2 一目惚れ?
視線がぶつかったままお互い言葉を失っていると「お前は何やってんだよ」そう言って彼女の頭をポンッと叩いて優しく微笑みかける男が現れた。
胸の奥がズキンと痛む。
その間も俺の頭の中では【すず? すず?】と彼女に呼びかけるような男性の声が聞こえる。
掴んでいた彼女の腕を離し「こっちこそ、ごめん」もう一度謝ると、その女の子が「あの......」何かを言いかけた。
だけどそれを拒み「ほらっ早く行かないと学校遅れるぞ」男は彼女の腕を掴んで強引に歩き始め、後ろを何度も振り向き何か言いたそうな表情の彼女を、俺は呆然と見送った。
「おいっ! 慶一? 慶一?」
聖の声に驚いて振り向くと「早く行かないと俺たちも遅れるぞ」そう言われ、先に歩き出した彼の後を俺も歩き出す。
【彼氏......かな? やっぱ、そうだよな】
溜息をつくと胸の奥の痛みが増し、俺はどうしようもない苛立ちに包まれた。
気が付くと一日中、名前も分からない彼女のことばかり考えている。
一緒にいた男が恋人なのか、彼女の名前は『すず』なのか。
俺の夢の中に出てきた相手は彼女なのか......。
そして何よりも、彼女は俺に何を言おうとしたのだろうか。
この胸の奥で感じている痛み、せつなさ、そして愛おしさは何なんだろう。
あの時、直ぐにでも抱きしめたいような衝動に駆られたのは、何だったんだろう。
「慶一? け~いちゃん!?」
頭の上から聞こえる声に顔を上げると聖が「お前朝から変じゃね?」と俺を見下ろしながら問いかけてきて「あれ? HRは?」聞き返す俺に「もう終わった」そう言って苦笑いを見せた。
「お前今日ずっと上の空だろ! 何を聞いても空返事ばっかりだしよ」
「そんな事......ねぇよ」
「ある!」強く言われると否定できない。
「ごめん」
ポツリと謝ると「お前が変なのは朝言ってた空耳が関係あるのか?」心配顔で問いかけて来る聖。
「そう言えば、あの後声聞こえなくなったな。どうしてだろ?」
首を傾げる俺を見て「あの後って?」彼も一緒に首を傾げた。
「あのさぁ・・・お前一目惚れってした事あるか?」
「一目惚れ? そんなの毎日」ニカッと笑いふざけて答える聖。
「......お前に聞いたのが間違ってた」
「ちょ、ちょっと......冗談だって!
何、お前一目惚れしたの? 今朝のあの子に?」
「いや、そういう訳じゃなくて。ちょっと聞いてみただけだよ」
鞄を手にして椅子から立ち上がると「お前、ちゃんと話せよ」文句を言いながら付いてくる聖に「聞いただけだって言っただろ」そう言って俺は教室を出た。
一目惚れ...そう言われたらそうなのかもしれない。
だけど何かが違うんだ。
今日始めて会ったのは間違いないのに、どこか懐かしいような、探していた人にやっと出会えたような、失くした宝物を見つけたような......そんな気持ちなんだ。
だけど、この気持ちを友達に言っても分かってもらえる訳がない。
俺だってわからないのに。
結局は一目惚れしたって事なのかなぁ?
そしてその日の夜、俺はまたあの夢を見た。
夢の中の『すず』と言う女の子は俺のことを『けい』と呼び、俺は彼女の膝枕でうたた寝をしている。
優しく髪を撫でられ、愛おしいその声で何度も俺の名前を呼ぶすず。
だけど夢の中の俺は幸せな時間の中で彼女への愛を確認しながらも、言いようのない不安と絶望を感じていた。
この矛盾した思いは何なんだろう。
それに、この感情にどこか覚えがあるような気がするのは何故だろう。
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