6 懐かしい温もり
「あのさぁ ひとつ聞いていい?」
「なあに?」
小さく首を傾げて俺を見つめるすず。
その表情が余りにも可愛くて、俺は一瞬何を聞こうとしたのか忘れそうになった。
「えっと、...あっ いつも一緒にいる男の人って誰?」
「雄ちゃんの事かな? 雄ちゃんは幼馴染のお兄ちゃんだよ。
それがどうかしたの?」
「すずは、その......ゆうちゃん? ってヤツの事どう思ってんの?」
俺の質問に頭の上に疑問符を浮かべるすず。
「どうって?」
「だから、好きとか......」
「うん、好きだよ。優しいし、本当のお兄ちゃんみたい」
【好きってどう言う意味だ?】
心臓がバクバクする。
「それは特別な意味?」
「特別? 男の人としてって事?」
俺は小さく頷いた。
「それはない。雄ちゃんと10年以上一緒にいるけど、そんな風に思ったことないし。
友達にも良く聞かれるけど、そんな風に見えるのかな?」
「いや、すずを見掛けた時はいつも一緒だったから、彼氏なのかなぁって思ってた」
「彼氏いたら、あなたの事こんな風に探さないよ」
顔を赤らめ小さな声で恥ずかしそうに呟くすず。
彼女の言葉を聴いてホッとはしたけれど、彼のすずを見つめる優しい眼差しには意味があるような気がする。
この時ばかりは自分の勘が外れることを俺は願った。
「佐久間くんは、彼女いないの?」
「俺? いたらすずの事探さないでしょ!」
見詰め合ったまま二人クスッと笑い合い、彼女はずっと掻き回していたアイスティーに口をつけた。
ストローに触れた唇がぷっくりとしていて艶やかで、触れてしまいたい衝動に駆られてしまう俺。
咄嗟に彼女から視線を逸らし、少し冷めたコーヒーを口にして忘れていた苦味に驚き一人苦笑いをした。
二人で話していると、今日初めて言葉を交わしたとは思えない程直ぐにお互い打ち解け合い、気が付けばすずも俺のことを「慶」と呼ぶようになっていた。
その言葉の響きが心地よく、もっと呼んで欲しいとさえ思ってしまう。
優しく囁く様なすずの声。
少しくすぐったさを覚えるようなその声が、俺の心を甘くさせる。
結局俺たちは出会うまでの時間を埋めるように、何時間も二人で話し込んだ。
気が付けば学校も終わり、外は薄暗くなり始めている。
すずの家の最寄り駅、つまり俺の学校がある駅まで電車で一駅。
彼女を送って行く途中の満員電車の車内でも、俺達の会話が止まることはなかった。
「ごめん。結局学校サボらせちゃったな」
「ううん。慶のせいじゃないよ」
「俺が引き止めたからだし」
「そんな事ない。あたしが慶と話したかったからだもん」
ハッキリと思いを言葉にして伝えたわけではないけれど、互いに感じる相手の思い。
俺を見上げて恥ずかしそうに微笑む彼女を、今すぐ抱きしめてしまいたい。
その時急カーブに差し掛かり、ガタンと電車が揺れてすずが俺に寄り掛かってきた。
「ごめんねっ!」
謝る彼女を俺はそっと抱き寄せる。
ちょっと驚いた様子のすず。
だけど黙って俺に寄りかかったまま、彼女は嫌がる素振りを見せない。
満員電車で良かったと思ったのは初めてだ。
自分の腕の中で感じる温もりが懐かしいと感じるのは何故だろう。
どうしてこんなにも彼女の事が愛しいのだろう。
最寄り駅から彼女の家までの道。
少しでも長く一緒にいられるように、俺たちはゆっくりと歩きながら帰った。
もちろん彼女と手を繋いで。
「月曜日も会えるかな?」
俺がそう問いかけると「うん!」すずは嬉しそうに大きく頷いた。
「いつどこで待ち合わせる?」
「授業何時間?」
そんな会話をしていると、彼女の家の前に到着。
「もう着いちゃった」
彼女が残念そうに呟いた時、すずの家の玄関ドアが開きあの雄ちゃんという幼馴染が飛び出して来た。
「鈴音!」
彼女に駆け寄り心配顔で「お前今日学校来なかっただろ! 何やってたんだよ」怒り気味に問いかける彼。
そして咄嗟に繋がれた手を離し「心配掛けてごめんなさい」と彼女は直ぐに謝った。
「お前が鈴音を連れ回したのか?」
俺を睨み付ける彼に「違う。彼は送ってくれただけ」彼女はそう言うと慌てて家の中に入ろうとした。
その様子に不安を感じる俺。
【俺との事知られたくないのかな? マズイ事あんのかな?】
だけど彼女は帰ろうとする俺を呼び止めて「慶、月曜日ね。帰ったら絶対にメールしてね」と微笑みながら手を振った。
その様子を見て、益々俺を睨み付ける幼馴染。
どうやら俺の勘は間違ってなかったらしい。
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