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28 雄ちゃんなんて大嫌い

本日2話目です

 昼食を食べ終わりすずがうどんの入っていた器をキッチンで洗っていると、仕度を終えたお母さんが「じゃあ、慶一くん鈴音をお願いね」と俺に声を掛けてきた。


「はい。楽しんできてください」


「ママ、お土産買ってきてね。いつものヤツ!」


 ニコニコと嬉しそうに言うすずに「ホントにあのお店のケーキ好きなのね」お母さんは安心したように呟き、夕方には帰ると言葉を残して家を出て行った。


「そんなに好きなケーキあるの?」


「うん。いつも同じお店のケーキ買って帰ってくれるんだ」


「それだけ食欲出たなら大丈夫だな」


「慶心配し過ぎ。もう大丈夫だよ」


 そう言うとすずはそっと抱きついて来て、俺を見上げて嬉しそうに微笑んだ。


「そんなにケーキ食べたかったの? 言えば買ってきたのに」


「......どうして?」


「いや、だって嬉しそうだから」


「嬉しいのはケーキじゃなくて、慶と二人きりになれたからだよ」


【......だからミサイル打ち込むなっつうの!】


 俺は溜息を漏らしてすずを体から離した。


「慶?」


「えっと......あっアルバム。アルバム見せてよ」


「アルバム?」


「この前来た時見れなかったから、アルバム見たい」


「......うん。分かった」


 シュンとした表情で答えるすずを見て、胸が少しだけ痛んだ。


 だけど俺を信用してくれたお母さんを、裏切るようなことはしなくないって思ったんだ。


 部屋に戻りアルバムを取り出すと、床に座っている俺の隣に腰を下ろすすず。


 手渡されたアルバム中にいる、幼い頃の彼女。


 その隣には、いつもあいつがいる。


【ホントにずっと一緒にいるんだな】


 消えたはずのヤキモチが頭をもたげた時、俺の肩にコツンと頭を乗せ「ねぇ慶?」彼女が問いかけてきた。


「なんで冷たくするの?」


「......冷たくしてるつもりないよ。どうして?」


「だって抱っこもチューもしてくれない。

 ママがいるから、ダメだったんでしょ?

 なのにママいなくなっても、抱きしめてもくれないよ」


「それは......」


 ミサイル攻撃に耐えた俺の理性を、今度は素手で壊しにかかるすず。


 少しずつ、でも確実に壊されていく。


「もっと触れたいって思ってるのは、あたしだけ? 慶は違うの?」


 涙目で見詰めてくる彼女の言葉に、俺は息を呑んだ。


「あたしばっかり慶が好き? 慶はそうでもない?

 それとも、あたしがやらしいのかな?」


「違うよ。そういう事じゃなくて......」


「何が違うの? わかんないよ」


 俯いた彼女の手の甲に涙が零れ落ちると、俺はすずをそっと抱きしめた。


「俺だって触れたいって思ってるよ。これでも一生懸命我慢してんだぞ」


「どうして我慢するの? ママいないのに......」


「それは......すずの体心配だし......。それに」


「それに?」


「信用してくれたお母さん裏切るみたいで......。

 ゆっくりでもいいかなって思って」


「あたしはイヤだ! ゆっくりなんてイヤ!

 体だって大丈夫だし、ママはあたしが幸せならそれでいいって言ってくれたもん」


 彼女の言葉に黙り込むと、すずは俺にそっと抱きつき耳元で「慶、大好き。慶は?」と問いかけてきた。


「大好きだよ」


「嬉しい。ねぇ慶、エッチしよ」


 生暖かい彼女の息が耳にかかる。


【耳元でそんな事言うなよ】


 慌てて彼女の体を引き離そうとすると、すずは俺を見上げてもう一度「エッチしよ」と囁いた。


 彼女によって打ち込まれた最終兵器は、俺の理性を木っ端微塵に吹き飛ばす。


【あ~!! もう、どうなってもしんねぇ。

 この状況で耐えろって方が無理だろ】


 覚悟を決めグイッと彼女を引き寄せ唇を重ね合わせると、それを待っていた唇がそっと開かれ、誘われるままに俺は彼女と舌を絡めあった。


「したくなった?」


 意地悪く質問してくるすず。


「ずっとしたかったつぅの!」


「もう我慢しない?」


「......出来ません。もう無理です」


 俺の完敗。


「やったぁー!」


【普通反対だろ?】


 そう思ったら、ちょっと可笑しくなった。


「どうして笑うの?」


「可愛いなぁ......と思って」


 照れくさそうに笑うすずにキスをすると、俺は彼女をゆっくりと床に押し倒した。


「慶」


 甘えた声で俺の名前を呼ぶ彼女の耳元に唇を寄せると、すずの体が小さくピクンと弾けた。


「やっぱりくすぐったい?」


「ちょっと」


 彼女の首に掛かる髪の毛をそっと掃うと、あの日触れた瞬間にめまいを起こした二つの赤いアザが顔を出した。


 戸惑いを感じながらも引き寄せられるように唇を押し当てると、あの時とは違う感覚が俺を包み込んだ。


 何よりも大切で、誰よりも愛しい温もり。


 懐かしくて愛しいその温もりが、遠い記憶を思い出させる。


 あの時、俺は確かに幸せだった。


 悲しみと絶望の淵に立ちながら、それでも俺は幸せな日々を過ごせたことを。


 前世の俺は、決して不幸なんかじゃなかったと......。


 二人の絆を表すアザに何度もキスを繰り返していると、彼女の口から甘い吐息にも似た声が漏れ始めた。


 その声にゾクゾクとした快感を覚えると、俺は彼女の胸の膨らみに手を添え、潤んだ瞳のすずにもう一度キスをした。


「大丈夫?」


「うん」


 また彼女の首元に顔を埋めTシャツの裾からそっと手を滑り込ませた時、バタンというドアが閉まるような音が聞こえ、俺はその動きを止めた。


「慶......どうしたの?」


「なんか音がした」


「音?」


 彼女が不思議そうに問い返してきた時「鈴音 いるんだろ?」一階からあいつの声が聞こえて来た。


 あいつとは、もちろんすずの幼馴染の雄一だ。


 慌てて体を起こし二人離れると、部屋のドアが開き「いるなら返事しろよ」と言いながら幼馴染が入ってきた。


 その彼にすずが一言


「雄ちゃんなんて大嫌い!」


 意味が分からずキョトンとした表情のあいつを見て、俺は思わず噴出して笑った。


 やっぱり、まだダメって事なのかなぁ。

  




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