫌な思いさせてごめんね」
「別に嫌な思いなんて......。それより、いつも彼と登下校してるの?」
「学校同じだから、パパが一緒に行けって!
雄ちゃん、あたしよりパパに信用されてるからね。ホント嫌になっちゃう」
【って事は、俺はすずの父親からしたら最悪な奴って事か】
思わず溜息を漏らせると「あっ 慶の事はパパにバレてないよ」すずはそう言って微笑んだ。
それはそれで彼女に申し訳ない気がした。
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